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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

テーマなし詩集

ひき裂いちまえ

作者: 歌川 詩季

 痛いの嫌い。

 ほら どこが痛いんだって?

 なんだそりゃ ちっぽけな傷

 そんなんで しくしく めそめそ してやがんのか


 おい そんなに痛いのかよ?

 なんだそりゃ 浮かんだ血の(たま)

 ひょっとして 誰かに 可哀想(かわいそ)がってほしいのか?


 おい もっかいおれに そいつをよく見せてみろ

 人差し指と 中指の爪をひっかけて

 ひとおもいに ふりおろしてやる

 へそのあたりまで ひき裂けて

 飛び散った 赤い粘りのある液体が

 おれの顔の半分を びちゃってぬりたくったし

 ぼたぼた 血溜まりをつくってやがるのがわかるか?


 わかったか?

 これが痛みだ 痛むんなら このくらいちゃんと痛め

 泣きわめけ もう嫌だって叫べ

 なんでこんな苦しみがあるんだって

 呪え (のろ)え おのれを 誰かを


 崩れ()ちろ

 まだ(ひざ)に力が残ってやがるのか?

 馬鹿が!

 前髪をつかんで 無理矢理 顔をあげさせてやるぜ

 涙でものが見えない目と 歯軋(はぎし)りの

 きたねえつらを もっとよく見せてみろ

 まだ 目に光があるみたいだな

 まだ 歯を食いしばれるみたいだな


 ぱんっ


 ぱんっ ぱんっ


 ふたつ みっつ

 ほおをはたいてやったら 目が醒めたか

 そしたら もういっかい 顔をうつむかせてやれ

 涙でものが見えない目でも わかるよな

 へそのあたりまで ひき裂けた(きず)

 血の(たま)を浮かべた ちっぽけな傷じゃねえ

 そいつこそが おまえのほんとの痛みだ


 ほら そしたらまた こみあげてきただろう

 泣きわめけ もう嫌だって叫べ

 だが 足りない

 足りなきゃ おなじことを何度でもしてやる

 前髪をつかんで 無理矢理 顔をあげさせて

 ほおをはたいて 目を醒ましたあと うつむかせてやる

 吐き出すんだよ!

 それでもまだ足りなきゃ

 (きず)に指をつっこんで えぐり出せ

 そんで からっぽになっちまえばいい

 (ひざ)の力も 目の光も 食いしばる奥歯も

 ぜんぶ()くして 崩れ()ちろ


 そしたら はじめて

 おまえのことをだきしめてやる

 そこまできちんと (きず)つくことができたなら

 助けをもとめた おまえを(ゆる)してやる


 だから それができないうちは甘えるな

 (きず)ついて だきしめられたいとすがることを

 甘えだなんて言ってやしないさ

 きちんと(きず)つきもせずに

 そんなものを求めるおまえに

 虫酸(むしず)がはしるし 反吐(へど)がでるだけだ

 きちんと(きず)ついて

 そのうえで だきしめられたいとすがるなら

 誰がおまえを責められる?

 誰がおまえをみじめだと(わら)える?


 責めさせときゃいい

 (わら)わせときゃいい


 だけど おれはだきしめてやる

 責めないし (わら)わないで

 だけど やっぱりおまえは馬鹿だって

 あきれながら だきしめてやる


 力なく折れた(ひざ)

 光を()くした目

 すりへった奥歯

 へそのあたりまで ひき裂けた(きず)のある胸


 そいつが いまのおまえの姿だ

 忘れるな ちゃんと見ろ ちゃんと痛がれ


 おまえのあしもとの血溜まりに 足を踏み入れて

 返り血で(よご)されてまで

 だきしめてやるって言ってくれるあいてがほしいなら

 それが おまえのすべきことだ


 いまのおまえの姿を

 忘れるな ちゃんと見ろ ちゃんと痛がれ


 そしたら おもうぞんぶん

 だきしめられたいとすがるがいいさ


 そこまできちんと 疵きずつくことができたから

 だきしめられたいとすがるんだってのに



 誰かが おまえを責めるなら


 誰かが おまえをみじめだと(わら)うなら


 そんなのかってに責めさせときゃいい


 そんなのかってに(わら)わせときゃいい

 誰かっていうより。

 自分に、もうひとりの自分が言ってますね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何かの本質にせまろうとしている気がある人、 誰になんと言われようと、そういう人を尊敬します。 私の尊敬なんてどうでもよかろうとも。 [一言] 身体が、痛いのは怖いですが。
[一言]  わかるとわかりたくない、綯い交ぜの気持ちで。  甘えなのかもしれませんが。  我慢しないでとも言えて。  加減、難しいですね。  一方でそれ程傷付けられた人に寄り添うのも、痛みを伴うこと…
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