64.晩餐会 ④
(ぶっ……! ちょ、ちょっと待ってルウティアさん!! こ控えの間、肖像の前、背後に侍従!!!)
思わず咳払いでごまかすユーリの横で、やわらかく笑った。
「ふふ……旦那様はね、するのもお好きでしょうけれど――いちばんお好きなのは、幸せにすることですのよ、ルウちゃん。言葉は大切に、ね?」
「そっか。じゃあたくさん幸せにしてもらおうっと!」
(やめて、追撃しないで! お願いだから声量だけ小さめで……!)
何やら後ろからヒソヒソ声が聞こえるが――
気にしたら負けだ、とユーリは心の中で念じた。
ちょうどそのとき、控えの間の扉が控えめに叩かれる。
銀の紋章をつけた侍従が恭しく一礼した。
「――ご準備が整いました。華楼小領公ユーリ・フォン・シュトラウス様、竜族ご使者エルディア様、ルウティア様。ご入場をお願いいたします」
(来た……! いよいよ本番だ)
ユーリは深く息を吸い、右手をエルディアへ、左手をルウティアへ差し出す。
母娘がそれぞれの手にそっと触れてくる温度に、胸の鼓動がひとつ跳ねた。
(胃、がんばれ。背筋、伸びろ。笑顔、崩れるな)
侍従が先導し、重厚な扉が静かに開いていく。
金の燭台が連なる回廊の先――光の海のような大広間が姿を現した。
シャンデリアが星座めいて煌めき、絹と宝石のざわめきが波のように押し寄せる。
入場の号令とともに、楽団の短いファンファーレが天井を震わせた。
ユーリは左右をエスコートしたまま、一歩、また一歩と歩を進めていく。
(大丈夫だ。いつも通り)
光の奔流を掻き分けるように進んだ、その先で――空気がわずかに震えた。
ざわ……。
最前列の老侯爵が金縁の単眼鏡を持ち上げ、その隣の若い伯夫人が扇で夫の肘を小突く。
波紋のように、視線と囁きが広がっていく。
「な、なんだアレは……」
「信じられん……舶来ものか?」
「舶来というより、アララトス山脈に住んでいるのだろう。であれば、飛来ものでは?」
「そんなことはどうでもいい。問題は……」
「さすが竜族……種族からして別格なのか……」
「見よ、両腕。あの豊饒の曲線――」「ちょっと、あなた!」
扇の骨がぱちん、とどこかで鳴った。
視線が刺さるのは、白銀と桃色――エルディアとルウティアの谷間、そしてウエストのくびれ、裾にのる豊満なライン。
男の喉がいくつもごくりと上下し、夫人たちの扇が一斉に深度を増す。
「親子で……だそうよ」「まあ」
「華楼小領公は節操というものをご存じありませんのね」
「私もあんなに素敵なドレスを着飾れるなら、妾でもいいわ」「お、おい!?」
楽団が短い合図を重ね、シャンデリアの光がその音に呼応するように瞬いた。
ざわめきは消えない。
むしろ、その熱を背に受けて歩くことこそが、今夜の役目なのかもしれない。
ユーリは肩の力をわずかに抜き、左右の温度を確かめるように手を軽く添え直す。
やがて王座の前――国王レオンハルト、王太后エリザベート、大王太后ヴィクトリアのもとへ。
背後の視線を断ち切るように、エルディアとルウティアの手を離すと、ユーリは片膝をついて臣下の礼を取った。
その瞬間、広間の空気がぴたりと凍りつく。
「……っ」「無礼な……!」
「いや……あれが竜族の矜持」「美しい……」
さざ波のような囁きが幾重にも重なり、ユーリの耳元まで届いてくる。
恐れと憧れが入り混じり、ざわめきは収まる気配を見せなかった。
横目に見やれば――
エルディアとルウティアは、当然のように優雅なまま王座を見据えている。
誰にも膝を折らぬ存在としての、揺るぎない姿で。
王座に並ぶ三人の表情は、それぞれまるで違っていた。
国王レオンハルトは拳を握りしめ、怒りに震える顔をしている――はずだった。
(セリーヌ様というものがありながら……なんだ、あのおっぱいは……けしからん。けしからんぞ……!)
(だが、けしからんからこそ、尊い……! いや違う、俺は国王だ、耐えろ! ……なのに、なぜだ……下が、下が反応している!?)
口では怒りを呑み込みながら、息子がむくむくと主張を始めていることに気づき、さらに顔が熱を帯びる。
(まさか……自分が、この国の王ともあろうものが――人妻が好きとでも言うのか?)
レオンハルトは、心の奥から溢れ出す、どうしようもない熱に、拳を握りしめ歯を食いしばる。
【あとがき】
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