67.二人の誓い ①
──揺らめく蜜蝋の灯が、白いシーツを金色に照らす。
淡く広がる染みが、柔らかな布地に影を落とし、甘い香りが残り火のように漂っていた。
その上で重なり合う二人の吐息が、まだ鎮まり切らずに絡み合う。
「……ユーリ兄さま」
胸元に頬を埋めたまま、ミュゼリアナが小さく囁いた。
まだ熱を残す吐息が肌にかかり、ユーリの心臓がどきりと揺れる。
「……もう“二時間”なんて、とっくに過ぎてますのに」
「ご、ごめん。父上に……怒られるかも」
震える指先が、ユーリの手を探して絡みつく。
「怒られてもいいんです」
蕩けた瞳が、幸せに濡れながらまっすぐに見上げてくる。
「だって……ようやくユーリ兄さまと結ばれたのです。
もう離れ離れになんてなりたくありません」
その熱に胸の奥が押し上げられ、ユーリは思わず抱き締め返した。
「……ミュゼ。僕だって、誰にも渡したくない。
たとえ世界中を敵に回すことになっても」
「っ……」
耳まで真っ赤に染めながらも、ミュゼリアナの唇が震える。
それは喜びを噛み殺すような、少女の奥ゆかしい反応だった。
「もっと強く……抱きしめてください。“女”として見てほしいんです」
勇気を振り絞るような言葉。
しかし抱き寄せられる腕の中では、彼女の身体が熱に震えていた。
「……もう十分すぎるくらいだよ」
照れ隠しのように呟くと、ミュゼは嬉しそうに目を細めた。
まるで「もっと欲しい」と甘える子猫のように。
「では……最後まで、証明してください」
囁きと同時に、吐息が耳をかすめる。
ゾクリと背筋が震え、ユーリは思わず喉を鳴らした。
シーツがかすかにきしみ、互いの鼓動が重なり合う音がやけに鮮明に響く。
(……止めなきゃいけないのに……)
唇の奥で熱が絡むたび、脳の奥がチリチリと痺れる。
(これ……やばいな)
止められない甘美に溺れながら、
二人は“夜の約束”を破り、なお甘い延長戦を続けていく。
──そのとき。
「……主様」
ベッド脇から低い声。
黒猫の影がにゅるりと揺れ、金色の瞳が暗がりにきらめく。
「続きは娼館に戻ってからの方がよいのではないかニャ?
もうすぐケビンが戻ってくるニャ。……そんなにギシギシ言わせてたら、バレると思うニャ」
「う、うわぁぁ!? こ、コクヨウさん!? い、いつからそこに……!」
ユーリが慌ててシーツを引き寄せると、逆にミュゼリアナの肩口があらわになってしまう。
「きゃっ……!? お兄さま、見えちゃいます……っ!」
耳まで真っ赤に染まり、胸元を必死に押さえるミュゼリアナ。
「ち、違う! わざとじゃないから! ていうか、コクヨウさん! ノックぐらいしてくださいよ!!」
「ふん、吾輩は星霊ニャ。ノックなど習慣にないニャ。それに影に扉はついてないニャ」
「いや、まぁ、そうなんだけど……そうじゃないというか……」
平然と尻尾を揺らす黒猫に、ユーリは呆れてため息をつく。
その横でミュゼリアナは、シーツを抱きしめながら、潤んだ瞳で今にも泣き出しそうに呟いた。
「……せっかく、お兄さまと……夢みたいな時間だったのに……」
「うぅ……ミュゼ、ごめん。ほんとごめん……!」
頭を撫でて宥めるも、コクヨウの尻尾がぴんと立った。
「甘えるのは後にするニャ。もう一度言うけど、ケビンが戻ってくるニャ。
……その格好のまま出くわしたら、本当に“おしまい”ニャ」
「そうでした」
ミュゼリアナは慌ててベッドから下り、床に散らばる服を掴む。
「お兄さま、手伝って……! 紐が……結べません……っ」
「わ、分かった! とにかく早く!」
ユーリは急いで衣服を身に着けると、彼女の背に回って結び紐を引き寄せる。
だが焦りすぎて指がもつれ、余計に結び目が硬くなってしまった。
「も、もうっ……お兄さま、不器用すぎます……!」
「こんな状況で器用にできるかっての!」
【あとがき】
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