第25話「私は、フランシス・パーカーさんのビジネスパートナーですから」
――マインウェブクラスタ、亡国時代のアーティファクト。
その構造を分析・再現しつつ、自らのゴーレムに仕込んでいく。
子機を仕込んだのは主に2か所。ゴーレムの首元と配達用の箱だ。
首元の方は、一定以上に低くなると情報が送られてくる。
箱は一定以上の揺れを条件とした。親機に報せが来たら俺が感覚を繋ぐ。
これでゴーレムたちの動きをハンドリングしつつ、後は自動に任せている。
「いや~、本当に安定していますよね。ゴーレムウェブクラスタ」
新たな運用形態を完成させ、配達用のゴーレムを10体に増やして早1か月。
最初は設定を鋭敏にしすぎたせいで大変だったが、調整を重ねて良い感じに落ち着いてきた。今日も今日とてゴーレムの現在位置が表示されている。
条件が満ちた時、この親機の杖にアラートが表示されるのだ。
「つくづく、エド爺には頭が上がらないよ。最高の参考例を与えてくれた」
「確かにそれはそうですけど、ヤバくないですか?
アーティファクトと同じというかそれ以上の魔道具を造れるのって」
昼本番の忙しさが来るよりも前の時間。
ルシールちゃんが、こちらを覗き込みながら褒めてくれる。
「まぁ、できる奴はそうはいないだろうな。いたらもっと普及してるだろうし」
エド爺が持っていたということは、それなりに発掘されている遺物だとは思う。
しかし、一般的に流通して、話が流れてくるほどではない。
希少性が高いのは間違いないだろう。事実、俺は知らなかった。
「――これで店と合わせて15体動かしてますけど、限界は見えました?」
「いや、ぜんぜん。30体はいけるな、この調子だと」
「はえ~、なんか末恐ろしくなってきましたね……」
流石にちょっとヒいてるな、ルシールちゃんも。
いや、俺も末恐ろしいというのは事実だ。
今の自分、この身体になってから、魔法の底が余りにも見えてこない。
「でも、フランシスさんに余力があるというのなら……」
「――考えてくれるのかな? 新しく力を活かす場を」
「”銀のかまど”の延長としては、正直過剰な力ですけどね」
そう言いながらくすっと笑うルシールちゃん。
「ただ、貴方がまだ貴方自身の能力の底を知りたいのであれば、次の形を用意してみせましょう。私は、フランシス・パーカーさんのビジネスパートナーですから」
相変わらず気持ちの良いことを言ってくれるな、ルシールちゃんは。
そして、店での名前をフランシスで統一したせいでなかなかフランクと呼んでくれないのが少し寂しい。
「ちょっと時間はかかりますけどね――?」
ルシールちゃんの言葉に頷いた、ちょうどその時だ。
――アラートが鳴った。ゴーレムウェブクラスタのアラートが作動した。
即座にどのゴーレムなのかを特定し、感覚を繋ぐ準備に入る。
「大丈夫ですか?」
「うん。エド爺のところに出してる奴だから、また転んだんじゃないかな」
「林のど真ん中ですもんね、たまに地面凍ってますし」
そうだ。真冬の林のど真ん中という悪路を歩いているんだ。
ゴーレムの体勢が崩れて首元が一定より低くなること。
料理を入れた箱が揺れることは結構な頻度で起きてしまう。
だからエド爺に持っていく料理は、深い皿を使ったり色々工夫している。
「……え?」
料理の取り換えとなると面倒だなくらいに考えていた。
だからさっさと感覚を繋いで、被害状況を確認したかった。
なのに、なんだ、これ……。
「どうしたんですか?」
「……繋がらない。ゴーレムとの感覚が」
「猪かなんかに襲われました?」
あり得る話ではあるなと思いながら、親機の表示を確認する。
アラートを鳴らす条件、フィードバックの起点となった場所を。
「……違うみたいですね?」
「うん。屋敷の中だ、猪みたいな野生動物ってことはねえ」
エド爺がそこら辺の対策を疎かにしているとは思えない。
だが、それではなんだ……? 何が起きて、こうなっている?
「ルシールちゃん。今日の配達は、遠いところはないよね?」
「ええ。いつも通りで、特別遠いのはお爺さんのところだけですよ」
「何かあったら監督を頼む。足を使ってもらうことになるけど」
かけていた外套を羽織って、クラスタの親機をルシールに手渡す。
今から屋敷に行けば、昼のピーク中には戻って来れない。
「分かりました。それくらいのフォローなら。
それより、大丈夫ですか? 1人で――」
「ハハ、まぁ、流石にダンジョンに潜るわけじゃないしね」
そんな真面目に心配されると緊張して来るな。
いいや、違うか。俺自身が緊張しているのを感じているんだ、ルシールは。
ダンジョンを比喩に出したのは無意識だったが、俺自身が感じている。
「……私が同行してどうなる話でもない、ですもんね」
「いや、それよりも君なしじゃ店が回らないよ。
ちょっと遅くなるかもしれないけど、心配しないで」
頷こうとしてくれているけれど、同時に唇をかんでいるのも伝わってくる。
こんなことが起きるのなら、連絡手段を用意しておくべきだったな。
しかし、急場で作れるほどの技量はない。
「分かりました、留守は任せてください。何事もないことを」
「そうだね。まぁ、ゴーレムくらい造り直せはするけど」
それ以上に取り返しのつかないようなことが、起きていなければ良いが。
あり得ない。あのエド爺の屋敷でそんなことがあるはず。
そう思っていたが、同時にそう心配してしまうくらいには嫌な感覚があった。
次回以降からしばらくの間、毎日投稿します。
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