60.大王太后陛下ヴィクトリアとの密会 ②
「そしたら、まあ……驚いたわ。
私を抱えたまま窓から飛び降りて、屋根から屋根へと跳び渡り――
気がつけば、城壁を越えていたんですもの。
本当に夢を見ているのかと思ったわ。
あれが後宮の日常だなんて……ふふ、恐ろしいわね」
(いえ、そんな日常は――さすがにナイデスヨ!!)
心の中で全力ツッコミを入れながら、ユーリはそっと目を伏せる。
アイナがそういう動きを“やってのける”のは理解している。しているが――
よりにもよって、大王太后陛下を連れて跳ね回るなんて、普通に考えて正気の沙汰じゃない。
だが、当のアイナは涼しい顔で紅茶のポットを持ち直し、あくまで冷静に言い放った。
「過剰演出のご要望に、お応えしたまででございます」
(いやいやいや……「演出」って、限度があるからね!?)
(大王太后陛下をお姫様抱っこして跳び回るの、完全にアウト案件だからね!?)
ヴィクトリア大王太后陛下は満足げに頷き、再びユーリに視線を戻す。
「ユーリさんって……本当に、変わったギフトをお持ちなのね?」
その声音には、好奇心と探るような興味、そして――上機嫌な含みが滲んでいた。
ユーリは一瞬だけ息を整え、静かに頷いた。
セリーヌから、自分の能力について包み隠さず伝えていることは、すでに聞いている。
大王太后陛下は、ユーリの進めている事業への出資者であり、セリーヌにとっては最大の後ろ盾。
万が一に備えて根回しをしておくのは当然のことで――
実際、辺境女伯強奪事件……すなわち、リリアーナを誘拐し、ギデオンを殴り飛ばした一連の騒動を、
綺麗にもみ消してくれたのも、他ならぬ大王太后陛下だった。
「は、はい……まずは、改めて御礼を申し上げます。
リリアーナ様の件では、多大なるご配慮をいただき――本当にありがとうございました」
ユーリは姿勢を正し、まっすぐにヴィクトリア大王太后陛下へ頭を下げる。
「おかげさまで、今もこうして……皆で、穏やかに過ごせています」
紅茶を一口啜ったあと、ヴィクトリアはふわりと微笑み、手を差し伸べた。
「ふふ、いいのよ。他の派閥への牽制にもなったから、こちらにも利があったわ。
それより、そんなところで頭を下げていないで……こっちにいらっしゃいな」
その言葉に応じるように、ルクレティアがスカートの裾をたゆたわせ、優雅にソファへ腰を下ろす。
位置は、ガストンと対面にあたる一人用のソファだった。
ユーリとオフィーリアも、大王太后陛下の正面にある一人掛けソファの横へと進み――
なぜか、ふたりして正座をした。
横目でちらりと見ると、オフィーリアも当然のように背筋を伸ばし、美しく座っている。
「ふふ……なぁに? あなたたち、どうしてそんなところで正座してるのかしら?」
ヴィクトリア大王太后陛下が、不思議そうに首をかしげる。
「そんなに畏まらなくていいのよ。ほら、それじゃお話できないじゃない――ちゃんと座って?」
穏やかな口調。
なのに、プレッシャーを感じるのは――三人の出資者を前にしているせいだろう。
ユーリとオフィーリアは、ぴくりと肩を揺らし、
どちらからともなく顔を見合わせて、同時に小さく頷いた。
「……失礼いたします」
そう言って、ふたりは揃って正座を解き、ぎこちなくソファに腰を下ろす。
場の空気がようやく落ち着いたところで、ユーリは少し姿勢を正し、静かに問いかける。
「……それで、ヴィクトリア様が私にお会いになりたいと伺いましたが――どのようなご用件でしょうか?」
ヴィクトリアはふと微笑み、紅茶のカップを傾けながら問いかけた。
「あなた、ドラゴンを――素手で倒したって、本当?」
さも何気ない調子で発せられたそのひと言に、
ユーリは口にしかけた紅茶を、あやうく吹き出しそうになった。
(ちょ、えっ!?)
(どこでそんな尾ひれがついたの!?)
(いやいや……ほとんどコクヨウさんのネコパンチだし。って、ある意味“素手”かも……?)
「自分が、ではなく、コクヨウさん――うちの契約獣魔がですね? あの、すごく頑張ってくれて……それで……」
【あとがき】
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