表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旦那様のお仕事はハーレムです~商人チートで最強領地~  作者: 葛餅もずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

204/237

61.再会 ③

「……ユーリ兄さま……」


 その一言が、かすかに揺れて――

 次の瞬間、彼女の身体が、まるで引き寄せられるように動く。


 ぽすん。


 控えめな音を立てて、ミュゼリアナがユーリの胸に身を預けた。

 胸元のリボンがふわりと揺れて、頬が彼の胸に触れる。


 か細い腕が、そっと彼の背にまわされる。

 怖がるように、でも、二度と離したくないと願うように――

 ミュゼリアナは、しっかりと抱きついていた。


 神官服の薄布越しに感じる体温と、涙のぬくもり。

 細くて華奢だった少女の体は、

 今は柔らかく、ふくらみと熱をまとった“女”のものだった。


 だけど、その震えは――昔と、何ひとつ変わらない。


「……ミュゼ。……会いたかったよ」


 その声が、耳の奥でやさしく響く。

 次の瞬間、ミュゼリアナの胸の奥で――何かが決壊した。


 * * *


 ずっと、ずっと、会えると信じていた。

 その想いだけが、私を支えてくれた。

 けれど、何度も心が折れそうになった。

 会えるなんて、もう無理かもしれないと、祈るたびに思っていた。


(……でも……本当に……お兄さま……)


 この温もりが、嘘じゃないと信じたくて、

 腕に力を込めた。ほんの少しだけ、ぎゅっと。


 涙がとまらない。

 でも今だけは、泣いても許される気がした。


(……ようやく……会えた……)


「あら、もしかして……ユーリ様ですか?」


 背後から、落ち着いた声が届いた。

 ミュゼリアナはほんの少しだけ、抱きしめる腕を緩める。

 振り返らずとも、すぐにわかる。

 その穏やかな声音――神官服をまとったクラリスだ。


 ミュゼリアナは、名残惜しそうにユーリの胸元に頬を寄せたまま、ゆっくりと顔を上げた。


「お久しぶりですね。まさかここで再会できるとは思っておりませんでしたわ」


 クラリスは、ふたりの姿を見ても眉ひとつ動かさず、そっと微笑んだ。

 その眼差しには、過ぎた日々を思うやさしさと――見守るような光がにじんでいた。


「少し、お話してきては? ちょうど、礼拝堂の裏庭が空いておりますから……」


 優しくそう言って、クラリスは静かに庭の方を指し示す。


「……よろしいのですか?」


 ミュゼリアナが、ためらいがちに問いかける。


「久しぶりなんですもの、少しお二人で」


 その言葉に、ミュゼリアナは一瞬だけユーリを見上げる。

 胸に寄せた頬をそっと離し、名残を残しながらも、静かにクラリスへ頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 自分でも驚くほど、声が震えていた。

 それでも、胸の奥に溜まっていたものが、ようやく少しだけ溶けていくのを感じていた。


 涙は止まらないけれど――それでも、今のミュゼリアナは、たしかに笑っていた。


 その背後から、いつの間にか一人の女性が静かに歩み寄ってくる。

 背筋のすらりとした佇まい、ほのかに漂う香。

 上品さの中に、艶をにじませて――その眼差しは、やわらかな微笑を湛えていた。


「それでは、わたくしは先に館の方へ戻っておりますわね」


 鈴のような透き通るような声。


「えぇ、ありがとう。こちらは……大丈夫です」


 ユーリもまた、穏やかな笑みを返していた。

 その表情を見た瞬間――

 胸の奥で、ちくりと、何かが刺さる。


(お兄さま……?)


 胸の奥が、きゅう、と痛んだ。

 優しいのは知っている。

 誰にでも、分け隔てなく手を差し伸べる人だって、わかってる。


 ――でも。


 今だけは、その笑顔を、自分だけに向けてほしかった。


(お兄さまは……もう、セリーヌ様の旦那様で……

 それに、たくさんの女性たちに囲まれていて……)


 心の中を黒いモヤが蠢く。


 すぐそばにいるのに。

 ようやく、ようやく会えたというのに――

 どうして、こんなにも胸が、苦しいの……。


「……ミュゼ」


 ふっと、優しい声が落ちてきた。


「……せっかくだし、行こうか。クラリスさんが教えてくれた裏庭……静かで話しやすそうだし」


 その声音は、昔と変わらない――心の奥にすっと入り込んでくる温もりを帯びていた。

 胸を締めつける想いと切なさが重なり、言葉がうまく出てこない。

 ただ、俯いたまま必死に呼吸を整え――


「……はい」


 ようやく絞り出した声は、かすかに震えていた。


 歩き出した彼の背に、自然と視線が吸い寄せられる。

 その歩幅は、自分に合わせるようにゆっくりと――

 まるで昔と同じように、取り残さないようにと気遣ってくれているかのようで。

【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


ユーリの嫁国家計画、応援したいと思ってくださったら、

⭐評価と❤、ブックマークお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ