宇宙人ヤルダバオート
「無事か邪王!?」
神王と魔王に身体を支えられる。
「身体が痺れて熱い……。こんな感覚は生まれて初めてだ……」
「そりゃそうですよ。聖剣なんですから」
レオンの眷属になった少女は、短剣を指でなぞり、ぽつぽつと語る。
「私は珍しい聖力の持ち主。貴方の天敵です。今世も前世も。貴方を前世で倒した敵の子孫ですよ、私は」
少女は目をギラギラと輝かせて、真実を告げる。
鬼山怜音を殺した妖の子孫。
つまり、この子も妖ということか。
だが、彼女からは妖の力は感じない。
聖剣なるものを持つ妖も存在しない。
妖の持つものは、妖刀だ。刀でなく、炎や氷を直接操る者もいるが。
ならば、一体彼女の正体はなんだ。
先ほどの騒ぎで城下町がざわついてきた。
商人達が心配そうに目を向けてくる。
「お前はアメリカ人留学生じゃないのか」
「入れ替わったんです。私は宇宙人です。アメリカには、貴方が来ると思って、ずっと待っていたんですよ?」
お茶目にウインクしてみせる、宇宙人の少女。
腹に手を当ててみて治癒を試みるが、傷の治りが遅い。
聖剣は邪王レオンにとって、毒なのかもしれない。
「あ、眷属になると、自分にも少しダメージがくるんですね。わかりやすいシステムです」
宇宙人の少女がふらついた。
「僕らの知っている彼女は既に……亡いんですか!」
交換留学生の男子が、宇宙人の少女を責めるように問い詰める。
「私は日本人でもありませんよ。生まれも育ちも宇宙です。貴方がたの知っている彼女など、初めからいません。私が存在ごと食い尽くしました。宇宙最強は邪力ではなく、聖力でしょう」
得体の知れなさが気味の悪い、宇宙人の少女。
腹の中が見えない。
「そうですね。ヤルダバオートとでも呼んでください」
地球を監視する神の名と噂されている呼び名を告げた。
明らかに偽名。
「ほんの暇潰しでしょう。私と邪王である貴方との同盟……いいえ、血盟を結ぶことは」
宇宙はまだ謎が多い。
一般人が宇宙のすべてを知ることは困難。
だが、宇宙人ならば、宇宙を旅してきた者ならば、魔王の知的好奇心を満たしてくれるかもしれない。
レオンは刺された傷を癒やし、塞いだ。
そして彼女の頬をひっぱたいた。
「……あれ? それだけでいいんですか? 私は貴方の仇同然ですよ?」
ヤルダバオートは面食らった顔をして、もっとめちゃくちゃにしろと言い出す。
「確かに。だがここで本気を出せば、周りが巻き添えを食らうことになる」
だからビンタ一発でこらえた。
「邪王だなんて言うから、どんな悪い奴かと思えば。名前が相応しくないですよ。私は聖力で悪い奴を倒そうと思ったのに。勇者ですよ、勇者」
これ以上何もさせないように、神王と魔王がヤルダバオートを取り押さえた。
レオン達の突然の騒ぎで、商いをしていた者達も慌てだした。
三王の正体がばれる。




