61.再会 ④
礼拝堂の裏庭は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
青く澄んだ空の下、風に揺れる花々がやさしい香りを運び、
中ほどには白い柱に囲まれた東屋が、木漏れ日の中にひっそりと佇んでいる。
――この人と並んで歩くのは、いったい何年ぶりだろう。
ミュゼリアナは胸の奥に湧く熱を抑えきれないまま、促されるまま東屋の中へ足を踏み入れた。
腰を下ろすと、少し高い位置の窓から差し込む光が、ユーリの髪をやわらかく縁取る。
金色の輪郭が、まるで手を伸ばせば溶けてしまいそうで――目を逸らせなかった。
あの頃と同じ笑顔なのに、どこか大人びていて、ずっと遠くに行ってしまったようにも見える。
「……こうして話すの、何年ぶりだろうな」
低く落ち着いた声が、東屋の静けさに溶けていく。
「……数えたことはありません。でも……すごく、長かったです」
目が合った瞬間、胸がきゅうと締めつけられる。
嬉しくて、愛おしくて、でも泣きそうで――そんな自分が少し情けない。
「ごめんな。何も知らせずに……あんな形で離れることになって」
謝罪の言葉に、首を横に振る。
やっと会えたのに、そんな距離を作る言葉は聞きたくなかった。
「……謝らないでください。お父様の決めたことなのです……
だから、私にはどうすることもできませんでした。
こうして、また会えたんですから……それだけで、十分です」
ユーリがふっと目を細める。
(……本当は――十分なんかじゃないのに)
もっと話したい。
もっとそばにいたい。
「……あの頃のこと、覚えてるか? 庭で一緒に木登りして、二人して怒られたやつ」
「でも……あのとき、ユーリ兄さまは、落ちた私を抱きとめてくれて……」
口にした瞬間、胸の奥に鮮やかに蘇る。
腕の中で感じた温もり、耳元で響いた鼓動――全部、まだ忘れていない。
「……あのとき私を守ってくれたんです。すぐそばで、息遣いまで聞こえるくらいに……」
その温もりを思い出すだけで、指先までじんわりと熱が広がっていく。
無意識に、膝の上で組んだ指に力がこもった。
「そうだったな。でも、手をすりむいて……母上に薬を塗られながら、ずっと泣きそうな顔してた」
「……泣きませんでした」
思わず口を尖らせると、ユーリが小さく笑う。
「……この十年、どうしてたんだ?」
彼の問いに、ほんの少し視線を落とす。
「……修道院で見習いを、奉仕をしていました。孤児たちや病の方の世話……そして、ユーリ兄さまのお母様の傍にいることを。
あのときからずっと……壊れてしまわれた心が、少しでも安らげるようにと、それだけを考えて」
言葉にしてしまえば簡単な日々だった。
けれど、その裏にあった孤独や不安は――声にすれば震えてしまいそうで。
ミュゼリアナは、静かに飲み込んだ。
「……そうか……ミュゼ、ずっと……母さんの傍にいてくれたんだな」
低く、わずかに震える声。
「……ありがとう。本当に……ありがとう」
ユーリのその瞳は、感謝と申し訳なさで切なさが滲むようで、
ミュゼリアナは小さく首を振った。
「……お礼なんて、いりません。私が……そうしたかっただけです」
視線が自然と下がり、組んだ指がわずかに震える。
「……だって……お兄さまのお母様は、私にとっても……家族ですから」
その言葉に、ユーリは一瞬だけ息を呑んだようだった。
「……ミュゼ……」
沈黙が落ちる。
「……これからは、もう一人で抱え込まなくていい。俺も……一緒に行くよ」
「……はい」
その一言が、心の奥にじんわりと広がっていく。
あたたかくて、くすぐったくて――でも、泣きそうになるくらい嬉しい。
(……これからも……お兄さまに会える……)
抑えきれない喜びが胸いっぱいに膨らんで、自然と唇の端がほころんだ。
視線を上げれば、すぐそこに優しい瞳。
こんなにも近くで、こんなにもまっすぐに自分を見てくれている――
それだけで、全身が熱を帯びる。
鼓動の音が、彼にも聞こえてしまいそうで……息を吸うのも忘れそうだった。
(……ずっと……この距離で……)
言葉にはできない想いを込めて、そっと瞬きをした、その瞬間――
次の瞬間、東屋の入口から差し込んだ影が二人の間に落ちた。
【あとがき】
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