60.大王太后陛下ヴィクトリアとの密会 ③
言いながら、じわじわと背中に冷や汗がにじむ。
「……結果的に、倒すことができただけですよ?」
どうにかそう締めくくったユーリに、ヴィクトリアはふっと微笑んだ。
「ふふ、分かったわ。でも――査問会では、もう少しうまい言い訳を用意しておくことね?」
さらりと告げられたその一言に、ユーリの背筋がひやりと凍る。
「いくら特殊な魔獣と契約しているとはいえ、
魔獣がドラゴンに勝つなんて、“あり得ない”話なのだから。
……それはそれとして――」
そう前置きしながら、ヴィクトリアはカップをそっと置き、ほんの少しだけ身を乗り出す。
「私が本当に興味を持っているのは――その“ドラゴン族”と、
あなたがどんな取引を取り付けたかということよ」
取引――なるほど、確かに出資者の立場からすれば気になるだろう。
ましてや相手は、竜族だ。
希少性どころか、そもそも誰も交渉ルートを持っていない。
(独占供給……それだけで、勝ち筋が見える)
ユーリは内心、静かにうなずいた。
事業において「調達先と独占契約を結んでいる」という事実は、
“他が真似できない仕入れルート”を握っているわけで――
それだけで、他に比べて優位に立てる可能性が高くなる。
(しかも、竜族の代表とその娘が、俺の嫁だし!!
ドラゴンの素材、空を飛ぶ能力、圧倒的な力……戦略の幅が広がらないわけがない)
領地の開拓、ギルドの再建、職人たちの雇用支援、食料供給――
そのどれもが、ここに座る三人……ヴィクトリア、ルクレティア、ガストンの莫大な“融資”によって支えられている。
「レーベルク男爵領を襲撃した黒竜のドランヴェルクさんからは、正式に謝罪を受けており、
現在は相互理解と友誼を結ぶ形で、関係構築に成功しています」
ヴィクトリアがわずかに頷く。
その目が「続きを」と促しているのを感じて、ユーリはやや言いづらそうに唇を引き結んだ。
「……なお、その際に訪れていたのが、元奥方であるエルディアさんと、おふたりの娘ルウティアさんでして。
現在、おふたりは“使節”という立場から、後宮に側室として加わっていただいています」
一呼吸おいて、さらに付け加える。
「ちなみに、ドランヴェルクさん本人は――いまは僕のことを“兄貴”と呼んで、なぜか舎弟のような……ええと、妙に慕ってくださっていて……」
やんわり笑ってはいるが、どこか遠い目だった。
「……いろいろと想定外でしたが、いまは非常に良好な関係を築けていると思います」
「ふふ……そんなことになっていたのね」
ヴィクトリアがカップを置きながら、どこか楽しげに微笑む。
「もしかして――あなたが王命を受けてすぐに王都へ来られたのも、そのドラゴンさんたちと一緒だったのかしら?」
柔らかな問いかけに、ユーリは小さく頷いた。
「はい。エルディアさんとルウティアさん――おふたりに運んでいただいて、馬車でご一緒しました」
「それじゃあ、その方たちも後でご挨拶しないとね。
それで……貴方の進めている計画に、どう関わってくるのか、教えていただける?」
ヴィクトリアの問いかけに、隣に座るガストン・ディオレアーノは、あんぐりと口を開きかけた。
しかし、間の抜けた声が喉から出る前に、慌てて唇を閉じる。
――商会会頭としての矜持が、寸前で彼を止めたのだった。
(ぬぅっ……ドラゴン族と結婚して、しかも空を飛んできて王都入りだと!?)
(挙げ句、黒竜に“兄貴”呼ばわりされて舎弟扱い……もはや意味がわからん!!)
目の前で紅茶を啜る青年――ユーリ・フォン・シュトラウス。
その柔和な笑みの奥に、いったいどれほどの“非常識”が詰め込まれているのか。
いまやガストンにも、到底計り知れなかった。
(初対面の時も相当な若造だと思ったが……気づけば、“竜を従え、国を動かす男”か――)
背筋に冷や汗がにじむのを感じながら、
ガストンは脳内で無意識に暗算を始めていた。
(竜族の軍事力……冷静に見積もって、単独で王国騎士団一個旅団分。いや、それ以上か。
それを味方につけるか、封じ込めるか――すべては女男爵夫次第……)
【あとがき】
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