64.晩餐会 ⑤
大王太后ヴィクトリアは、涼やかに微笑みながら見守っていた。
(さすがエルディア様。竜の女王はやはり別格ですわね……)
だが、今にも血の涙を流しそうに耐えながらエルディアを見つめる孫王の様子に気づき、扇子の陰でため息を忍ばせる。
(この子……大丈夫かしら。若い娘より母性のにじみ出た女性ばかりに惹かれて……この先、ちゃんと相手が見つかるのかしらね)
一方、王太后エリザベートは扇子を握りしめ、ぶるぶると震えながら声を荒げた。
「なぜ……なぜ、そこの二人は頭を下げないのかしら!」
(母上!? 相手は竜族ですよ!!)
レオンハルトが心の中で叫ぶ。
(この子……本当に頭は大丈夫なのかしら。高い椅子に座っているからといって、自分が偉いと思い込んでいる……哀れなものね)
ヴィクトリアは冷ややかに瞳を細め、扇の影から鋭くエリザベートを見やった。
「母上、お控えください! 相手は竜族の使者にございます! 無礼を責めるなど、決して……!」
レオンハルトは顔色を変え声を押し殺すように叫ぶ。
「ふふ」
大王太后ヴィクトリアが、涼やかに扇を揺らした。
「彼女たちが膝を折ったのは――ユーリ・フォン・シュトラウスに対してですわ。
オルタニア王国に、ではなく」
「なにを……!」
エリザベートは扇をきしませ、紅潮した顔を震わせる。
「ですがレーベルク女男爵夫はオルタニア王国の臣下ではありませんか?
彼に頭を下げたのであれば、それはすなわち王国に恭順を示すこと――そうは思いませんか?」
「おお、まさしく!」
「王国あっての臣下だ!」
「竜族といえど、礼は礼!」
最前列の老侯爵や数人の伯爵が、一斉に頷き声を張り上げる。
だが、すぐに別のざわめきが返った。
「馬鹿を申すな!」
「竜族を縛ろうとすれば……王都が灰燼と化すぞ!」
「命が惜しくば、余計なことは言うな!」
反対と賛同が交錯し、広間全体がざわめきに包まれる。絹と宝石のざわめきが、いまや火花を散らすような騒音に変わっていた。
(勘弁してくれ……。穴が――俺の胃に穴あくから!!)
エルディアとルウティアは、まるで自分たちの話ではないとでもいうように、静かに微笑んで王座を見つめている。
その余裕の横顔が、かえって貴族たちを黙らせるほどの威圧を放っていた。
ヴィクトリアは、そんな空気を見渡しながら扇を口元に寄せ、冷ややかに呟いた。
「……竜を王国の枠に縛りつけようとすれば、それこそ滅びを招きますわよ」
その一言に、ざわめきは一瞬で凍りついた。
(……おおぅ。さすが大王太后様。場を制する一言が、えげつなく強い)
(あぁ……俺の胃……あと少し、がんばれ……!)
大王太后の一言で凍りついた空気を――必死に打ち払うように。
国王レオンハルトが立ち上がった。
「エルディア殿、ルウティア殿。……ようこそ我が国へお越しくださいました」
胸に手を当て、わずかに羽を広げるように両腕を差し伸べる。
「この度は、ささやかながら宴を設けさせていただきました。
どうか今宵は、日々の緊張をお忘れになり……心ゆくまで羽を伸ばしていただければと存じます」
レオンハルトの言葉に、エルディアがふわりと微笑んだ。
「ふふ……本当に羽を伸ばしてよろしいのかしら? この部屋が――あっという間に崩れ落ちてしまいそうだけれど」
その場の空気が、一瞬凍りつく。
貴族たちの顔から血の気が引き――次の瞬間、くすくすと笑い声が漏れた。
「さすが竜の女王……」
「お美しいだけでなく、冗談まで……」
恐怖と畏怖と笑いが入り混じり、場が妙な熱を帯びる。
(おいおい、冗談に笑ってるけど……竜族の“冗談”って、冗談にならないんだよな!?)
「……もちろんですとも」
レオンハルトは慌てて姿勢を正し、声を張った。
【あとがき】
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