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1.ミサとからあげの出会い

いつだってそうだ。

私が好きな人には好かれない。


幼稚園生の時だったか、かけっこが速いカケルくんのことが好きだった。

でも、カケルくんは私には見向きもしない。


園で一番かわいいマミちゃんといつも一緒にいるカケルくんを見るのが辛かった。


その時から私は何も変わっていない気がする。

そう思わざるを得ない。


「ミサさん!また間違えてますよ!そうじゃなくてワンちゃんと気持ちをひとつに!

フィーリングが大事!わかる?ワンちゃんの気持ちになって!」


ペット専門学校。ペットマッサージの講師の藤岡先生がミサに語気を強めて言う。


教室でミサの他に、生徒が8名。

黒板には、居残り実習!と書かれている。


教室の窓には真夏の入道雲がわたあめのようにもくもくと張り付いている。

今にも手が届きそうだ。


教室はエアコンが効いていて、外のようには暑くないというのに、

熱血教師の藤岡先生のせいで、なんだが室温も高い気がする。


いや、大声で名前を呼ばれてみんなから注目されているせいで、緊張で暑く感じるのかもしれない。


小さい頃から動物が大好きで、特に犬と猫が好き。

だから、動物と関わる仕事がしたくてペット専門学校に入った。


なのに、実習では、大好きな犬に噛まれる!引っかかれる!

細くて白い腕には無数の生傷が絶えなかった。


なんで・・こんなに犬のこと大好きなのに。


それで幼稚園生の時のことを思い出していたのだ。


「ミサ、藤岡先生、いつになく熱が入っていたね。お疲れ、はい、あげる」


居残り実習が終わって帰る時、教室で友人のユミに話しかけられた。


いつも落ち込んでいる時に元気付けてくれる。

今日は自販機で買ってきてくれたであろう缶ジュースをくれた。


『ユミありがとう。なんで私、犬にこんなに噛まれるのかな・・』


「うーん、私が犬だったら、ミサのこと絶対噛まないのになあ

だってこんなに犬への愛があるのに」


真顔で言うユミがなんだかおかしくて笑ってしまった。


『なにそれ〜笑』


ユミと話しながら帰宅して、少しだけ元気が出た。





その日は朝から雨が降っていた。


ミサは毎朝の習慣になっている散歩をしに外に出た。


散歩している犬を見るのが好きで始めた習慣だ。

だが、運動にいいので、雨の日の犬がいないであろう日にも、毎日必ず散歩する。


本当は自分の犬を飼いたいのだが、賃貸アパートなので、諦めていた。


しとしとと降る雨は、傘に当たってリズムが出て心地よかった。


いつも歩いている住宅街。

ポツポツ、ポツポツ。という雨音に合わせて歩く。


雨も日の散歩もいいなあ・・


ポツポツ、ポツポツ・・ワン・・クゥーン・・


今、犬の声が聞こえた!?


傘をあげてあたりを見回すと・・

道の隅っこに茶色の子犬がこっちを見ている。


『か・・かわいい〜〜!!』


「ワン!ワン!クゥーン」


毛がもふもふで潤んだ瞳で見つめられると、

犬好きのミサは「連れて帰る!」としか考えられない。


でも、賃貸で母と二人暮らし。

きっと飼えないって怒られる。


でもでも、雨の中置いていくなんて絶対できない!

このままだと体温も下がっていっちゃうし・・


よし!保護して里親を探せばいいんだ!


ミサは屈んで、子犬にそっと手を伸ばした。

子犬はしっぽを振って、ヨタヨタと近付く。


抱き上げると、子犬は嬉しそうにワン!と鳴いた。





次の日の朝は顔をぺろぺろと舐められて目が覚めた。


何!?あ、からあげを拾ったんだった

子犬の名前は「からあげ」とつけた。

茶色の見た目だからからあげ。


昨日は忙しい1日だった。

朝からあげを拾って、まず動物病院に直行。


健康状態に問題はなくて一安心。

検査やら予防注射やらをしてもらった。


お母さんにバレないようにアパートに連れて帰った。


お母さんが出かけた隙を見計らってお風呂に入れる。

からあげのご飯はコンビニでドッグフードを買ってきた。


お腹が相当空いていたらしく、たくさん食べて可愛かったなあ・・


窓から見える空は昨日とは打って変わって快晴だ。

窓は閉まっているのに、セミの鳴き声が部屋の中まで響いている。


昨日のことを思い出して、ミサしばらく布団でぼーっとしていた。


「ワンワン!ワン!」


『なあに、からあげ

あんまり鳴いたらお母さんにバレちゃう』


ミサは犬に話しかけるのがクセだった。

動物専門学校でも、マッサージの時必ず話しかける。


でも返ってくるのは吠える声だけ。

引っかかれることも多い。


「鳴かない方がいいワン?なら喋るワン!

拾ってくれてありがとう!からあげって名前気に入ったワン!」


!!!!!


今、声がした!?

ミサは布団の中から飛び起きた。


「なにビックリしてるワン!

からあげはミサの傷が気になったワン

その傷から他の犬の匂いがするワン!」


子供のあどけないような声でからあげは言う。

と、眉を吊り上げて低い声になった。


「誰にやられたワン!?からあげ、怒ってるワン!」


「ミサの敵はからあげの敵だワン!!」


こうして犬に愛されすぎる生活が始まった。

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