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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

原作や原案ありの小説

最後の死守

作者: 本羽 香那


 とある弱小任侠一家の幹部会、風祭一家は現在自分達の縄張りが壊される危機に侵されていた。

 その相手とは、関東炎龍会。

 この業界だと知らない者がいないほど大きな会であり、弱小任侠一家と言った通り、風祭一家では歯が立たない。

 まともにやり合ったところで勝ち目などないのは、風祭一家の初代総長である俺がよく知っていた。

 抵抗するだけ無駄である。

 そんな風に諦め、部下達には何の指示が出来ないまま、彼らの侵入を見逃していたのだが、そんな中で声を上げるものがいた。


「オヤッさん!このままあいつらの好きにさせとくんすか?」


 実の娘である洋子だ。

 女でありながら、漢として育ったしまったため何かと強気な態度を取るのだが、それに反して俺は弱気な態度を見せてしまった。


「少し落ち着け!洋子!事はそんな簡単なもんじゃねぇんだ……もちろん奴等の侵攻を野放しにはできねぇのも解ってる…けど…事はそれだけじゃねぇんだ……ここでドンパチ始まってみろ俺達を信じて今日まで来てくれた堅気衆やお前達の命だって保障はできねぇ……」


 言葉を発した後こんな態度をしてしまった自分を落ち着かせようと、ショートピースにマッチで火をつけて、紫煙を吐き出す。

 その一方で、洋子は先ほどよりも真剣な眼差しで俺にさらなる説得を試みた。


「オヤッさん……いいや…父さん堅気衆はあたし等が絶対守る!それに…あたしは父さんの組に入った時から決めてたよ……あたしの全てを父さんに預けるって!だから父さんも信じてよ!あたし等を!」


 娘にそこまで言われて今までの自分が情けなくなる。

 娘はここまで強い意思を向けてくれていたのに、本当に今まで何メソメソしていたんだか。

 俺は勢いよく着ていた一家の半纏を脱ぎ、背中一面に彫られた枝垂れ桜の弁財天を皆の前にさらけ出す。


「……ふ…まさか決起の時を実の娘に諭されるたぁな…ったく俺もヤキが回っちまったなぁ……洋子!裕司!一家の仕切りはお前達二人に任せる!奴さんにゃあ俺一人で掛け合ってみるよ……俺に万が一の事があったとしても二人は一家の再興だけを考えてくれ!」


 本当に苦渋の決断だったが、ここまでされたらしないわけにもいかない。

 枝垂れ桜の弁財天をさらしたのはこれ以上後ろを向かないことへの示しとしてだった。

 正直まだ不安はある。

 本来ならこんなことしたくない。

 しかし、その意に反して俺はこんなことを口に出していた。

 

「お前達! 行くぞ! 今こそ立ち向かえ!」


 風祭一家総長として、彼らに行うべき行動を告げる。

 彼らはそれを待ってましたとのばかりに大きな声を上げて、次々と外に出ていった。

 もう後には戻れない……そんなことを彼らの行動が示していた。


 ――それにしても本当に情けない総長だな。


 部下達の素早い行動がさらなる追い打ちをかけた。

 自嘲してしながらも、覚悟を決めて関東炎竜会の会長のもとへ向かった。

 

 案の定彼は予想した通りのところに構えていた。

 彼は俺の姿を捉えて高笑いする。


「ようやく総長のお出ましかな? 風祭源治 !」


 何とも掴み所のない漢だ。

 聞いているだけで腹が立ってくる。


「待たせたな、会長さんよぉ! わざわざこんな弱小任侠にようこそ」

「どうやら歓迎されているようだな」

「はぁ? 歓迎? 忌避の間違いだろ」

「あら残念だ」

「どうやら俺を怒らせたいようだなぁ! ならお望み通りにしてやるよ!」


 俺は持ってきた一丁の銃を取り出しすかさずに引き金を引いた。


「お前の行動は丸見えなんだよ」


 渾身の1球をあっさりと躱され、寧ろ自分の方へと引き金が引かれてしまう。

 気付いた時にはもうすで遅し。

 脳や心臓は逃れたものの、脇腹を見事に貫通してしまった。


「くっ………」


 やはり無謀だったかと後悔が過ってしまう。

 最初から挑まなかった方が良かったのではないかと。

 しかし、ここを守ると決めて洋子や裕二、部下達をこんなところで諦めて良いのかという疑問が過ぎる。

 そんなのいいわけがない!

 彼らが貫こうとしている死守は、絶対に成し遂げなければならない!

 そう思うと一気に力が湧いてきて、落とした銃を拾い彼の胸に向かって最後の引き金を引いた。

 彼はそのことに気づき、また避けたものの、避けきれずことが出来ずに左肩に貫通してしまう。

 

「うわっ!」


 俺はどうやら相手にダメージを与えることに成功したらしい。

 少しは俺の死守を彼に少しは見せつけることが出来ただろうか。

 そして、洋子や部下達に示すことが出来ただろうか。


 そんなことを思いながら、俺の意識は途絶えていった。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 総長としての、決意と覚悟。それが一矢を報いる原動力となったのですね。一家をまとめる立場であり、一人の自分、そして父親としての立場でも葛藤する主人公の姿が印象的でした。 ラストは…最後の死…
[良い点] 任侠の世界で生きる人々の強い想いを感じました。 大切な人たちを最後まで守ることができるのは、本当の漢だと思います。 読ませていただきありがとうございました。
2024/06/26 17:26 退会済み
管理
[一言] うおおおおおおん!!!!(ブワッ)
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