60.大王太后陛下ヴィクトリアとの密会 ④
(……くっくっく。まったく、恐ろしい青年だわい)
「はい。具体的には、開拓、輸送と資源の面で、大きな可能性があると考えています」
ユーリが一度息を整え、丁寧に言葉を紡ぐ。
(……あれ? 開拓?)
(輸送? 資源? いやいや、なんでそっちなんだ!?)
思わず、ガストンの脳内に“戦術”や“威圧外交”といった文字が散っていく。
てっきり“竜族の戦力をどう抑えるか”という話になると思っていたのに、蓋を開けてみれば――
(まさかの、“領地経営”だと!?)
「まず、竜族の火力を活かせば、これまで未開だった魔の森の奥にも手が届きます」
そう語るユーリの声音は、いつものように穏やかで柔らかい――のだが。
(ぬぅっ!? いきなり魔の森!?)
(瘴気まみれの化け物地帯に、“火力で突っ込む”って、どういう発想だ貴様ァ!)
(前国王が瀕死になった場所だぞ!?)
ソファに座るガストンは、内心で目を覆った。
(しかも、それを平然と“可能性があります”で済ませよった……)
事業計画の打ち合わせのはずだったのに、どうしてこう、話のスケールが毎回おかしいのだろう。
「ちょっと待って? “火力を活かせば”って、貴方まさか……本当に、焼いて進むつもりじゃないでしょうね?」
ヴィクトリアの声はやわらかく、それでいて微笑の奥にほのかに“上の者としての警鐘”が滲む。
年長者らしい気遣いと知性が宿る、上品な問いかけだった。
「いえ、あくまで必要最低限です。森全体を焼き払うような真似はいたしません。
……実は、川沿いの一帯に重点を置いた開拓を進めようと考えています」
ユーリは一拍おき、まるで地図をなぞるように、テーブルに指を走らせる。
その表情は真剣そのもので、どこか“やって当然”と信じているような、まっすぐな目。
「川に沿って流路を整え、倒木の除去や浅瀬・岩場の掘削を進めて――
いずれは、船の定期航行が可能な“簡易運河”として整備するのが目標です」
その声に、一瞬だけ室内の空気が静まる。
(ぬぅっ!? 開拓というから魔獣の素材を集める冒険者の拠点でも作るかと思っておったが……まさが、川そのものを整える気か!?)
「その際には、竜族の力を借りて川底を深く掘り下げ、
出た土砂で両岸に堤を築きます。水位の安定と、氾濫防止を兼ねた構造にする予定です」
レーベルクの領都のすぐ脇を流れるその川は、北から南へと抜け、魔の森の南東部を貫いて、やがて東の海へと続いている。
「しかも、その堤防にブレスで熱処理を施せば、
魔獣が近づきにくくなる“外壁”としても機能します」
(ドラゴンに土木工事をさせる……だと!?)
(焼きブレスで堤防建設!? 儂の土建業者仲間が聞いたら腰を抜かすわ!!)
「最終的には、この水路を通じて東の海へ――
自由都市同盟との貿易ルートに繋げられればと」
(……は?)
(……自由都市との貿易? 本気で言っておるのか!?)
(あの商圏に独自ルートで切り込むなど、王都の豪商連中ですら夢物語だぞ!!)
ガストンは心の中で、思いっきり椅子から転げ落ちた。
けれど外見は冷静そのもの。
商会会頭の顔は、一糸乱れず貼り付いたまま。
自由都市同盟とオルタニア王国には、いま直通の交易路はない。
物資は北の共和国を経由するか、南の皇国の港を回るしかない。
(だが皇国経由の海路は、魔族の襲撃を受けやすい……下手をすれば全損だ)
(積荷どころか、捕虜として連れて行かれるという話も聞く)
ガストンは小さく息を呑み、静かに瞳を細めた。
(……東の海に抜けられれば、魔族も皇国も回避できる。安全で、速い。
それはつまり――“新たな国際航路”を生み出すということじゃないか!)
(ぐぬぬ……儂が二十年かけて夢見たルートを、
ドラゴンのブレスで、土砂焼いて、現実にしようとしておるとは……!)
「ふふ……相変わらず、突拍子もないことを平然とおっしゃるのね、貴方は」
ヴィクトリアは、呆れたように笑いながらも――どこか嬉しそうだった。
「自由都市同盟との貿易が可能になれば――
レーベルク男爵領は、もはや“辺境”とは呼べなくなるわね」
紅茶をひと口啜ってから、ヴィクトリアは微笑む。
【あとがき】
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