ブラッド・ウォーマー
初投稿です。
拙い文章ですが頑張りましたので、様々なご意見、批評をお待ちしております。
『アルター級母艦"クエスタ"、着陸まで30分』
無機質な女性の声が響き渡り、艦内に一瞬緊張感が走る。しかし乗員らはすぐに毅然とした面持ちに戻し、黙々と各々の作業を再開した。
再び動き出す人垣。その中を、1人の少女が歩いていく。
"探索者"の名を与えられた小型戦艦"クエスタ"の一室。少女はそこで歩みを止めると、ノックをして声を張り上げた。
「作戦の最終確認に参りました。入室の許可を」
「許可する」
透き通った、しかし低音の声を聞きいて、少女は"Office Room"と記された電子文字をタップし、ドアを開ける。中では青年というには幼い紅瞳の少年が、テーブルの倍の高さに積み上がった書類と格闘していた。
「書類作業、大変そうですね」
そう微笑んだ少女――リリー・レティシアは艶やかな金髪を空に舞わせながら少年の元へと近づいた。
「お前、他人事だからって…。全く、何故上層部は書類を全面電子化しないんだ」
「秘匿性の高い情報の漏洩及び紛失を防止するため、とおっしゃられていましたね」
「明らかに現物の方が失くし易いだろ。というか、お前確認に来たんじゃないのか」
「あら、そうでした。では現在の艦内外における状況について、ご報告していただきます」
彼女は背筋を伸ばして、脇に挟んでいたタブレット端末を開く。
「まず、艦内状況に関しまして、全動力及び推進器、その他の全設備に異常はありません。また全乗員の健康状態も全て正常値です」
「つまり、問題ないと」
「ええ、艦内に関しては」
少し含みのある言い方に、少年は怪訝そうな顔をした。
「大気圧・気温・湿度の数値は全て許容範囲内です。また、着陸地点の地形も問題はありません」
「では、何が問題と?」
しばしの沈黙。そして、リリーは口を開いた。
「先ほど着陸地点を決めるため地形スキャンを行なっていたのですが…そこでとある反応を得ました」
「…とある、反応?」
「生命反応です」
「!」
彼は跳ね上がるように椅子から立ち上がった。そして、その反動で積み上がっていた書類が盛大に崩れ落ちた。が、それに構わず少女は続けた。
「もしこの生命が地球から発生した者であるのなら、この約200年の間に地球は緩やかに再生していた、と言うことになりますね」
「そうか…だが、違う線も可能性としては十分にあるな」
「そしてその生命が、我々に友好的かどうかもわかりません」
「うーん…まぁ、今の時点でできることはないから、要警戒ってことで」
「了解しました。じゃ隊長、作業頑張ってくださいね♡」
そう言うと彼女は、そそくさと部屋から退出した。少年はふうとため息をついて作業を再開する。
「片付けぐらい手伝ってくれ」
少年は部屋に散乱した書類に目を移し、天を仰いだ。
『着陸まで、残り15分』
艦内アナウンスが鳴る中、全ての準備を終えた隊員たちが集会場に集まっていた。
「地球圏第一調査隊、整列」
先ほどの少年が、凛々しい顔で整列した彼らの前に立っていた。
「これより我々は地球の北半球、北アメリカ大陸北東部に着陸する。各自配置につき、先日採用された作戦案βを実行してくれ」
「「「「了解!」」」」
掛け声と共に隊員たちが一斉に行動に移る中、少年とリリーはその様子を見つめていた。
「ついに…始まるんですね」
「…ああ」
そう言って少年――カルタ・イェンラムは、わずかにその紅い瞳を揺らした。
黒い宇宙に漂う星々の中に、澱んだ空気を放つ星がいる。
青き星、地球と呼ばれていたその星は、今では薄汚れて微かに燻んだようなみ空色の輝きをたたえており、生命の息吹すら感じられなかった。
かつてこの星を支配していた人類は、この星の豊かな資源を使い果たし、更に様々な有害化学物質の排出により汚染した。その業が祟ったのか、地球は多くの脅威的な規模の自然災害に見舞われ、人間は愚か、あらゆる生命体の命を刈り取った。
残された数少ない人類は半ば追い出されるように地球から果てなき宇宙へと旅立っていった。
しかし、旅立った者たちは地球を見捨てたわけではなかった。むしろ彼らは己らの罪を深く自覚し、再生の手立てを探るべく危険を覚悟し星々を巡る旅に出たのだ。
遥か彼方の星にて生活圏を築いていた人類はある時、辺境にて半永久的に荷電粒子を放出し続ける性質を持った紅い鉱石を発見する。「エターナルブラッド」と呼ばれたこの鉱石は、後の人類の「あたりまえ」を根底から覆したのだった。
エターナルブラッドによって科学力を急進させた人類は、当初の想定を遥かに越える早さで地球再生計画の第一陣を放ったのだった。
『"クエスタ"、着陸体制に入ります』
楕円球型の空中戦艦は着陸のため、徐々にその船体を傾ける。徐々に高度を下げ、ついに目的地に――とその時、
「グオオオオオオオオォォォォッ!!!!!!!」
轟音が、艦内に響き渡った。
「な、なんですか今の!」
カルタと共に執務室へと戻っていたリリーは、驚きを隠さずそう叫んだ。
「わからない…"クエスタ"がなんらかの衝撃を受けたってこと以外は」
『全搭乗員に警告。敵性飛行物体による攻撃を感知。損傷率は0.2%。各員は速やかに敵性物体の排除してください』
艦内アナウンスが戦闘員の招集を艦内に伝達される。カルタは即座にリリーに目配せし、管制室に行くよう促した。
リリーは真剣な顔になって頷くと、管制室の方向――艦の頭端へと向かう。
「さて…行くか」
カルタはコートを翻し、リリーとは反対の方向へ彼女とは逆の方向へと足を進めた。
エターナルブラッドの恩恵は生活水準のみならず、兵器の戦略的効果の向上をももたらした。エネルギーの実質無限という利点は、兵器としての極地といってもいいほど魅力的なものである。よって、数多くの兵器が開発され、そのほとんどは危険性を考慮し設計図を残すにとどまった。だが、あまりの利便性・有用性の高さから、それらの例に漏れたものがある。
「それが我ら第十三技術師団の開発した"ウォーマー"なのじゃ!」
キュピーン、と人差し指を立てて、幼女というに相応しい少女が決めポーズをした。……しばしの沈黙ののち、自身の背丈の半分ほどの少女の熱弁を黙って聞いていたカルタは、呆れたように目を伏せる。
「それは何度も聞かされたよ…。で、ライカ、機体整備はもう終わってるのか?」
「当たり前じゃ!いつでも使えるよう万全の状態にしておくことが我らの仕事じゃからの!」
元気のいいロリババア…もといライカはバチコーン、というウィンクと共にカルタにサムズアップする。
ウォーマー。それはエターナルブラッドを機体の動力源とした、10m高ほどの人型駆動兵器である。多くの禁忌たる兵器を生み出した第十三技術師団によって生み出されたもので、利便性・実用性・有効性が極限まで追求されているまさに兵器の究極。その戦力はたった一機でかつての巨大兵器"光陰の矢"にも匹敵するほどである、と言われている。
しかし、あまりの技術力の高さからその整備性は至難を極め、実質的に第十三技術師団の整備と管理の下でなければ運用不可能である。
(艦体の砲撃では細かい射撃は難しいが、ウォーマーであればそれが可能だ。それに今後のためにも、早めに実戦に慣れておきたい)
カルタが思案を巡らせていると、ライカに頭をスパーンとはたかれた。ふと我に返ると、他の戦闘員は既に配備された機体に乗り込んでいた。他に乗れそうな機体もなさそうなので今回は見学かな、と呟くとライカに半目で睨まれてしまった。
「"組織"内でトップクラスの操縦適性を持つお主を乗せんでどうするのじゃ。お主には特別に専用機を用意しておる」
ライカに手を引かれ、格納庫の奥にある黒光りしたコンテナまで連れて行かれる。彼女が指示を出すと、そのコンテナの扉がゆっくりと開き始め、その白銀の体を外気に晒した。
「我ら第十三技術師団が総力を上げて開発した、人類の叡智の結晶足る機体。その代わりお主に使ってもらわぬば、コンテナの中で腐ってしまうほど他のウォーマーよりも操縦が難しい。…お主に扱えるか?」
半ば煽りにも聞こえるライカの激励をカルタは軽く受け流す。
「扱ってみせるさ、"彼"を」
と。
『搭乗者のデータと内部データを整合を確認………認証完了、ようこそ』
機体に乗り込んだカルタは、OSを起動させ生体認証を済ませる。すると管制室から通信が入ってきた。
『隊長』
「リリーか。何かあったのか?」
『本艦に攻撃した敵性飛行物体を捉えました。最大望遠で出します』
そう言われて画面に映し出されたのは、こちらを向いて牙を向く竜のような生き物の群れだった。しかもそれらの体の形状は歪んでおり、彼らが想像した生き物とは似ても似つかなかった。
「これが…今の地球の"生き物"…なのか」
『おそらくこの200年間でこの環境に適応したのだと思われます。地の利では彼方の方が上でしょう』
「うむ…。作戦は慎重に運ぶことにしよう」
『了解しました。ご武運を』
通信が切れると、左右についたレバーを動かし、射出台の場所まで歩いて移動する。
『どうじゃ?使い心地は』
ライカからも確認の通信が入ってくる。
「まぁ…悪くはないな」
『……それで済ませられるのか…従来型とは形状が全く異なる操縦席なのじゃが…』
カルタが返事をすると、ライカは不満げにぶつぶつと何事かを呟きながら通信を切った。
「…なんだったんだ、一体」
『隊長、そろそろ出撃しましょうぜ』
戦闘員の一人がカルタを急かす。確かにこんなところで油を売っている場合ではない。カルタはすまんな、と返すと再びレバーを前にゆっくり倒し始める。
射出台のハッチが開くと、そこに広がっていたのは、一つの草木も見当たらない荒れ果てた大地に、太陽が真上に昇っているにもかかわらず黄昏に染まった空であった。生温い空気が格納庫に吹き込んでくる。
カルタは機体を射出口の前まで移動させると、レバーを一気に奥へと倒す。
「カルタ・イェンラム、ウォーマー"ケルビエル"、出撃する」
白銀の機体"ケルビエル"が背部のバーニアを吹かして空へと飛び出し、他の戦闘員のウォーマーがそれに続く。
歪な竜は突如現れた人型の何かに一瞬おどろいだような仕草を見せたが、すぐさま彼らを再び睨み始めた。突如やってきた来訪者を完全に敵視しているようだ。戦う他ない。
『全機、作戦開始』
その瞬間、飛竜らが見据えていた敵は一瞬にして目の前から消え去った。そして数秒後には、彼らの躰は地に向かって下降していった。彼らは目を見開き、いつやられたのやもわからぬまま落下する。それと同時に、空薬莢の雨が降ってきた。
彼らのはるか上空では多くのウォーマーがライフルを構えており、おそらくこれで撃ち落とされたことは間違い無いだろうが、彼方らは巨大な人型がいつの間に自分たちよりも高い場所に移動していたことに気づくことができなかったのである。
『対象を撃墜。全機、本艦の着陸まで周囲の警戒を行い、その後帰投してください』
オペレーターの指示を受け、上空にて構えていたライフルを降ろしたウォーマーが方向転換して母艦へと帰っていく。戦闘は一瞬にして終わってしまった。
カルタはふぅ、と一息つくと帰路を辿る他の隊員らに続いて母艦へと戻る。暁を背に空を駆け出した"ケルビエル"はその白銀の体に光が反射し、夕暮れ色の光をたたえていた。
「…」
カルタたちが母艦に帰還している時、わずかな岩陰に飛龍たちが落ちる様子を見つめる人型の何かがいた。フードと思われるボロ衣の隙間から褐色の肌と銀色の髪を垣間見れる。
しばらくぼうっと見ていたその者は、夢から覚めたようにハッとなり、岩陰から飛び出しすぐ近くの洞穴へ走り出した。やがて、その者の姿は見えなくなる。
♦︎
荒廃し、人類がいなくなったはずの地球。
地球に取り残され、厳しい環境に耐え適応し、未だ生き残り続けている人々がいることを、星を捨てた人類はまだ、知らない。
閲覧ありがとうございます。
よければ評価、コメントのほどよろしくお願いします。




