18.レーベルク領主評議会 ②
だが、その空気を切り裂くように、一人のギルド長が低く響く声を上げた。
「確かに、腐りにくい物であれば、それも有効な手でございましょう。しかし……」
セリーヌはその声の主に視線を向けた。
堂々とした風格を備えた男で、肉屋ギルドを束ねる中心人物。
スキンヘッドの頭が蜜蝋の光を反射し、片目に刻まれた古い傷が一層の威圧感を醸し出している。
鍛え抜かれた体格は、かつて冒険者だったことを彷彿とさせる風貌だ。
その男の存在感は、広間全体を緊張で包み込むほどに強烈だった。
(肉屋ギルド長ヴォルフ……ここで口を開くのね)
セリーヌが内心でそう思う間にも、ヴォルフは冷静だが力強い口調で続けた。
「魚や肉に関しても同様に扱うのは如何なものでしょうか? 肉は、お客様から注文をいただいたその場で屠畜し、すぐに解体しなければなりません。それに、病気になっていないか確認することも欠かせない。時間が何よりも重要なのです」
その声に広間がざわつき始めた。
セリーヌはその様子を見逃さず、ヴォルフの言葉が広間全体に与えた影響を冷静に観察する。
「解体拠点と販売拠点を分けるなど……正気を疑われても仕方がないのではありませんか?」
ヴォルフの最後の一言が、広間の空気を凍りつかせる。
ざわつき始める村長や他のギルド長たちの視線が、セリーヌとヴォルフに集中した。
(市場を牛耳ってきた彼らにとって、この改革は受け入れがたいもの。でも、私は領主。多くの民草のためにここで譲るわけにはいきませんわ)
セリーヌは男の鋭い視線を正面から受け止めると、わずかに瞳を伏せ、内心で息を整える。
優雅な微笑みを浮かべると、静かに口を開く。
「市場を安定させるための改革ですもの。肉屋ギルドの皆さまの意見も大切にしていますわ。ただ、領民から寄せられる陳情の数々を見過ごすことはできません」
ヴォルフの眉がわずかに動く。
その変化を見逃さなかったセリーヌは、さらに言葉を続けた。
「たとえば、肉の販売を断られたり、価格が不当に釣り上げられているという声です。その理由について、ぜひお聞かせいただけますか?」
ヴォルフは腕を組み直し、冷静だが鋭い声で答えた。
「ご領主様は話をすり替えるのが得意と見られる。それとこれとは関係ない話ではありませんかな?」
広間がざわつく。
村長たちは互いに視線を交わし、ヴォルフの発言に注目していた。
セリーヌは動じることなく、彼が続けるのを待った。
「痛くもない腹を探られては堪りませんからな。販売を断る理由は、肉を無駄にしないためです。屠畜は一度に多くの肉を処理しますが、少量の注文にそのたび応じていては廃棄が増える。ですから、注文が規定の数に達するまで待っていただくことにしております。たまたまタイミングが悪かっただけでは?」
ヴォルフの皮肉交じりの言葉に、セリーヌは視線を緩めず、静かに耳を傾ける。
「価格についても同様です。家畜を育てるには時間も費用もかかります。魔獣だって希少な魔獣は高く、多く狩猟される魔獣は安い。牛や豚も数には限りがあるのです。まさか、無限に湧いてくるとは思われてませんよね? 陳情を上げた方は、たまたま在庫が少ない時に買おうとしたのでしょう」
淡々と語られるヴォルフの主張は理屈が通っている。
それを聞きながら、セリーヌは冷静に彼の意図を探った。
(確かに、無駄を防ぐための調整は必要でしょう。でも、それを理由に市場の主導権を握り続けようとしているのね)
セリーヌは内心でそう考えながらも、表情には一切出さず、優雅な微笑みを浮かべていた。
広間にいる村長やギルド長たちがざわつき始める中、ヴォルフはさらに声を低め、鋭く切り込んできた。
「ですが、私には別の問題があるように思えますな」
ヴォルフの冷ややかな声が、広間全体に緊張をもたらす。
「領主様が無償で肉をばらまいていると耳にしましたが、それでは、肉屋を営む領民たちを飢えさせる原因になるのではありませんかな? そんなことをされては、こちらが路頭に迷う羽目になるのは火を見るよりも明らかです」
広間が凍りつく中、ヴォルフは続けた。
「御領主様は後宮の権力闘争や御勤めがよほどお忙しいのでしょうが、そうしたことに気を取られ、市井の者たちの暮らしが見えていないように思えますが……いかがなものですかな?」
挑発とも取れる言葉が広間に響く。
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