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第4話 守るための剣


 早朝、いつもならゆっくり読書をしている時間に、鍛錬場でパクスパパと対面する。


 昨日約束した剣の手ほどきを受けるためだ。


 学ぼうと思った理由は二つある。


 一つは、剣というものに興味が湧いたからだ。パクスパパの見せてくれたあの剣技は、まるで芸術のようであった。あれほどまでに感動したのは初めてだったし、俺もあんなふうに剣を振るってみたいという少し厨二病のような恥ずかしい考えもある。


 前世、趣味と呼べる趣味はライトノベルを読んだりアニメを見たりすることだった。そのため剣には少しばかり憧れがあるのである。


 もう一つは自衛のためだ。一応赤ちゃんを卒業してからは屋敷の中を動き回ったり、毎日軽く腕立て伏せや腹筋は行っていたのだが、この世界には盗賊や暗殺者などの人間わ魔物に魔族などの外敵などの危険も多いらしいので近接戦闘も学んでおくべきだと思ったからである。


 魔法は駄目だったので、剣も駄目かと思っていたため、許可してくれたのにはとても驚いた。


「それじゃあ、まずはヴァニスがどれくらい動けるのか確かめてみるか」

「はい。父上」


 まずは、パクスパパから言われるがままに腹筋や背筋、腕立て伏せに短距離走などを、まるで学校の体力測定だな?とか考えながら軽くこなしていく。


「よし、そのくらいで大丈夫だ」

「ふぅ…」


 うん。結構悪くないんじゃないか?


 前世とは違い、この体のスペックはとんでもない。運動なんてしていなくても動けるし、どれだけ食べても脂肪もつかない。動体視力や反射神経も今までの生活でとても優れていることがわかる。


「うむ。子供用の剣を振るには十分だな…よし。ヴァニスに合った剣を持ってきてやろう」


 そう言い、パクスパパは鍛錬場の端にある倉庫の方へ歩いていった。


 手持ち無沙汰になったので、鍛錬場を見渡すと、少し離れたところでラーミナが剣を振るっていた。とても綺麗な姿勢だ。まるで6歳の女児とは思えない。


 彼女のように剣を振れるようになれたらなとは思う。


(可愛い女の子とは仲良くしたいんだけどな…)


 何故かは不明だが、俺は彼女に嫌われているようなのである。


 彼女と会うのは、廊下ですれ違うときとか、食事の時くらいだ。話したこともあるが、業務的な話しかしてないよなぁ…?


 当然貴族だからと威張ったりとかはしていない。ブラック企業で辛かったのは、仕事量、睡眠時間、そして上司のパワハラであった。


 だからこそあんなふうにはならないように気をつけているつもりだし、家族や使用人達からの評価も高いと思ってはいる。


 それに彼女はとても可愛い。今はまだ幼いが、成長すればとんでもない美少女になることは間違いなしだ。是非とも仲良くしていきたいと思っているのだが…


「……やはり、血は争えない…というわけか」

「はい?」

「ラーミナのことが好きなのだろう?」


 いつの間にか後ろに来ていたパクスパパは、彼女をぼーっと眺めていた俺に向かってそんなことを言い出す。


「いえ…別にそんなことは…」


 たしかに可愛いなとは思うが、今のところ恋愛をしたいとは思わない。というか自由な時間を過ごしたいという気持ちのほうが強いのだが、目の前の男は勘違いしているのか更に続ける。


「隠さなくていいさ。俺も小さい頃は目移りしてばかりでなぁ…この立場だからまずいとはわかっていたのだが、随分とやんちゃしたものだ」

「は、はぁ……」

「そりゃもう遊びまくったぞ?まぁ、テネルに色々と怒られてしまってからは気をつけてはいるがな!別に使用人に手を出すことには何も言わんが、ちゃんと同意の上で、責任も取るんだぞ?」

「いえ、ですから…」

「よし!俺はもう少しヴァニスに合う剣を探してきてやろう!頑張るんだぞ!俺もテネルも相手が貴族じゃなくても構わないからな!」


 そうヴァニスに言い、早足で去っていくパクス。


(えぇ…ん〜まぁ、ちょうどいい機会だし話しかけてみるか…)


 勘違いされてしまったようだが、あとで誤解をとけば大丈夫だろう。


「ラーミナ、おはよう。少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「……何でしょうか」


 俺が話しかけると、一度手を止めて、こちらのほうを向いて返事をしてくれる。一応反応はしてくれるんだよなぁ…


「実は僕、こんなふうに剣を学ぶのは初めてなんだよね。それで、何か注意しておくこととかを聞いておきたいなぁ…なんて…」

「…パクス様からお聞きしては?」


 それもそうなんだけど…


「まぁ、先輩からの助言は聞いておくべきかなと思ってね。ラーミナはもう数ヶ月以上習ってるんだよね?」

「…はい。3ヶ月程度になります」

「3ヶ月!凄いね。まだ、6歳なんだよね?メイドさんとしての仕事もしながら剣も学んでなんて…僕じゃ無理かもなぁ…」

「…お褒めにいただき光栄です」


 やっぱり距離があるんだよなぁ…なんでなんだ?直接聞いてみる?でもこれで臭いとか言われたら立ち直れなくなるかも…いやでも、いい機会だ。直せるところは直したいし、しっかりと聞いておこう。


「……ねぇ、ラーミナって、僕のこと嫌い?」

「………いえ、そのようなことは…」


 思い切って、そう切り出すと、彼女はそう言葉を濁す。


「本音は?…あ、もちろん安心してよ。他の人に言いふらしたりとかはしないからね?」

「………そう…ですね。私は…ヴァニス様に…」

「────おぉ!すまんすまん、選ぶのに時間がかかってしまった!」


 そこでタイミング悪く、パクスが帰ってくる。ヴァニス様に?一体何なんだ!?


「それじゃあ、ラーミナはもう少しだけ素振りをしていてくれ。ヴァニスはこっちにだ」

「わかりました」


 そうして彼女は素振りに戻る。惜しかったな…あと少しだったのだが、一番重要なことが聞けなかった。そして、彼女に聞こえないくらいの距離まで移動する。


「どうだ?距離は近づいたか?まぁ、お前は見た目も中身も完璧だからなぁ…余裕だったろ?」

「ぁ〜いえ、あまり手応えは…」

「ん?そうか、まぁまだまだこれから知っていけばいい。時間なんていくらでもあるんだからな!よし。それじゃあこっちも鍛錬を始めるか」


 ようやく本題に戻る。パクスは表情を切り替え、真剣な様子でヴァニスに言う。


「ここから話すのは、剣を持つ者の心構えだ。これに納得できないのなら、お前に剣を持たせることはできない」

「…は、はい」


 いつになく真剣な様子で、そう話すパクスに、少し緊張しながらも返事をする。そんなヴァニスを見て問題ないと思ったのか、パクスは語りだした。


「剣は誰かを傷つけることができる。それはわかるだろう?だが、剣は誰かを守ることもできる。剣には、使う者の意志が宿るのだ」

「使う者の意志…ですか?」

「そう。そして、俺が教えるのは、守るための剣だ」

「守るための剣…」

「うむ。大切な友人を、国を、家族を、守るために、剣を振るい…他者を傷つけるのだ」

「父上の守りたい人は母上でしょうか?」

「それもある…が、俺が剣を手に取ったわけは、エリュシア王国の王、レックス・エリュシアのためだ。実はあいつとは昔ながらの友人なんだが、あいつはよく命を狙われるのだ。魔族やら他国の暗殺者やらに…だから俺は剣を持ったんだ。友を守るために」


 そう、少し困ったように言うパクス。


 守るための剣…か。剣を持ちたいと思った理由なんて、ただの自己防衛と憧れだ。誰かを守るなんて、そんなこと考えたこともなかった。


「お前には、剣を振るう覚悟があるか?大切な何かを守るために、人を傷つける覚悟が、誰かを殺す覚悟が」

「……覚悟」


 そうだ。剣を持つということは、誰かを傷つけるということだ。


 俺に、人を殺すことができるのか?


 ……わからない。現代社会で生きてきた俺に、いじめられても抵抗すらしてこなかった俺に、虐待されても逃げようともしなかった俺に、そんな大層なことができるのだろうか?


「はははっ。やはり難しいか!やっぱり、ヴァニスもまだまだ子供だな!」


 悩む俺を見て、パクスパパは俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。筋肉質で、手入れがされてないガサガサで…大きな大人の手だ。


 そんな手に撫でられ、少しだけ心が落ち着く。前世も合わせれば37歳なのに…少し恥ずかしいな…


「安心しろ。別に今すぐ決めることじゃない。それに、木の剣を振るっていれば自然と浮かんでくるものだ」

「……わかり、ました…」

「うむ。それじゃあまずは素振りと行こうじゃないか!」


 そんなこんなで、考えがまとまらないまま、剣の修行が始まった。


 最初は、パクスに問われた覚悟について悩んでいたヴァニスだったが…パクスの授業は、そんなことを考える余裕など全く無いほどハードな内容であることを、このときのヴァニスはまだ知らない。





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