65.九尾の星詠み ⑤
「こ、これは獣化のために脱いだのじゃ……」
けれど瞳は揺れ、狐耳も小さく震えている。
「……無論、お主が“したい”と申すなら……妾は吝かではないがの。
……その時は、最後まで責任を取ってもらわねばならんぞ?」
照れ隠しのように言い切る白蓮。
高貴さと可愛らしさが同居するその姿に――ユーリの心臓は爆発寸前。
「そ、そ、それじゃあ……っ」
一瞬、口が滑りそうになったユーリは、慌てて両手を振った。
「……って、ちがーーーう!! まだダメだからね!!」
横でオフィーリアがすかさず小さくため息を吐く。
「……旦那様。先ほどから“まだ”と強調されてますけれど――
結局、手を出す気まんまんですわよね?」
「ち、ちがうってばぁぁ!! 言葉の綾だから!!」
(……うぅぅ、図星すぎて反論できない!!)
そんな二人のやり取りを見て、白蓮は小さく微笑んだ。
やがて狐耳がぴくりと震え、すっと姿勢を正す。
「……まずは、コチラが誠意を見せてからかの」
その言葉とともに白蓮の身体が淡い光に包まれた。
ふわりと白布が舞い、滑らかな肌の輪郭が光の中で揺らめく。
次の瞬間――九つの尾がぱっと咲き誇り、月明かりを受けて黄金の輝きを放つ。
美しく、そして畏怖すら覚える神秘の姿。
「……九尾」
思わずぽつりとユーリが呟く。
白蓮はゆるやかに目を閉じる。
九本の尾を広げた瞬間、彼女を中心とした足元に、夜空を切り取ったかのような星々の煌めきが現れる。
蒼白の光粒がひとつ、またひとつと舞い上がり、白蓮の周囲をゆるやかに円を描きながら飛んでいく。
尾が揺れるたびに光は軌跡を残し、まるで小さな宇宙がその身を中心に生まれたかのようだった。
星々はきらめきながら膨らみ、やがて儚げに弾けて消える。
――静寂。
淡い光が室内を満たし、九つの尾が風に揺れるたび、空気がぴんと張り詰めていく。
「一匹の大蛇。玉座を飲み込み、王となりし大蛇……」
白蓮の口から、ぽつりと零れる声。
「その蛇が……お主の大切な“宝”に巻き付き、輝きを奪い、やがて漆黒に染める」
ぞくりと背筋を這う声に、ユーリの喉がごくりと鳴った。
「蛇の足元には――空になった瓶。媚薬の匂い……」
「……媚薬!?」
ユーリは思わず椅子から半ば立ち上がり、声を裏返らせた。
(オスカー……まさか、ミュゼに使うつもりか!? ふざけるな……!)
胸の奥が一瞬で熱くなり、拳に力がこもる。
今すぐにでも走り出しそうな衝動が、全身を突き動かしていた。
「……貴方様」
隣のオフィーリアが、そっとユーリの拳に自分の手を重ねて囁いた。
声音はいつものように落ち着いている。だが――指先はかすかに震えていた。
「落ち着いてくださいませ。白蓮様の星詠みは“未来の一端”……まだ確定ではございませんわ」
「分かってる……」
ユーリは歯を食いしばり、深く息を吐いた。
(分かってる。分かってるけど……ゆっくりもしてられないな……)
しばらくして、白蓮が静かに目を開いた。
九つの尾を包んでいた黄金の光がふわりと揺らぎ――すっと霧散していく。
残されたのは人の姿。
くびれた腰から、柔らかさと張りを兼ね備えた曲線。
月明かりがその曲線のラインをくっきりと浮かび上がらせる。
気高さの中に、息を呑む艶めかしさ。
白蓮はほんのりと頬を染め、少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
背を向けると、床に落ちた衣を拾い上げ、ゆっくりと着直していく。
(ちょ、ちょっと待って……なんでそんな色っぽい動作なんですか!? いや、めっちゃキレイなんですけど!! ……って、ダメだ! ちゃんと見ちゃダメだ……!)
両手で目を覆いながらも、つい指の隙間を作ってしまうユーリ。
「貴方様……先ほどもそうでしたが、ばっちり隙間から覗いていらっしゃいますわよね」
すぐ横でオフィーリアが呆れたようにため息をつく。
【あとがき】
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