34.華楼の夜、想いを重ねて ③
「ごめん、邪魔しちゃった?」
ユーリが少しばかり照れたように笑いながら問いかけると、リーゼロッテは首を軽く振った。
「いえ……そのようなことはありません。ただ……突然でしたので、少し驚いただけです」
彼女の微笑みを見た瞬間、ユーリはふと自分の行動に気づき、少しだけ顔を赤らめた。
「いや、その……なんていうか、ロッテがあいつらと楽しそうにしてるのを見てたら……ちょっと……」
言葉を濁しながら視線を外すと、リーゼロッテは目を丸くした。
「まさか……ユーリ様が……嫉妬を?」
その言葉に、ユーリは慌てて手を振る。
「そ、そういうわけじゃないんだけど! ただ、なんというか、囲まれてるのが目立ってたからさ!」
必死に弁解する彼を見て、リーゼロッテはふっと笑みを浮かべた。
「そうでしたか……では、次からは控えめにしますね」
彼女の言葉に、ユーリは安堵したように息を吐きながらも、心の中でそっと呟いた。
(……いや、本当は控えめにしなくていいんだよ。ただ、あいつらの視線が気になるだけで……)
廊下に出て少し歩いたところで、リーゼロッテが不思議そうにユーリを見上げた。
「それで……ユーリ様。どこへ向かうつもりなのですか?」
その言葉に、ユーリは思わず固まる。
(しまった、何も考えてなかった……!)
彼は慌てて目を逸らし、軽く頭を掻く。
「えっと、その……特に決めてなかったかも」
リーゼロッテはしばらく無言でユーリを見つめていたが、やがてため息をついた。
「……そういうところが、ユーリ様らしいといえばそうなのでしょうけど」
その呆れたような視線に、ユーリは思わず肩をすくめる。
だが、すぐに何か思いついたように笑みを浮かべた。
「でも、いいところを思いついたよ。ついてきて」
そう言うと、ユーリはリーゼロッテをそっと抱き寄せた。
急な動きに、彼女は小さく息を呑む。
「ユ、ユーリ様……?」
その声が微かに震えているのを感じながらも、ユーリは彼女をしっかりと腕の中に収めた。
その瞬間、柔らかな感触が胸元に伝わり、彼の頭が一瞬真っ白になる。
(あ、これ……ヤバい……)
ドキドキと鼓動が早まるのを感じながらも、彼は必死に冷静さを保とうとした。
だが、リーゼロッテの香りとその華奢な体がぴたりと密着する感覚は、冷静ではいられないほど心地よい。
リーゼロッテは顔を赤らめながら、視線を逸らして小さな声で呟いた。
「……こんな急に抱き寄せられると、さすがに驚きますわ」
その控えめな声がどこか恥じらいを含んでいて、ユーリはますます自分の心が落ち着かなくなるのを感じた。
(いやいや、落ち着け、ユーリ。ここで余計なことを考えたら絶対にダメだ!)
必死に自分を奮い立たせると、彼は胸元の感触に注意を向けないよう目を閉じ、瞬間移動を発動させた。
目を開くと、二人は天守の最上階に立っていた。
夜風が心地よく頬を撫で、眼下には無数の灯りが瞬いている。
ユーリは、リーゼロッテが目を丸くしながら景色を見つめているのを感じた。
パサージュの街道に沿って並ぶ明かりが穏やかに輝き、点在する村々の灯りが夜空の星と競い合うように美しく広がっている。
「わあ……」
リーゼロッテが小さく息を呑む声が聞こえた。
その瞳には感動の光が宿っており、思わずユーリは彼女の表情に見惚れてしまう。
(……連れてきて良かったな)
腕の中のリーゼロッテがまだ軽く震えているのに気づき、ユーリはふと我に返った。そっと彼女を自由にしようと手を緩める。
「ごめん、もう大丈夫だよ。……離しても――」
しかし、リーゼロッテはそのまま離れようとしなかった。
むしろ、彼女は少しだけ力を込めるようにユーリに寄り添う。
「もう少し……このままで」
彼女の小さな声が夜風に溶けるように響き、ユーリの鼓動が一瞬跳ね上がる。
(えっ、そんなこと言われたら、俺の理性が……)
彼女の体から伝わるぬくもりと、胸の柔らかな感触が再びユーリの意識を占領する。
慌てて目を逸らし、景色に意識を集中させようとするが、彼女の甘い香りが風に乗って鼻をくすぐり、まるで逃げ場がないように感じた。
「この景色……本当に綺麗ですね」
リーゼロッテがぽつりと呟いた。彼女の声にはどこか安心感が混じっていて、ユーリは内心で息を整える。
「うん、僕も気に入ってるんだ。いつか見せてあげたいって思ってた」
彼女が離れないままじっと景色を見つめているのを感じながら、ユーリは自分の胸に流れる温かい気持ちをそっと噛みしめた。
「ようやく落ち着けましたね」
「え、えっっと、何が?」
ユーリが少しぎこちなく返すと、リーゼロッテはふっと微笑んだ。
「ふふ、旦那様ったら。リリアーナ様とギデオンの所に行くと仰った時は、本当にびっくりしたのですよ」
「あ、あぁ、あの時のことね」
「そうです。その後、晴天だったのに城館の真上だけ雲が現れて、雷が落ちたのですから、凄く心配してしまいました」
その言葉に、ユーリは思わず視線を下げた。
「……ごめん……」
リーゼロッテは微かに息を整えると、少しだけ間を置いて続けた。
「本当に心配だったのですよ。お父様も同じ感じで出て行って……帰ってこなかったのですから……」
その言葉に込められた思いの深さを感じ取り、ユーリの胸が軽く痛む。
彼はそっとリーゼロッテを見つめ、軽く息を吸い込むと静かに言葉を紡いだ。
「……大丈夫だよ。僕はロッテの傍にいるから」
リーゼロッテが目を見開き、わずかに頬を染めた。
「ギデオンから再三の説明要請がございましたが、大王太后陛下のお取り成しのお陰で、イシュリアス辺境伯との親子関係も正式に切れました。そして、私たちは独立した地方領主として新たな一歩を踏み出せたのですね」
彼女の落ち着いた声を聞きながら、ユーリは軽く肩をすくめるように笑う。
「そうだね、しかも、後宮を騎士爵領にして『華楼小領公』なんて地位までいただいたけど……良かったのかな、僕がそんな大層な称号をもらっちゃって」
リーゼロッテはふっと笑みを浮かべ、首を軽く傾ける。
「ですが、旦那様にとって、これほど素晴らしい条件はございませんでしょう? ラグジュアリア構想を進める上でも、家臣の横槍を避けられるのは良いことですし」
「確かにね。でも、これからが本番だよ。やることが山積みだから、大変になりそうだ」
ユーリが苦笑混じりにため息をつくと、リーゼロッテはそっと肩を揺らして笑った。
「リリアーナ様、ロザリー様、エリゼ様、アメリア様、エレナ様……あっという間に後宮の人数も増えましたね」
「いや、本当にそうだよ。自分でもここまで増えるとは思ってなかったから、ちょっとびっくりしてる」
ユーリが苦笑しながら答えると、リーゼロッテは控えめに口元に手を添えて笑みを浮かべた。
「これから先、もっと増えるかもしれませんわよ……」
その言葉に、ユーリは思わず吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。
そして、未来の自分の姿を想像し、少しだけ背筋を伸ばした。
「僕としては、セリアとロッテとリアと楽しく暮らすだけでも良かったんだけどな」
ユーリがぽつりと呟くと、リーゼロッテは一瞬だけ目を伏せ、沈黙した。
「……ロッテ?」
彼が問いかけると、リーゼロッテは顔を上げ、少しだけ遠くを見るような視線で静かに言葉を紡いだ。
「私もオフィーリアも貴族院へと行くことになります」
「そうだね。といっても、毎日こっちに帰ってくるんでしょ?」
ユーリが軽い調子で答えると、リーゼロッテは小さく肩をすくめて微笑んだ。
「ユーリ様の『どこにでも行けますドア』が完成すれば、ですけど」
「あ、それか。確かに責任重大だな」
ユーリが苦笑すると、リーゼロッテはそっと肩を揺らして笑った。
「でも……私、信じております。ユーリ様の力があれば、この領地がどんなに素晴らしい場所になるか。皆で笑い合える未来を作りましょうね」
リーゼロッテはそっと彼の肩に体を預けた。
その小さな仕草に、ユーリは一瞬驚きながらも、彼女の体温を感じて息を呑む。
「いつでも戻ってくると言っても、やはり少し寂しくもあり……これからどんどん側室や妾が増えていくと思うと、不安になります」
リーゼロッテの控えめな声が、夜風に乗って静かに響いた。
その言葉に、ユーリは胸が軽く締め付けられるような感覚を覚えながらも、彼女の肩に手を置いてそっと答えた。
「僕たちの家族はこれからもっと増えるかもしれないけど……どんなに増えたって、その中でも、セリアとロッテとリアは特別だよ」
リーゼロッテが少しだけ目を伏せ、寂しげな笑みを浮かべる。
「私だけじゃありませんのね」
「えーっと、そこはほら、あれだよあれ」
ユーリが慌てて言い訳するように言うと、彼女はふっと笑みを浮かべたが、その表情にはわずかに影が差している。
「ユーリ様はお母様の旦那様であって、私はおまけですから、いいのです」
「おまけだなんて思ってないよ。一人の女性として愛してるから」
彼が真剣な目で言葉を紡ぐと、リーゼロッテの表情が少しずつ柔らかくなる。
「ありがとうございます。……でしたら、私の花も受け取って頂けますか?」
「え……卒業してからじゃなかったの?」
ユーリが驚いたように聞き返すと、リーゼロッテは手を胸元でぎゅっと握りしめ、小さな声で続けた。
「情けないと自分でも思うのですが、ユーリ様の周りに魅力的な女性が増えると……貴族院に行って離れていると不安になりそうで……」
リーゼロッテの瞳に映る真剣な想いを見つめながら、ユーリは彼女の手をそっと握った。
その手は微かに震えていて、彼女がどれほどの決意でこの言葉を紡いだのかを感じさせる。
「ロッテ……」
リーゼロッテが小さく頷きながら、彼をじっと見つめる。
「ユーリ様」
一瞬息を呑み、彼女をそっと抱き寄せた。
その動きに、リーゼロッテは小さく息を漏らす。
彼女の体が自分の腕の中で震えるのを感じ、ユーリの胸が熱くなる。
「愛してるよ」
彼が優しく囁くと、リーゼロッテは頬をさらに赤く染めながら小さく頷いた。
「私もです」
リーゼロッテが微笑みながら、そっと手を握り返す。
「これからどんなことがあっても……ユーリ様と共に歩んでいける。それが私の一番の幸せです」
彼女のぬくもりと甘い香りがユーリの心をさらに揺さぶる。
「私も旦那様とお呼びしてもよいですか?」
「もちろん。と言うか、時々、旦那様呼びになってたような……」
「し、知りません」
彼女が慌てて顔をそらす仕草が愛おしく、ユーリは思わず笑みをこぼした。
「ロッテ、こっち向いて」
彼が優しく囁くと、リーゼロッテは一瞬躊躇したが、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳が再びユーリを捉えた瞬間、胸に温かな感情が満ちていく。
彼女をそっと見下ろし、その瞳に吸い込まれるように顔を近づけた。
リーゼロッテは瞳を閉じ、ユーリの動きに身を任せる。
唇が触れ合うその瞬間、まるで時が止まったかのような静寂が二人を包み込んだのだった。
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