表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旦那様のお仕事はハーレムです~商人チートで最強領地~  作者: 葛餅もずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

227/237

66.ミュゼリアナの涙 ①

 エルディアが優雅にワインを傾け、ルウティアが料理をほおばり幸せそうに笑う。

 その光景が、ケビン・フォン・レオニダスの神経を逆なでした。


「ふん……何がペンドラゴンだ」


 ワインをひと口含み、渋みを舌の上で転がす。


「あんな魔術も使えぬ能無しが……面白くない」


 ユーリ・フォン・シュトラウス・ペンドラゴン――。

 先ほど国王から大層な名を授かった“あの男”を思い出すだけで、胸の奥が焼けるようだった。


(面白くないといえば、父上もだ。なぜミュゼリアナに署名をさせない)


 隣に座る父アルベルトは、ワインを手にしたまま沈黙している。

 かつては誰より威厳を誇った背が、今ではやけに小さく見えた。


 ほんの少し前までは「無能が長男だそうよ、お気の毒に」と同情されていたはずが――

 黒竜討伐の噂が流れてからは一転、「無能な父が嫉妬して追い出したのだ」と陰口を叩かれる始末。

 その全てが、ケビンには屈辱だった。


「父上、魔術庁長官ともあろう者が……そのように沈んでいては嘆かわしい」


 苛立ち混じりに吐き捨てると、アルベルトはわずかに視線を上げただけだ。


「……すまない。少し考え事をしていた」


「考え事、ですか。……それで、なぜミュゼリアナの婚姻に署名をされぬのです」


 声が自然と荒くなる。

 杯を片手に笑い合う宴席の渦の中で、ケビンの胸中は焦燥にかき乱されていた。


(なぜだ……あれほど言い含めておいたのに、まだ署名をしていないとは……)


 妹、ミュゼリアナ。

 気弱なあの娘なら、とっくに観念して承諾するはずだった。

 それなのに、未だに自室に閉じこもったまま返事をよこさない。


(まったく……愚図め。これでは話が進まぬではないか)


 額にじっとりと汗がにじむ。

 そのとき――背後から声がかかった。


「これは、ケビン殿」


 振り返ると、ワインカップを片手にしたオスカー・フォン・ヴァレンシュタインが立っていた。

 にやりと浮かべる笑みとは裏腹に、その瞳は獲物を値踏みする冷たさを宿している。


「……これは、ヴァレンシュタイン卿」


 ケビンは慌ててグラスを置き、立ち上がった。

 誘うように笑むオスカーの顔が、やけに眩しく映る。


(ヴァレンシュタイン卿……今は王都で最も資金力のある家の一つ。なんとしても繋がりを持たなければ!)


 胸の奥で打算が蠢く。

 父は頼りにならず、レオニダス家の立場は日に日に弱まっている。

 だが――自分にはまだ切り札がある。


 妹、ミュゼリアナ。

 修道院に遊びに行かせておくなど、あまりにも勿体ない。

 彼女を利用すれば、家は必ず立て直せる。


 そう確信しているからこそ、ケビンは笑みを作って言葉を返した。


「……少し、外の風に当たりませんか? 酒の席ですし、耳も多い。バルコニーなら、落ち着いてお話しできるかと」


 オスカーは一瞬だけ目を細め――すぐに、愉快そうに口角を吊り上げた。


 やがて二人は、喧騒を背にバルコニーへと歩み出る。

 夜風がひやりと頬を撫で、背後からはまだ宴席の笑い声が遠く響いていた。


 月明かりを背にしたオスカーは、ゆったりとカップを傾ける。

 その笑みは柔らかいが――瞳だけは氷のように冷たい。


「……さて、ケビン殿」


 低く抑えた声が、夜気に溶ける。


「例の件。どうなっている?」


 胸の奥がずきりと痛む。

 それでもケビンは、必死に笑みを作り答えた。


「も、もちろん……進んでおります。妹には、いずれ必ず署名させます。あとは承諾さえ済めば――」


「――済めば?」


 わざとらしく区切る声音。

 オスカーの目が細まり、鋭い光が走った。


 ケビンは一瞬息を呑み、慌てて言葉を繋ぐ。


「え、ええ……ですが安心してください。必ず説得します! 父上も……きっと」


 言い訳を並べる声が、夜風に震える。

【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


ユーリの嫁国家計画、応援したいと思ってくださったら、

⭐評価と❤、ブックマークお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ