65.九尾の星詠み ②
「こんな夜更けに“墓地鳥”が現れるとはな」
ぞくり、と背筋を冷たいものが這う。
白蓮が呟いたその物騒な鳥の名前に、オフィーリアは思わず瞬きをした。
「……ハクレン様、それは“夜鳴鳥”のことでございますか?」
オフィーリアは思わず身を乗り出していた。
オルタニア王国では“吉兆の鳥”とされる存在を、“墓場”と結びつけるだなんて。
(確かに夜の墓地でよく鳴いている気はしますが……)
「そうじゃな、そうとも言うの」
白蓮は涼やかに微笑んだ。
「妾の国ではな、夜に鳴いて魂を運ぶ鳥とされておるのじゃ。
……さて、今宵は一体、何を運んできたのかの?」
(まさか……旦那様? なんて……そんなはずございませんわ……
……けれど、あの方なら――本当にあり得そうで……)
――ガシャン。
静寂を破るように、重い金属が床にぶつかる音が響いた。
(なっ……何事ですの!?)
オフィーリアは思わず身をこわばらせる。
白蓮もちらりと視線を扉に向け、狐耳がかすかに揺れた。
やがて扉の錠が外れる音。
次の瞬間、ゆっくりと扉が開いた。
「失礼いたします。お食事をお持ちしました」
涼しい声とともに現れたのは、給仕服を着込み、ワゴンを押す男。
だがその足元には――鎧に身を固めた衛兵が二人、石床に崩れ落ちていた。
「……っ!?」
オフィーリアの瞳が大きく見開かれる。
「な、何をなさっているのですか、貴方様は!!」
怒りか呆れか、自分でも分からない声が飛び出した。
当の本人はというと、まるで気にした様子もなく、さらりと微笑んでいる。
◇ ◇ ◇
オフィーリアの瞳が大きく見開かれ、白蓮もこちらを見つめて動きを止めている。
足元で鎧に身を固めた衛兵が二人、石床に転がっているせいだろう。
(あー……やっぱり、ちょっと派手に音を立てすぎたかな)
ユーリは苦笑しながら、押していたワゴンの取っ手を握り直した。
竜族を歓待する晩餐会の料理と酒。
香りも彩りも見事なものばかりで、後宮では滅多にお目にかかれない代物だ。
「いや、せっかくだからね」
彼は笑みを浮かべ、ワゴンの布を軽くめくる。
「晩餐会の余りを少し分けてもらったんだ。せめてここでも、美味しいものぐらい味わってほしいと思って」
皿に盛られた肉料理や果実。
そして――小さな木樽に満たされていたのは、帝国西岸の沿岸部でしか採れぬ葡萄から造られた白ワイン。
赤が広く流通する帝国において、白はまさに貴重品。
神秘と威厳を纏う竜族を迎えるにふさわしい一献として、王城は特別にこれを用意したのだ。
ユーリは部屋へと足を進め、ワゴンをテーブルのそばまで押しやった。
白蓮が腰掛けている席に自然と近づき、食事の準備を始める。
「さて……こちらがメインのお肉。こっちは果物とチーズの盛り合わせ。
そして――」
慣れた手つきで銀のカップを三つ並べ、白ワインを注いでいく。
白蓮は静かにその一つを手に取り、透き通る液体を見つめた。
「……清らかな月の雫のようじゃな」
その言葉に、ユーリは思わず小さく笑みをこぼす。
「そう言ってもらえると、持ってきた甲斐がありますね。リアも、一緒にどう?」
さらりともう一つのカップに白を注ぎ、オフィーリアへ差し出す。
「……貴方様は、本当に……」
小さく吐息をこぼし、視線をそらす。
それでもオフィーリアは腰を下ろし、差し出されたカップを大事そうに受け取った。
「では──乾杯を」
銀のカップが小さく触れ合い、澄んだ音を響かせる。
三人はそれぞれ、静かに唇を寄せた。
ユーリは一口、白ワインを含む。
冷ややかな液体が舌の上を転がり、ふわりと果実の香りが広がる。
「……まるで青リンゴのような、甘くて爽やかな味だね」
思わずそんな感想をこぼして、彼は首を傾げた。
【あとがき】
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