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旦那様のお仕事はハーレムです~商人チートで最強領地~  作者: 葛餅もずく


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28.とある密偵の受難 その4 ③

(こんなもの……どこで手に入れたんだ?)


 魔術でも、どこかの商人が持ち込んだ珍品でもない。

 そう確信させるほど、これらの灯りはあまりにも「作り物」じみていた。

 しかし、何の知識もないアメリアにとって、それを追及する術はない。

 背後で軽やかな足音が響き、フィオナが満足げな顔で振り返った。


「どう? この灯り、すごく綺麗でしょ? 旦那様が前に商人さんから買ったんだって!」


 屈託のない言葉が、アメリアの疑念をさらに膨らませる。


(商人? こんな灯りを持っている商人なんて聞いたことないぞ……いや、それにしたって――)


 アメリアは目の前に広がる空間に圧倒されていた。

 柱には優雅な曲線を思わせる彫刻が刻まれ、一つひとつ異なるデザインが見る者を圧倒する。

 空間全体を満たす清らかで荘厳な雰囲気に、漂う空気はどこか神秘的だ――だが、それが同時に恐ろしくもある。

 静寂が支配する通路。

 しかし、どこからともなく聞こえるかすかな風の音が、背中に冷たいものを走らせた。

 そんな中、先を行くフィオナがくるりと振り返り、笑顔で手を振る。


「ね、綺麗でしょ? すごいよね~!」


 その声が通路の静寂に反響し、どこまでも広がっていくようだった。


(すごいっつーか……ここ、本当に領主の生活空間なのか?)


 アメリアは心の中でつぶやきながら、半ば呆然としたまま足を進める。

 そのたびに通路の圧迫感がじわじわと胸に重くのしかかってきた。

 やがて到着した奥御殿の扉を開けた瞬間、視界が一変した。

 そこには、小さな庭園が広がっていた。

 手入れの行き届いた庭の真ん中には、ガゼボ(庭園の東屋)が建っている。

 淡い光を帯びた蔦が絡むその東屋は、柱や屋根に精緻な装飾が施されており、まるで絵画の中に迷い込んだかのようだった。

 庭にはさまざまな花々が咲き乱れ、香り高い草花の甘い匂いが風に乗って漂っている。

 その香りは清らかでありながら、どこか非現実的で、空気全体に静謐さと異様な圧迫感をもたらしていた。

 だが、その美しさの中に、妙な圧迫感がある。

 東屋の中には三人の女性が座っている。

 一人目はセリーヌ。

 柔らかな金色の髪が陽光を受けて優しく輝き、その表情にはいつもの温和な笑みが浮かんでいる。

 控えめなアイボリーのデイドレスが彼女の上品さを引き立て、書簡に目を通す仕草からは落ち着きと知性がにじみ出ていた。

 二人目はリーゼロッテ。

 金色の髪は流れるように美しく、ロイヤルブルーのドレスに胸元で揺れる赤い宝石が際立つ。

 穏やかな微笑みはどこか余裕を感じさせ、場の緊張感を和らげているようだった。

 そして三人目はリリアーナ・フォン・ハイデンローゼ。

 深みのあるブラウンの髪と琥珀色の瞳が神秘的な雰囲気を醸し出し、エメラルドグリーンのドレスに施されたゴールドの刺繍が彼女の存在感をさらに高めている。

 静かに佇む姿は、まるで庭園と一体化したような錯覚を覚えさせた。

 三人が揃ったその場には、美しさとともに凛とした威厳が漂っている。

 特にセリーヌの柔らかな気配が庭園全体を和らげる一方で、リーゼロッテの微笑みには冷静な観察の光が宿り、リリアーナの静謐な存在感が場にさらなる重みを加えているようだった。


(……セリーヌ様、リーゼロッテ様、そしてリリアーナ様まで? 俺、これ絶対やばい場所に足を踏み入れてるよな……)


 アメリアは無意識に足を止めていた。

 三人の存在感があまりにも大きすぎるのだ。

 背中に冷たい汗が滲む。

 フィオナはそんなアメリアの様子を全く気に留めず、無邪気な声を響かせた。


「セリーヌ様! リーゼロッテ様! 私たち来ましたよ!」


 セリーヌが顔を上げると、その表情にわずかに柔らかな色が浮かんだ。


「遅かったわね、フィオナ……それで?」


 その一言だけで、アメリアの心臓が縮み上がる。

 セリーヌの視線がこちらを捉えた瞬間、まるで身体中の血液が凍りつくような感覚に襲われる。


(……くそ、どうする? この場を切り抜ける方法なんて思いつかないぞ!)


 その時、フィオナの陽気な声が場を揺るがした。


「あれ、旦那様、なんで正座してるんですか?」


 その一言で、アメリアの意識は否応なくそちらに引き寄せられた。

 フィオナの視線の先、ユーリが何故か地べたに正座をしている。


(は? なにこれ……旦那様がなんでこんな所にいるんだ? しかもこの状況……どう見ても犯人扱いじゃないか!)


 事態を飲み込めず混乱する中、アメリアの目は自然とリーゼロッテとリリアーナに向いた。

 二人ともアメリアをチラリと見やる。

 特にリーゼロッテの目――冷静な観察者の視線には厳しさが宿り、その冷たい光がまるで心を見透かすようだった。


(あの目……まさか、俺の正体に気づいたのか? いや、そんなことは……!)


 焦るアメリアは視線を逸らそうと机に目をやる。

 だが、その瞬間、机の上にいる黒猫が目に入り、記憶の扉が嫌でも開いた。

 魔導具を受け取りに行った日の出来事が脳裏に蘇る。


(いや、違う。絶対違う……頼む、そうであってくれ!)


 リーゼロッテの冷ややかな声がアメリアの思考を断ち切った。


「フィオナさん、その魔導具をこっちに持ってきてくれるかしら。アメリアさんも、こちらへどうぞ」


 その一言は、まるで判決を告げる鐘の音のようだった。

 全身が硬直し、アメリアは足を動かすどころか呼吸すらままならない。

 背後で微かな視線の気配を感じた。

 隣のテーブルに座るロザリーが、ぼんやりとした目でこちらを見ている。

 だが、その視線が次第に変化していった。

 最初はただの無関心だったはずが、今は何かを掴もうとしているかのように鋭くなっていく。


「あら貴女……どこかで見たことがあるような……」


(嘘だろ!? なぜこんなところにこの女が……!)


 ありえない状況に、冷たさが全身を駆け抜け、指先が微かに震え始めた。

 目を伏せ、どうにか気配を消そうとするが、ロザリーの視線はそれを許さない。

 じっとアメリアを追い続けてくる。

 その目は、まるで記憶の欠片を繋ぎ合わせるように細められていた。


「どこで会ったのかしら……」


 ロザリーはカップを置き、手を組み、軽く首を傾げる。


(頼むから思い出すな……お願いだ、頼む!)


 アメリアの心の中で必死の祈りが何度も繰り返される。

 だが、その祈りは無情にも打ち砕かれた。


「そうそう!」


 ロザリーが思い出したように手を叩く音が、静まり返った庭園に響き渡る。

 その瞬間、アメリアの胸の奥でかすかな希望が音を立てて砕け散り、冷たい絶望が一気に広がった。


「確か、モンクレール伯爵の屋敷で、セルツバーグ子爵令嬢のドレスに細工をお願いしたときの方にそっくりですわ!」


(終わった……本当に終わった)


 アメリアは思考を放棄したように頭を垂れた。

 全身から力が抜け、手足の感覚がぼんやりとしていく。

 目の前が暗くなるような感覚に襲われる中、さらにリリアーナの落ち着いた声が響く。


「でも、男性って言われていませんでしたか?」


 その一言がアメリアを追い詰める。

 ロザリーが首をかしげると、次第に納得したような表情を浮かべ、優雅に頷いた。


「あら、そう言えば、そうでしたわね。双子かしら?」


 その言葉に、机の上でふてぶてしい様子のコクヨウが声を上げた。


「違うニャ! そいつは男だニャ。この前、変装を解いて肉屋ギルドに入っていったニャ!」


 コクヨウの言葉が庭園の静寂を切り裂いた。


(……あぁ、くそ、こうなりゃ、やけだ!)


 アメリアは内心で覚悟を決めると、リーゼロッテに向かって駆け出した。


(リーゼロッテ様、本当にごめんなさい!)


 後ろ髪を留めていた簪に手を伸ばし、一気に引き抜こうとした――その瞬間。

 机の上にいた黒猫が突然動き、みるみるうちに人間大を超える巨躯へと変貌した。

 庭園の芝を揺らしながら立ち上がったその巨大な前足が、勢いよく振り下ろされる。


「ぷぎゃ!」


 アメリアは抵抗する間もなく、その前足に地面へと叩きつけられた。

 まるで虫を潰すかのように――あっけなく。


「……」


 庭園に再び訪れた静寂。

 何が起きたのか理解できず、その場にいる誰もが動けずにいた。

 沈黙を破ったのは、リーゼロッテだった。

 彼女は冷静な顔のまま、静かに頭を下げる。


「あ、ありがとうございます」


 その一言に、コクヨウは誇らしげに胸を張り、髭をぴくりと揺らしながら堂々と答えた。


「どういたしましてニャ!」


 堂々としたその一言に、全員が次の言葉を失い、奇妙な沈黙が場を支配した。

 やがてコクヨウが前足を退けると、地面にはピクピクと痙攣しながら気絶しているアメリアの姿が転がっているのだった。


本作をご覧いただきありがとうございます!


ユーリ君とハーレムの愉快な仲間達の後宮生活&領地改革を応援したい!

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