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第二の人生が始まってから約8年が経った。
私にも一応名前があるらしく、ララと呼ばれた。
ミコという名前はもう二度と使うことはないだろう。
ちなみに今世も女だ。
見た目は前と全然違うけれど。
髪はピンクで若干癖っ毛。
目はくりくりして綺麗な金色だ。
母は最近まで嫌そうに、そして時に私をぶちながら、それでも何とか私を育ててくれたけれど、1か月ほど前に家を出ていったきり戻ってこなくなった。
産まれてからずっとあの調子だったのだ。
まぁいつかはこうなるだろうと予想はしていた。
さて、どうしたものか。とりあえず自分で歩いたり食べたりすることはできるようになったけれど、まだ何でもできるという身体でもない。
何とか自身で人生を終わらせたいと思ったけれど、そうすればまたあの人に転生させられるだけの気がするので迂闊にそうすることも出来ない。
とりあえずいけるところまで生活してみよう。
前の人生に比べれば、このくらい優しいものだ。
確か、ご飯は多少残っているから何とかなるはず…。
でも今あるものが無くなったら買い出しに行かなければいけない。
家の周辺までしか出たことないからどこにお店や町があるのかさえ分からない。
家の周りは木や草がうっそうと茂った場所で、他の建物が全くないのだ。
魔物がこのあたりに出るのかも分からない。
勇者の時だったらまだしも、力のない子供の今、魔物に出会ってしまえばもう終わりだ。
小型のスライムくらいならどうにかなるかもしれないけれど…。
ここは慎重に行動しなければ。
まぁグズグズしていても何も始まらないし、とりあえずお金をもって街を探し歩いてみよう。
確か財布はここら辺からいつも取り出しているのを見た気が…、あれ?
「ない…?」
な、ない?
「ない…???」
どこを探しても財布がなかった。それどころかお金になりそうな装飾品なども全て。
死後の世界に行った私はもうそう簡単には驚かないと思っていたのに、こんなにあっさり驚くことになってしまうとは。
この世には驚きがいっぱいらしい。
さぁ、どうしたもんか。
一先ず少し遠くまで歩いてみようと思い立ち外へ出たけれど、特に何も見つからなかったしなんなら迷子になってしまった。
辺りも暗くなってきて、もう色々面倒になったのでその場で立ち止まる。
今日はここで野宿でいいか。魔物が出たらその時はその時だ。潔くやられようじゃないか。
若干イラつきながらドサッとその場へ腰を下ろすと、先程まで感じていなかった疲労感がいっきに押し寄せてきた。
その時だった。
前方の草むらから何か悪い気配をかすかに感じ取れた。
状況は最悪だけれど…不幸中の幸いだろうか。察知能力は前世のまま顕在みたいだ。
この様子だと、意図的に気配を消しているように思う。
かなりの手練れだろう。サッと臨戦態勢に入る。
気配からして人間じゃない。魔物か。
潔くやられようとか思ったけれど、勿論ただでやられようとは思っていない。誰かに私の意思関係なくやられるのは癪に触るからだ。とりあえず戦えるところまで戦ってみよう。
目線は気配のする方向に向けながらも、何か武器になりそうなものが無いか手元を探る。
コツンと手に当たったのは、私の手にギリギリ収まるくらいの石。
こんなのじゃ相手が小型スライムでない限り毛ほどのダメージも与えられないと思うけれど、重要なのは武器より戦う意志。
先程より気配が近づいてきている。これはかなりレベルの高い類の魔物だ。
けれど、私は怖じ気ない。
さあ、どこからでもかかってこい。
身構えたのと同時に相手が姿を現す。
そこには、青年が立っていた。
いや、人型をした魔物が立っていた。長い黒髪を後ろで束ね、左目には眼帯がしてある。切れ長の冷ややかな目が目を惹く。
普通の人なら人間と疑わないだろう見た目。
けれど、私は違う。
この気配はまごうことなき魔物のもの。しかもハイレベルの。
こんな石ころじゃどうしたって勝てない。
けれど。
「とりゃぁぁぁぁぁ!!!」
私は叫びながら目の前の相手を殴りにかかった。
が。案の定、歯が立たず頭を大きな手で鷲頭噛まれた。
終わった。このまま握りつぶされて死ぬ。
でも最後まで頑張ったし、悔いはない。
そうして来る衝撃に備えるが、それはいつまで経っても来なかった。
それどころか、手を離された。
ただ離すのではなく、突き放すような放し方ではあったけれど。
その行動に、辛うじて倒れないよう踏ん張った姿勢で呆然とした私。そんな私に目の前の魔物は言った。
「なんだ、クソガキ。邪魔だ、どけ。」