ひき裂いちまえ
痛いの嫌い。
ほら どこが痛いんだって?
なんだそりゃ ちっぽけな傷
そんなんで しくしく めそめそ してやがんのか
おい そんなに痛いのかよ?
なんだそりゃ 浮かんだ血の球
ひょっとして 誰かに 可哀想がってほしいのか?
おい もっかいおれに そいつをよく見せてみろ
人差し指と 中指の爪をひっかけて
ひとおもいに ふりおろしてやる
へそのあたりまで ひき裂けて
飛び散った 赤い粘りのある液体が
おれの顔の半分を びちゃってぬりたくったし
ぼたぼた 血溜まりをつくってやがるのがわかるか?
わかったか?
これが痛みだ 痛むんなら このくらいちゃんと痛め
泣きわめけ もう嫌だって叫べ
なんでこんな苦しみがあるんだって
呪え 詛え おのれを 誰かを
崩れ堕ちろ
まだ膝に力が残ってやがるのか?
馬鹿が!
前髪をつかんで 無理矢理 顔をあげさせてやるぜ
涙でものが見えない目と 歯軋りの
きたねえつらを もっとよく見せてみろ
まだ 目に光があるみたいだな
まだ 歯を食いしばれるみたいだな
ぱんっ
ぱんっ ぱんっ
ふたつ みっつ
ほおをはたいてやったら 目が醒めたか
そしたら もういっかい 顔をうつむかせてやれ
涙でものが見えない目でも わかるよな
へそのあたりまで ひき裂けた疵
血の球を浮かべた ちっぽけな傷じゃねえ
そいつこそが おまえのほんとの痛みだ
ほら そしたらまた こみあげてきただろう
泣きわめけ もう嫌だって叫べ
だが 足りない
足りなきゃ おなじことを何度でもしてやる
前髪をつかんで 無理矢理 顔をあげさせて
ほおをはたいて 目を醒ましたあと うつむかせてやる
吐き出すんだよ!
それでもまだ足りなきゃ
疵に指をつっこんで えぐり出せ
そんで からっぽになっちまえばいい
膝の力も 目の光も 食いしばる奥歯も
ぜんぶ失くして 崩れ堕ちろ
そしたら はじめて
おまえのことをだきしめてやる
そこまできちんと 疵つくことができたなら
助けをもとめた おまえを赦してやる
だから それができないうちは甘えるな
疵ついて だきしめられたいとすがることを
甘えだなんて言ってやしないさ
きちんと疵つきもせずに
そんなものを求めるおまえに
虫酸がはしるし 反吐がでるだけだ
きちんと疵ついて
そのうえで だきしめられたいとすがるなら
誰がおまえを責められる?
誰がおまえをみじめだと嗤える?
責めさせときゃいい
嗤わせときゃいい
だけど おれはだきしめてやる
責めないし 嗤わないで
だけど やっぱりおまえは馬鹿だって
あきれながら だきしめてやる
力なく折れた膝
光を失くした目
すりへった奥歯
へそのあたりまで ひき裂けた疵のある胸
そいつが いまのおまえの姿だ
忘れるな ちゃんと見ろ ちゃんと痛がれ
おまえのあしもとの血溜まりに 足を踏み入れて
返り血で汚されてまで
だきしめてやるって言ってくれるあいてがほしいなら
それが おまえのすべきことだ
いまのおまえの姿を
忘れるな ちゃんと見ろ ちゃんと痛がれ
そしたら おもうぞんぶん
だきしめられたいとすがるがいいさ
そこまできちんと 疵きずつくことができたから
だきしめられたいとすがるんだってのに
誰かが おまえを責めるなら
誰かが おまえをみじめだと嗤うなら
そんなのかってに責めさせときゃいい
そんなのかってに嗤わせときゃいい
誰かっていうより。
自分に、もうひとりの自分が言ってますね。