62.王太后との駆け引き ④
(……っ、顧問職? 王都に、わたくしを縛り付けるつもり……!?)
辛うじて笑みを保ちながら、彼女は慎重に問い返す。
「今までに聞いたこともない職でございます。しかも、私のような田舎の、ただの女男爵夫の側室にお与えあそばせば――陛下の御差配を怪しむ声が立つやもしれません」
しかし王太后は一切揺るがず、愉しげな瞳を覗かせる。
「ふふ、心配する必要はないわ。この職は陛下の発案。地方領の産業を庇護し発展させることで、わが国をより強き国へと発展させる計画ですのよ」
オフィーリアは静かに目を伏せ、王太后に悟られぬよう深く息を吐いた。
(――やはり、ただの顧問職ではなく、わたくしを王都に縛り付け、目と耳を置くための策。ですが、陛下の発案ともあれば断れるはずがございません。それに……領地発展のためと言われてしまえば)
そして、完璧な笑みを整えて答える。
「……恐悦至極に存じます。陛下の大計に、わずかなりとも力添えできますなら、これ以上の幸せはございません」
(最悪、領地の視察と称して戻ればよろしい。旦那様の力があれば、王都と後宮の行き来など、たやすいこと……)
その冷静さに気づく由もなく、王太后は唇に艶やかな笑みを浮かべた。
「ふふ。“おめでとう”と言っておくわ、オフィーリア。――晴れて、また私の“庇護”のもとで生きられるのですもの」
その声音には、甘やかな毒と支配の香りが濃く滲んでいた。
(……王太后の思い通りになんて、なってやるもんですか!!)
突如、扉が激しく叩かれた。次の瞬間、礼を欠いたまま扉が押し開けられる。
王太后の眉がぴくりと動き、室内の空気が凍りついた。
「……無礼者。何事か」
それでも女官はひざまずく暇もなく叫んだ。
「王太后陛下、急ぎの報告にございます!」
不機嫌さを隠そうともせぬ王太后に女官は怯むことなく一歩進み出て、彼女の耳許に顔を寄せ――小さく囁いた。
女官の小声を聞いた瞬間、王太后の肩がかすかに震えた。
驚愕か、それとも――歓喜か。
次の刹那、紅の唇がぞくりと震え、そしてにやりと弧を描く。
氷のようだった双眸に、ぎらぎらとした光が宿った。
「……皇国からの密入国者を捕らえた、ですって。ふふ……ふふふ……!」
紅の唇が震え、折れた扇子を握る指に力がこもる。
その声音は抑えきれぬ歓喜に滲み、女官をして背筋を震わせた。
「……まさか、こんな形で“切り札”が転がり込むとはね。皇国の姫ですもの、大切におもてなしをしなくてはいけないわね。――誰が良いかしら」
王太后はゆっくりとオフィーリアへ視線を戻し、甘やかな毒を含んだ微笑を浮かべる。
「ちょうどいいわ、貴方に専属侍女をしてもらいましょう」
(……専属侍女!? つまり、王太后の傍で縛り付けるということ……!)
「大丈夫、レーベルク女男爵夫にはきちんと説明しておくわ。なんたって国賓待遇の姫の接待をできるなんて、田舎の領主としては名誉このうえないことですもの」
オフィーリアは静かに頭を垂れた。
その内心に、まるで薄絹を裂くような――小さな怒りと焦燥が走る。
「……はい。かしこまりました」
絹のように柔らかく、しかし決して断ち切れぬ――見えない拘束。
王太后の掌の上で踊らされている感覚に、胸の奥がじくりと疼いた。
それでも。
「ありがたきお言葉、王太后陛下。微力ながら、お役目、果たしてみせます」
微笑みを浮かべながら、オフィーリアは一礼した。
王太后の目には、その笑みに込められた毒を――見抜いていたかもしれない。
だが、それを楽しむかのように、彼女はふっと笑った。
「良い返事ね。――期待しているわ、“オフィーリア顧問兼お世話係”」
【あとがき】
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