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8歳。元勇者少女の行く末は  作者: どどどどどん
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あぁ、死んだ。

そう思った時には遅かった。

目の前に迫り来る大きな爪を見つめながら呑気に考える。

そうして視界が真っ暗になった時、私の人生は終わった。


そう、思ったのに。

次の瞬間には目を開けることができ、意識があることにも気がついた。

暗い中をキラキラと星のようなものが輝いている空間が、私を取り囲んでいる。

不思議に思いキョロキョロしていると、いきなり目の前に男性が現れた。


「やぁ、勇敢なる少女よ。」

「えっ…と、あなたは…というか私は死んだ…んですよね…?」

「私は君に助けられた者さ。君の言う通り君はついさっき死んだね。」

「え…?あなたを助けた覚えはないんですけど…。」

「そりゃあこの姿じゃなかったから分からないだろうね。」

「ここでは姿を変えられるってことですか…?」


まぁここが死後の世界とするなら、姿が変えられると言われても特段驚きはしない。というか死んだのにこんなところにいる時点で何が起こってもあまり驚けない。


「まぁそんなところかな。それより、君には借りがあるから、1つだけ願いを叶えてあげる。あいつらに復讐でもする?」


願いを1つ叶える?復讐?何を言ってるのだろう、この人は。

疑問に思っていたことが顔に出ていたのだろう、彼がそんな私の心の中の質問に答えてくれた。


「願いはね、何でもいい。1つだけ叶えてあげる。借りを返すためだ。復讐っていうのは、とりあえずこの映像を見たら分かるかな。」


そう言って彼が指した所へ目をやると、そこに水の波紋が広がった。

かと思えば、その空間の1点に映像が流れた。


その中には、とても見知った顔の4人が写っていた。

私がさっき死ぬまでにパーティーを組んでいた仲間だ。

魔法使いのニーナ、格闘家のキオ、ヒーラーのメメ、そして弓使いのユノ。


どうしてこの4人が写っているのか。

嫌な予感がしながらも映像を見続ける。


『ミ、ミコ…!どうして⁈どうしてミコが死んでるの…!?』

『落ち着けニーナ。ミコが勝手に一人で討伐に行ったんだろう。ケルベロスの噛み跡がある。』

『でも、ミコが死んじゃったらあいつとの約束が守れなくなっちゃう。』

『安心しろ。ミコの力は既に全部吸い取ってある。問題はない。』

『そ、そっか…なら安心ね。少し申し訳ないけれど…。』


…何を言ってるの?みんな。

あいつって誰?

安心ってどういうこと?

…力を吸い取ったって、何…?


「これが復讐の理由さ。おかしいと思わなかったかい?君は勇者と呼ばれるまでに強かった。なのにあんなモンスター一体倒すこともできなくなったなんて。」


混乱する私の脳内に彼の声が流れてくる。

そうだ、あれくらいの魔物、以前の私なら全力を出さなくても倒せたのだ。


なのに、今日は…いや、ここ最近少し調子が悪かったのだ。

風邪か何かだと思っていたけれど…。でも大事に至るほどじゃなかったから一人で討伐に行って。

そうしたら、いつもみたいに力が出せなくて、それで…。


「あいつらはね、君の力を吸い取ってたんだよ。自分たちのために。君だけ仲間って認識されていなかった、利用されていたってことさ。」


妙によそよそしい時があった。

なんだかハブられているような、自分だけ皆の視界に入っていないような、そんな気がするときもあった。


けれど、気のせいだと思って気にしないようにしていた。皆を信じていたから。皆が…皆が、大好きだったから。


でも、気のせいじゃなかったんだ。

皆は…あいつらは、ただ自分たちの為に私を仲間に迎えただけだった…。


勇者ゆえに、崇められてはいたけれど、強すぎて周りから敬遠されていた私に声をかけてくれた、唯一のパーティー。

なんだ、そんな事情があったから仲間に入れてくれたのね。


「どうだ?復讐する気になったか?それなら私が願いを叶えてあげ…」

「いや。」

「…ん?」

「…なんか。もうあいつらに関わるのも嫌だし、復讐するのも面倒だから。もういいよ…早く完璧に死なせて。」


負の感情が湧きあがったのには違いない。あいつらを殺してやりたいと思ったのも事実だ。

けれど、それ以上に、もう関わりたくなかった。面倒くさい。

何もかもがどうでもいい。

だから、もう。


「そっか…。けど。僕は君をここで消すのは…凄く…凄く惜しい。だから、君を同じ世界に転生させる。今度は、幸せな人生を歩みなさい。」

「…は?」


いや、私は死なせてって言ったんだけれど…。

願いを1個叶えてくれるんじゃないの?

死なせてよ…転生って、正反対のことじゃん…!

ただでさえ人間不信になっているのに、このまま転生とか嫌だから!


しかも同じ世界って…!あいつらと出会う可能性があるかもしれないじゃない…!

一気にそう叫んだけれど、目の前の相手は聞く耳を持たず。

私の意見は笑顔で却下された。


「じゃあ、今度は愛に溢れた生活ができるよう、祈っているよ。」

「ちょっと、待って…!」

「じゃあ、ベストウィッシュ!」


私が誰からも愛されていなかったことを知ったような口ぶり。なぜ知っているのか、その前に転生はいらない。それを伝えようと叫んだけれど虚しくもその声は届かなかったようで。


急にまた目の前が真っ暗になったかと思えば、今度は何か薄っぺらいものに包まれている感覚がした。


心なしか目が開けにくい気もする。

何とかして目をあけたけれど周りが良く見えない。

声を発しようとすると、明らかに私のではない声であぅあぅと喉がなる。


目を凝らして手を見てみれば小さな小さな紅葉で、漸く私が赤ん坊になっていることが理解できた。

本当に転生させられた。しかも記憶があるままで。どうせなら記憶を消してほしかった。


何にも辛いことを体験したことのない、真っ白な心で生まれ変わりたかった。

文句を言うようにあぅあぅと声を発していると、突然女の怒鳴り声が聞こえてきた。


「さっきから煩い!少しは黙れないの!?」


ヒステリックにそう叫びながら私の方へやってきたかと思えば、頬をぶたれた。

ぶたれた…?

あまりに唐突なことで放心していると、また目の前で何かを叫び始める。


「あぁ!あんたなんて産まなければよかった!あの人はいなくなってしまうし!どうして私だけこんな思いしなくちゃいけないの!?ねぇ!どうして!?どうしてどうしてどうしてどうして!!!」


女は間近で思い切り叫ぶので耳がおかしくなりそうだ。

どうやら私は望まれて生まれてきたのではないらしい。

どうして、は私のセリフだ。


愛だの幸せだの言うのなら、温かい家庭に転生させてほしかった。転生させることはできる癖に、出生をどうこうすることはできないわけ?


もう、最悪だ。この人生、いつまで続くのだろう。

赤ん坊だから自分で行動することすらできない。

あぁ、誰か私を助けて。


そうして、私のお先真っ暗な第二の人生が理不尽にも始まったのだった。

感想など頂けるととても嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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