プロローグ 鬼山怜音の死と転生
「僕は人間が好きだよ」
そう口にした青年は、人間の裏切りによって殺された。
敵対する妖の奸計で。
年端もいかない少女を庇って死んだ。
金髪緑目のアホ毛の生えた、身長百七十七cmの好青年。
赤い着物と自分の銘を入れた太刀がトレードマーク。
人間と妖の間に生まれた、鬼山家の長男、怜音。
まだ妖として覚醒してはおらず、強い人間として生きていた。
生まれは極道。鬼山家は悪を裁く拷問一家で、悪から恨みを買うような家柄だった。
だが、ボランティア活動に精を出していて、人間にとって良い存在だったはずなのに。
その好いていた人間に、裏切られて殺されたのだ。
大方、怜音を売れと敵対する妖からお金を受け取ったのだろう。
人間はお金が絡むと豹変するから。
そうして殺されることになったその時、怜音は願った。
今度はもっと強く、誰にも負けないくらい強くなりたいと。
薄れゆく意識の中で血だまりに沈む青年ーー鬼山怜音は息絶えた。
享年十九だった。
「お兄さん、お兄さん! 目を開けてください!」
ゆさゆさと揺すっても、目を開かない。
そこにはもう、魂の抜けた殻しかなかったのだから。
「わたしを……かばったから……」
肩まで伸びる、さらさらの黒髪の少女が呟く。己を責めるように。
「ヒヒッ。鬼山の若大将を殺った。これで賞金はワタシのモノだ……!」
お金に目がない亡者達の醜い争いが始まった。
生前の鬼山怜音は人に慕われていた。
見た目は人間。その実、混血の【血鬼】と呼ばれる鬼山の若大将。
裏社会の長である。
しかし、鬼山家は元来純血の真祖を大将に据えるのが掟。
家督を継ぐ長男が混血であったため、内部抗争も絶えなかった。
四方八方が敵だらけ。
なんせ、鬼山家は拷問を生業とする拷問一家だったのだから。
ボランティア精神に富む心優しい青年は、生まれも育ちも呪われていた。
愛という名の神の児戯に。
彼の心を歪めるには、充分な理由があった。
人生なんて、くだらない。
人間もそうだ。実にくだらない。欲深くて醜くて。
そうして彼は異界で転生を果たした。
不死身の重力使い。
底知れぬ邪力の持ち主。
のちに、【創世の三王】と呼ばれる最凶の一人になった。
紅い髪に、紅い瞳。尖った耳。二本の小さな角。そして牙。黒いマント。赤い着物と刀。身長は百六十七cmに縮んでいた。
【血鬼】として、完全なる覚醒を果たす。
だが、その瞳はどこか物憂げだった。
わかり合えない種族に対してーー