表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

第9話 凱の阿修羅琴よ、なびけ

「さてさて、阿修羅(あしゅら)になったときの名は、今は置いて行こう」


 俺達は、美久羅(みくら)くん、稚田(わさだ)くん、馬酔木(あせび)くん、摩耶(まや)くん、それから、俺自身の凱に戻り、制服姿で、題経寺へと戻る。

 千葉(ちば)秋田(あきた)勢の美久羅(みくら)くんと稚田(わさだ)くんが学ラン、他三人はブレザーだ。


帝釈天(たいしゃくてん)本人は、もう、奥に行ったのかな」


 お寺に入って直ぐにお守りが売っていた。


「皆、京都もいいけれども、柴又もね。少し見て行く?」


 四人揃って激しく首肯したのが、可笑しかった。


「七福神守、楽しそうで可愛いやん」


 意外と女子受けするタイプの美久羅(みくら)くんだ。

 仲間が多いものな。

 七百円か。

 じゃらんと根付風なので、きっとお財布につけるだろうな。


稚田(わさだ)は、入試直前っすよ。皆もコツコツと勉強するんっすよ」


 試験合格成就御守の青を稚田(わさだ)さんがお買い上げだ。

 五百円で合格できたら、素敵なお買い物だろう。


「きゅん。僕は可愛いキャラもののお守りだな。水色が綺麗だ」


 六百円か。

 この間は四百円だった気がする。

 健康御守のブルーを選ぶ。

 元気なことはよきことよ。


「病気平癒、いいですね」


 本格的だ。

 木箱入り、千二百円とはな。

 ご家族用だろう。


「私は、この安産のお守り」

「は! 舎脂(しゃちー)様?」


 木箱に入って、千五百円もする。

 本気出していませんか。


「俺は、ぎゅうしただけだよ? 大丈夫、手を繋いでも心があたたかくなるだけだから、お産はないと思います」

「ええ? お父様と話が違います」


 頬を膨らませているのが、愛らしい。


「嘘吐きましたね、父王」

「我なり。さあ。虫よけだわい」


 てくてくてくてく。

 ざわざわ。

 まあ、奥様的にそぞろ歩きをする。

 その後、参道の入り口にあるお団子屋さん、高本屋(たかもとや)の暖簾を潜った。


「いらっしゃいませ」

「お邪魔いたします。向こうでも構いませんか?」

「どうぞ、こちらになります」


 野郎ども五人とレディー一人で奥にある座敷の方へ上がった。


「おー、いいね」

「デス」


 俺は、わちゃわちゃするのが大好きだ。

 いいな、コイツらとしみじみと思う。


「おーい。(がい)の奢りやけ、じゃんじゃん持って来て!」

「んだと? 俺の口癖が『じゃん』だからか?」


 俺は美久羅(みくら)くんの手前におり、右隣はどうしてか舎脂(しゃちー)様がお座りになる。


「まあ、先程こちらへ向かうときから、お言葉が変わりましたね」

「流石に舎脂(しゃちー)様は分かりますね」


 美久羅(みくら)くんにハイタッチをされる。

 男同士で嬉しくもないが、女子では恥ずかしくて困るからね。


「それそれ、中学のときは、どうしてそんな風に言うのか不思議だったけれども、理由があるんやんね?」

「まあ……」


 コイツらになら、話してもいいか。


「そう言えば、美久羅(みくら)くんは小五のときに父の葬儀に来てくれたね。皆が、『じゃん』ばかり言っておかしかった。実は、父は、神奈川(かながわ)出身なんだ。馬鹿らしい位に『じゃんじゃか』言葉に交じるから、気になった特別な『じゃん』の日になったとさ、まる」


 青い模様の白いお皿に、お団子が五つころんと重ねられ、餡子がふわっとかかっている。

 それが六つ来たせいでもないだろう。

 静まり返ってしまった。

 暗い話だったか。


「要するに、亡くなったお(とう)さんの気持ちを尊重されているやんね」


 場の空気をお団子の雰囲気にする為、一ついただいた。


「んぐんぐ……。形ばかりだったかなと反省しているさ。美久羅(みくら)くん」

「なぜに反省なんてしているの。想い出は張り裂けそうなときに、吐き出していいんやんよ」


 そんな顔をしているのかな。

 今の俺。


「ワタクシ、今の話を聞いて、初めて涙が出そうになりましたデス。お父様の件、同情いたします。ワタクシの父は、科学者なのですが、実験中に怪我をしてしまいましたデス」

「泣いたらいいよ。摩耶(まや)くん」


 人に声を掛けながら、俺が先に泣きたい気持ちだ。

 さっきから、情けない。


「それもワタクシの目を人工のものにする手術するときでした。機器の故障で、電気火傷をしてしまったのデス」

摩耶(まや)(こう)くん、心を開いてくれてありがとうな」


 お茶は、自分らで大きな急須から注ぎ合う。


稚田(わさだ)篤幸(あつゆき)くん、大先輩の三年生なのに、俺が差し置いてリーダーシップを取ってしまい、すみませんでした」

「気にする内容ではないっす。連携プレイがよかったと思うっす」


 稚田(わさだ)くんは、ぐっと、湯飲みのお茶を空にした。


稚田(わさだ)は、個人的に女性が苦手なんっすが、舎脂(しゃちー)様は格別に美しく愛らしくて、ドキマギしているっすよ」


 どうしましたか、稚田(わさだ)くん。


阿王(あおう)(がい)!」

「どうした? 馬酔木(あせび)くん」


 皿を幾枚も散らかして食べている。

 隠れ甘党じゃないか。

 

「忘れ物していないか。『じゃん』がないよ」

「だから、俺は、『灼熱(しゃくねつ)腕釧(わんせん)』に誓って、封じたんだ」


 今もブレザーの制服の下に、金の輪を感じる。


「これからの俺は、現世に取り残された舎脂(しゃちー)様を阿修羅大王(あしゅらだいおう)の納得が行くように、お守りする使命を感じている」


 トゥルンルンルン……。

 シャララララン、ツァルルル……。


 俺は、闘って変わった訳ではない。

 チームタッグを組んでから、よく考えた。

 仲間とも友達とも言える不思議な縁を感じた。


 トゥルンルンルン……。

 シャララララン、ツァルルル……。


「――凱?」

「ああ! 阿修羅大王(あしゅらだいおう)! 俺達は、これからも繋がって行けるのか?」


 別れたくない。


「大王?」

「……」


 そのとき、小さく聞こえた。


「お主次第だ」

「……俺が? 俺次第で、再び、天地鎧(ガイナーオン)が叶うのか!」


 俺は、一人お団子屋を飛び出した。


「どうしたやん、(がい)?」


 阿修羅像(あしゅらぞう)は京都にある。

 西におられるのだろう。

 茜色の空へ向かって叫ぶ。 


阿修羅琴(あしゅらきん)よ、なびけ――!」


 それは、虚空にはね返る。

 俺の声ではない。

 聞いたことのある俺の腹からのものだ。


(がい)阿修羅琴(あしゅらきん)よ、なびけ!」





―― 凱の阿修羅琴よ、なびけ 【了】 ――

こんばんは。

いすみ静江です。


この度は、本作にお付き合いくださり、誠にありがとうございます。

お気に召したキャラクターやエピソードがございましたら、幸いです。

じゃんってうるさかったらすみません。

また、お目にかかる日を楽しみにしております。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ