第0話 プロローグ
「…………」
家の扉を開き、フラフラと覚束ない足取りで帰宅する。
声を出す力などない。もう限界だった。
俺の名前は社会の底辺、32歳。
ブラック企業に囚われた哀れで愚かな社畜である。
1日15時間労働で定時以降はサービス残業で終電もなく会社で寝泊まり。休日出勤は当たり前で有給を取れたことは一度もなく、パワハラは当たり前。
そんな企業で、俺は働いていた。当然転職もしようと考えた。
だが、中卒で馬鹿で無能な俺を受け入れてくれる会社なんてこの会社以外存在しないということを上司によって教育され、今で17年目だ。
辞めればいい、そう思うものもいるかもしれないが、俺は生きるためには働かなくてはならない。本当はこんなことを考えている暇なんてないのだ。
「…早く…寝なきゃ……」
急いで寝なければ、あと三時間後の出社に間に合わない。
重い足をどうにか動かし、クタクタになった布団に倒れ込む。
そして、泥のように眠り…ん?
窓の外が微かに明るくなる。
こんな時間に何だ…?疑問に思った俺は、何故か布団から立ち上がった。
普通なら気にしない、無視して寝るような出来事だ。
だが、今日はなぜか気になってしまったのだ。
どうにか重い足を動かし、カーテンを開く。そこには眩い光が窓一面を照らしていた。
「………は?」
その瞬間、光は勢い良く窓を突き破ってくる。
まずいっ…そう思うがもう遅い。
その光の正体は、輝く岩…つまり隕石だったのだ。
まるでスローモーションのように、こちらの方に迫ってくる隕石。
……あぁ、死ぬのか。
あまりにもあっさりとした結末であった。
この32年間、何かを成し遂げたことなどなかった。満足できることなどなかった。安心することなどなかった。目的もなかった。願いもなかった。
今思えば、俺がこの人生で叶えたことなど、何一つなかったのだった。
努力はした。人一倍勉強したし、運動も健康を維持するために欠かさなかった。だが、報われることは一度もなかった。
横に飛べば、助かるかもしれないな…そう思いながらも体は動かない。
隕石なら避けても普通に死ぬか?とも思うが、直撃しなければ生き残る確率も僅かにだが存在するだろう。
だが、体は動こうとしない。
死んで楽になる。そんな考えが俺の頭の中を支配していた。
もう疲れたのだ。生まれてからいい思い出なんて一つもなかった。
父は酒にパチンコ三昧で働かず、母は男遊びがひどく毎日他の男と遊びに出かけていた。
そんな二人がうまく行くはずもなく、俺が小学生の時に離婚。子供の俺は押し付け合いの末、結果的に父親の方に引き取られた。だが、そんな父親の元でうまく行くはずもない。
毎日暴力を振るわれた。タバコの火を背中に押し付けられたこともあった。給食費もまともに払えず、風呂に入れず不衛生で飯も食えず骨のように痩せた体。そしてそんな子供を周りは気味悪がりいじめが起きて…
小学校の頃は酷かったなぁとは思う。
そして中学生の頃も変わらずであった。小学生の頃のような違っているものを遠ざけるようないじめとは違う陰湿で直接的ないじめで、寧ろ状況は悪化した。
毎日放課後に呼び出されサンドバッグになり、金を要求される日々。教科書を破られて新しいものに買い換えることもできないし親に相談するなんてできるはずもない。
教師も責任を負いたくないのか見てみぬふりで、助けてくれる人なんてどこにもいなかった。
どうにか卒業するが高校に行ける金なんてないのでそのまま働く。そうして選んだ企業はまるで世界の闇を押し固めたようなブラック企業。
そんな企業だなんて判断できない俺は、その企業で今まで働いてきたというわけだ。
別に、生まれや育ちに文句を言おうとは思わない。自分よりも不幸な者たちも沢山いるだろう。
ただ…
(来世があるなら……もっと楽しく生きたいなぁ…?)
そして、全身に信じられないほどの衝撃と熱を感じ…俺は意識を失った。




