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旦那様のお仕事はハーレムです~商人チートで最強領地~  作者: 葛餅もずく


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63.不浄なるもの ③

 視線を上げずに言い切るその口ぶりに、フィオナはますます頬を膨らませる。

 セリーヌは、二人のやり取りにふっと微笑みを漏らし、フィオナへと穏やかに視線を向けた。


「そうね、可能性として、親方さんの妹君が現場を目にしていたのかもしれませんわ」


 セリーヌが穏やかに告げると、傍らのアメリアが静かに首を傾げた。


「……セリーヌ様。さすがに、それは都合がよすぎる展開ではございませんか?」


「でも!」


 フィオナがすぐさま声を張り上げ、拳を握る。


「人一人が攫われてるかもしれないんだよ! 希望は、全部ちゃんと拾ってあげなきゃ!」


 リーゼロッテが真剣な面持ちで口を開いた。


「……問題は、いつ、どこで攫われたかですわね。夕餉ゆうげの前といえば、まだ空は明るい時間帯。嫌がらせの準備をしていて、それを目撃したのだとすると……」


 その言葉につられ、一同が机の上の地図へ目を落とす。


「クロエさんがつけた印は、この辺りが多かったですわよね」


 リリアーナが赤い×印を指でなぞる。


「はい。不浄なものを投げ込まれた工房です」


 クロエが淡々と頷いた。


「……そういえば、親方は最初にこちらへ協力してくださったのに、まだ被害に遭っておりませんわね」


 リリアーナの言葉に、セリーヌは瞳を細め、ゆっくりと頷く。


「ええ、まさにそこです。親方は真っ先に狙われてもおかしくない立場。――それが今まで無事だったのは、むしろ不自然ですわ」


 逡巡するように唇を結び、リリィは恥ずかしそうに指先で裾をいじった。

 しばらく言い出すのをためらっていたが、ついに意を決したように小声でぽつり。


「……もしかしてですけれど、その……に、人糞を運んでいるところを見てしまった……とか……」


 恥ずかしそうに指先で裾をいじりながらの一言に、場が一瞬しんとする。


(まぁ……こういうのは“肥やし”と言えばよいのに。……ふふ、でもきっと、旦那様なら可愛らしいと微笑んでくださるのでしょうね)


 リーゼロッテが思わず眉をひそめて言葉を継いだ。


「……でも、夕餉前にそんなものを運ぶなんて、やっぱり不自然ですわ」


 アメリアが腕を組み、落ち着いた声で応じる。


「もし見られてしまったのなら、雇い主に“どうするか”相談するでしょうね。……殺しにまでは至らないにせよ、足がつかぬよう隠す必要があります」


 リリアーナが小首をかしげ、地図に視線を落とす。


「つまり……もう連れて行かれたと見るべき、ということですの?」


 アメリアが静かに頷いた。


「はい。時刻を考えれば、その可能性は高いでしょう」


 室内に、わずかな沈黙が落ちる。

 その空気を断ち切るように、セリーヌが瞳を細め、低く響く声で告げた。


「……そう。――そうなると、今夜あたり、親方の家に“投げて”くるかもしれませんわね」


 その言葉に、緊張と苛立ちとが入り混じり、一同の背筋が自然と伸びた。


「匂いがきついですから、溜め込むよりは今日のうちに片づけたいはずです」


 クロエが冷ややかに言いながら、板の上で赤チョークを滑らせる。

 粉が散り、丸で囲まれた地点が次々と浮かび上がった。


「……まったく、くだらない嫌がらせのくせに、手間だけはかけますのね」


 その声音に、セリーヌは小さく目を伏せる。


(……本当に。人を困らせる知恵ばかりは、いくらでも湧いてくるのですわね。――だからこそ、こちらは一歩先を読んで動かなければ)


 顔を上げ、皆を見渡す。


「分かりましたわ。では――肥やしを探す班、親方の家で待ち伏せる班、そして荷車を引いて外に出た者がいないか聞き回る班に分けましょう。領を守るためにも、そして何より――旦那様に余計なご心配をおかけしないために。一刻も早く手を打たなければなりませんわ」


 セリーヌの声が落ち着いて室内に響くと、皆が息を合わせるように背筋を伸ばした。


「「「はいっ!」」」


 重なった声が、執務室の空気を一変させる。

 先ほどまでの不安は消え、そこにあるのは一つにまとまった意志だけだった。


「よーし、任せて!」


 真っ先に立ち上がったのはフィオナだ。

 拳を握りしめて気合を入れる姿は、場の空気をさらに明るくした。


「……声量だけは一人前ですわね」


 クロエが冷ややかに呟くと、フィオナは「な、何それっ!」と真っ赤になって振り向く。


 そんな二人のやり取りに、セリーヌは小さく笑みを洩らし――そして再び真剣な眼差しを皆に向けた。


「さあ、動きますわよ。――領を守るために」

【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


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