64.晩餐会 ②
(な、なんだよこの迫力……! 視線が……いや、視線を外せって……!)
つい目が行ってしまう。
母の方は柔らかな谷間を雪のような布地に包み、ほんのり薔薇色の香りまで漂ってきそう。
娘の方は可憐さに隠れているはずなのに、しっかりと形を主張していて――
ふたり並んで押し寄せてくる圧倒的な存在感に、思考が一瞬まっ白になる。
(おっぱいの二連撃って反則だろ……!)
(くそっ、男としての理性が試されてる……! これが俺の“試練”か!?)
慌てて背筋を伸ばし、わざと視線を天井に逃がす。
だが遅かった。
ルウティアが小首をかしげて微笑み、エルディアは艶やかに唇の端を上げて――
まるで、全部お見通しだと言わんばかりの眼差しを向けてくる。
(俺……こんなにモテモテで大丈夫なんだろうか……)
セリーヌの采配か、華楼小領公という地位のせいか、それともインチキ商人ギフトのせいか。
理由はどうあれ――この幸福に感謝するほかない。
けれども、胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
(……でも。あの時、教会で見たミュゼは……)
ひとりで耐えているであろう彼女を思えば思うほど――
こんな幸せを手にしている自分が、どこか怖くなる。
そんなユーリの動揺を見透かしたかのように、アイナが涼しい顔で口を開いた。
「本日の晩餐は、大王太后陛下がドラゴン族の使者を歓迎するために設けられた席でございます。……同時に、明日の旦那様への審問を牽制する意図も含まれておりますので、どうぞお心得くださいませ」
そこで言葉を区切り、すっとユーリを見上げる。
次に吐き出された言葉は――まるで小悪魔の一突き。
「それにしても――エルディア様、ルウティア様、ルクレティア様、アリシア様、イレーナ様、エレノア様、ローラ様、シル様、メルリナ様……。こんな短期間で一体、何本の華を手折れば気が済むのでしょうか」
「え、えぇ……」
(いやいや、言い方! 数え上げられると余計に俺が女ったらしみたいじゃないか!?)
アイナはさらに、微笑みを浮かべて追撃した。
「これ以上、後宮妃が増えましたら、侍女の手が回りません。……旦那様、侍女の要員追加を強く求めさせていただきますわ」
「そ、それは……検討しておくよ」
(……でも確かに、世話される人が増えたらクロエたちの負担もシャレにならないよな。仕方ない、ロザリーにも手伝ってもらおうかな……)
「さすが、旦那様です。私ももうメロメロになってしまいそう……今度のご奉仕……楽しみにしていてくださいね」
アイナが艶やかに微笑み、耳元へふっと吐息をかける。
その挑発めいた声音に、鼓動がどくんと跳ね上がる。
――けれど、もうそれだけで慌てふためくユーリではない。
(……ふふん。さすがにアイナさんの揶揄いには慣れてきた。なら、今度は俺が仕返しだ)
彼女の囁きが耳にかかった、その瞬間。
ユーリは横に顔を傾け――ちゅっ、と唇を重ねた。
一瞬、触れただけ。
けれど、柔らかな弾力と仄かな甘い香りが、脳天まで痺れるように駆け抜ける。
「――っ!?」
アイナの身体がびくりと震えた。
瞳を大きく見開き、頬がみるみる紅潮していく。
いつもの小悪魔めいた微笑は影もなく、呆けたように口元に指を当てて――
「な、な……旦那様……っ、そ、そういう反撃は……あ、あまりに……ずるすぎます……!」
胸元を押さえ、小さく身をよじるアイナ。
耳まで真っ赤に染まったその姿は、普段の余裕を知る者なら誰もが信じられないほど愛らしかった。
(……仕返し成功、だな)
唇に残る微かな温もりと、アイナの狼狽。
そのギャップに、胸の奥がじんわりと甘く満たされていく。
いつもは翻弄されてばかりの相手を逆に悶えさせる――
その優越感と幸福感に、ユーリは思わず笑みをこぼした。
【あとがき】
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