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第2話 新たな世界


「うむうむ…」


 本のページをめくり、気になっていたことを調べていく。


 この世界に来てから一年くらいが経過した。


 テネルママの乳も卒業し、二足歩行に進化した俺は、現在こっそりと屋敷の書庫に潜入している。


 こっそりの理由は、一人で屋敷内を移動すると怒られるからである。そのため昼はテネルママと遊びながらもできるだけ眠り、真夜中にこっそり書庫を探索しているというわけだ。

 

 今俺が読んでいる本は、世界の常識的なものがまとめられたものだ。最初は魔法の使い方的なものが書かれた書物に飛びついたのだが…全く読めなかった。なんと魔法を使うには詠唱が必要で、しかも詠唱は俺の読めない文字であったのである。


 炎の初級魔法ですらなかなか長い詠唱が必要で、詠唱短縮という技術を使うことで、執事のドクトゥス爺のようにスマートに魔法を使うことができるようだ。


 だからといって怠けたりはしない。こういうのは転生物の小説でもよくある、子供の時が一番成長する的なやつじゃないかと俺は思う。そう思う理由がこれだ。


「ぬぬっ…うにゅぅぅぅ〜」


 情けない声で力み、手から白色のスライムのようなナニカを生み出す。大きさは30cmくらいのバルーンアートの風船のようなサイズ。


 最初は5cmの球体くらいのものだったのが、今ではこんなにも大きくなっていたのである。


 これは全く根拠のない予想だが、これは魔力的な何かではないだろうかと俺は思っている。


 これが魔力なのかは不明ではあるがこうやって出し続けることでどんどんと増えていることは間違いない。


 そんなこんなで、最近は魔力的な何かを育てながら、世界の常識を学んでいるというわけだ。


 もちろん他の勉強も疎かにはしていない。知識というのは大切だ。


 家庭の事情で前世は勉強もできず中卒でそのままブラック企業に入社したからな…前世と同じ過ちだけは繰り返したくないのである。


 今まで、結構な本を読みあさって、この世界についてはなんとなく理解することができた。


 まず、この世界は人界と魔界、そして天界に別れている。


 人界には、人間、エルフ、ドワーフ、獣人などの種族が暮らしている。種族以外には特に何か特出したものはなく、地球とほぼ変わらない場所であるようだ。世界観は中世ヨーロッパモドキのような感じで、貴族社会で貧富の差が激しかったりもする。


 外敵は魔物がメインで、稀に魔族が襲ってくるくらいのようだ。


 俺が生まれた国は、この人界の大国、エリュシア王国らしい。そんな国の貴族として生まれたので、人生勝ち組…なんて油断せず頑張っていきたい。


 魔界には、異世界の定番種族の魔族が暮らしている。魔族とはとても広い定義で、実際にはサキュバスや竜人など獣人と同じように魔族に含まれる種族が沢山いるみたいだ。


 全体的に人間と敵対しているが、友好的な魔族も少なからず存在している。魔王と呼ばれる魔族の王もいるらしい。


 一つの国が魔界全土を統一していて、人間より圧倒的な戦力を保有している…可能性がある。本に書いてあった内容で、完全な憶測のようだが。


 そして、天界。天界には、天使、そして神が暮らしている。神が存在する…これには無神論者もびっくりである。


 地球で言うところの天国みたいな所らしいが、空想の産物ではなくしっかりと存在している場所のようだ。


 魔族とは完全に敵対していて、冷戦状態みたいだ。ただ、天使が魔界に行けば弱体化するし、魔族が天界に行けば弱体化するしで、どちらも攻めるに攻めれず何千年という月日が経過しているようだ。


 人間とは非常に友好的…というか神は人間の創造主なので信仰もしている。が、神が人間を作り出したかどうかは、根拠のない話らしい。


 そんなこんなで、この数日でいろいろな情報を集めることができた。


 ……そろそろ帰るか。


 もうそろそろ帰らなければ見回りの使用人の人が来てしまう。いないことがバレる前に帰ることにしよう。


 ちなみに深夜徘徊がバレると3日は夜の監視がついてしまうので注意が必要だ。


 そしてこっそりと扉を開くと…


「────ヴァニス様?」


 どうやら手遅れだったようだな。




           ▼




「ママって、呼んでみてくれないかしら?」

「う?あーあ?」


 今日は、部屋に珍しい人が来ている。


「違うぞヴァニス!ほら、パパ、だ。ぱーぱ」

「……まーま!」


 俺がそう言うと、一人はとても喜びの表情を浮かべ、もう一人はとても落ち込んだ顔をした。


 一人は俺のマイエンジェル、テネルママである。最近肌の艶が良くなっている気がする。彼女の女神への成長は留まることを知らない…


 そしてその隣で必死に俺にアピールしているのが…


「パーパ!パパだぞ〜!?」


 そう。俺の父親である、パクス・フェリクスである。


 金色の髪に紫色の瞳、筋肉質な体と精悍な顔立ち。身長は190cmくらいか?めっちゃ高身長だ。

 

 ちなみにフェリクス家は、エリュシア王国の辺境伯であり、強大な権力を持った貴族である。そんなフェリクス家現当主が、このだらしない顔をした男性というわけだ。


「……ぱーぱー」

「そうだぞ、パパだ!俺はパパだぞぉ!ふ、ふはっ…俺はもう、この世に未練はない…!」

「良かったわね、あなた…!」


 そう涙を流しながら俺に頬ずりしてくる。髭がチクチクしていたいですよパパ!


 パクスパパは、執務が忙しかったのか、少し前までは全く部屋に来なかったのだが、最近は余裕ができたのかとてもハイペースで会いに来てくれる。


 ただ、仕事の合間合間で抜け出しているようなのですぐに使用人に呼ばれてどこかに行ってしまうが…


 髭がチクチクするのが難点だが、それを抜きにすればとても優しい父親である。


 テネルママの話では、エリュシアの英雄なんて異名もあるらしく、10人の魔族相手に単独で勝利したらしい。


 剣の達人らしいので、俺も是非とも剣というものを扱ってみたいが…まだ早いだろう。

 

「ほら、もう一回、ママって、まーまって!」

「まーま!!」

 

 そんなこんなで、二人を満足させていく。最近言葉を話せるようになってきたためか、言ってほしい言葉を何度も繰り返し言わさせられる。


(でも、これでもう30回目だぜ?テネルママ…)


 他にも、ドクトゥス爺が夜にじいじと呼んでもらえないかとこっそり来たり、昨日からずっと彼らのことを呼び続けている。


 ゲシュタルト崩壊しそうだ。そろそろ休ませてほしい。


 すると、そんな願いが届いたのか、一人のメイドが部屋に来る。彼女は確か…メディウスだったか?


 この辺りでは珍しいらしい、真っ白な髪に赤い瞳を持った女性だ。


 このフェリクス家のメイド長で、他の使用人達の指示や管理をしている。ドクトゥス爺が一番上ではあるようなのだが、パクスパパ専属のようなので実質的には彼女がこの家の家事を掌握しているのだ。


「失礼します。旦那様、奥様、お客様がお越しになりました」

「ぬ?客人?今日はそんな予定は…」

「それが………という方で…」

「なっ!わかった。今すぐ行こう」


 耳元でコソコソと何かを話すと、パクスパパはだらしない表情を切り替え、そう返事をする。


「それじゃあ、いい子にしてるんだぞ、ヴァニス」


 そう俺にいい、パクスパパはテネルママを連れて部屋を出ていった。


 そして、部屋は俺一人となった。それなら魔力練習でも…ん?


 そこで部屋に誰かが残っていることに気がつく。


 メディウスさんだ。彼女は俺の方をじっと見つめて何か思い詰めた表情をしている。何だ何だ…?


「………」


 数秒間の沈黙のあと、彼女は部屋をあとにした。


 えぇ…?何その意味深なやつぅ…


 困惑である。彼女が思い詰めた表情をしているところなんて初めて見たな。


 いつも冷静でテキパキと仕事をするタイプのため、あんな表情をしているのを見たことは一度もなかった。


 俺に何かができるとは思わないが…まあ、気に掛けておくか?


 悩みというものは他人には打ち明けにくいものだ。何かしら悩みがあるのだろうと俺は考えた。



 真実とはそんなにも単純なものではないのだが、その時の俺には知る余地もないのであった。


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