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第22話「姿かたちが変わっても、魔力の色は変わらぬものよ」

「――よう、久しぶりじゃな。フランク」


 ゴーレムイーツ始動から約1か月。冬本番らしい寒さが街を覆い始めた頃。

 銀のかまどに、懐かしい顔が訪ねてきていた。


「へぇ、よく分かるな? この身体になってからは初めてだろ、エド爺」


 配達に出しているゴーレムたちも帰って来させるだけ。

 旧知の相手を歓迎するくらいは問題なく行える。

 そう思い、店の奥にあるテーブルに彼を案内した。


「姿かたちが変わっても、魔力の色は変わらぬものよ。

 量は随分と増えたようじゃが」

「この身体になってから魔力も魔法も向上したみたいでね」


 杖をついて歩くエド爺が腰を降ろしたところで、俺も真向かいに座る。

 エド爺こと、エド……なんだっけ。本名は忘れてしまった。

 冒険者として現役だった頃、世話になっていた魔道具屋の爺さんだ。

 レオ兄が辞めるより少し前に引退して、今は郊外の屋敷に住んでいると聞く。


「しかしよ、爺さん。俺にはイマイチ分からないんだよな、魔力の色って表現が。

 うちの母さんも同じ言い回しをしてたんだけどさ」


 ディーデリックのような雷の魔法使いが紫電に染められていたり、オスカーのような風の魔法使いが緑色の眼をしているのは流石に分かる。

 ただ、俺のようなゴーレム使いには特に色はない。

 こんな眼も髪も桃色に染まるなんて元々の俺からは想像もできない。


「ふふ、お主はまだ若い。ワシもお主くらいの頃にはまだ見えなかった」

「ふとしたきっかけで見えるようになる、ってか?」

「魔法を生業とし続けていればな。経験と知識の蓄積が実を結ぶには時が要る」


 ”冒険者をやっていたお前には分かるだろう?”と表情が語っていた。

 まぁ、ふいに何かが繋がったように見えるものが変わる感覚があるのは分からなくはない。唐突に見え方が変わるような、何かを理解するような感覚が。


「それで、注文は何にする?」

「――赤ワインを」

「身体に毒じゃないか? その歳だと」


 昼過ぎの来店だ。飯じゃなくて飲み物で済ませてくることは予想していた。

 だが、既に引退した爺さんがこんな昼間っから酒を頼んでくるとは。

 思わず止めてしまった。トワイライトではこんなこと言わないんだが。


「ふふ、酒は1週間に1回と決めておってな」

「……その貴重な1回をここで使うってか」

「そうじゃ。お主との時間にな」


 随分と気合が入ってるな。ここまで言われたら止めるわけにもいかないか。

 そんなことを思いながら給仕のゴーレムに赤ワインを用意するように指示する。


「で? 今日は何の用だよ? 今さら俺と飲みたいって。

 見舞いにも来てくれなかったくせに」

「ふふっ、つれないことを言うな。というかお前、すぐ退院しておったじゃろ」


 へぇ、入院が1週間弱ということを知っているのか。意外だな。


「林に籠ってるくせによく知ってるな」

「これでもたまに出てきておる。

 知った時には、お前はもう冒険者アパートにもおらんかったわ」


 ……あっ。そうか、それは追えなくなるな。

 俺が今、フィオナの屋敷に厄介になっていることはバッカスくらいしか知らない話だ。いいや、レオ兄はいつの間にか知っていたか。今の俺の家がフィオナの家であることを。けれど場所までは知らないから追えないのは事実だ。


「そいつは悪かったよ。しかし今日は本当に酒を飲みに来ただけなのかい?」


 ゴーレムが持ってきてくれたボトルとグラスを受け取り、爺さんに酒を注ぐ。

 トワイライトで同じサービスをすると10倍の金がかかるが今日は特別だ。


「ふふっ、そうじゃと言いたいところだが、残念ながら違う。

 ワシも頼みたくてな、ゴーレムイーツとやらを」

「……あの林のど真ん中まで?」


 こちらの言葉に頷くエド爺。

 しかも、この言い方は”定期契約”だろうな。1回きりではない。

 普通に考えれば単発じゃない注文は喉から手が出るほど欲しいところではあるが。


「請ける、と言ってやりたいところなんだが……」

「――採算に合わん、か」

「ああ。現状、3体までしか外に出せないんだ」


 ちょうど戻ってきた1体を軽く指差しながら伝える。


「その魔力量があって、店内では5体動かせて3体――」


 赤ワインをクイッと飲み込みながら、爺の眼がギラリと光る。

 ……懐かしいな。

 ダンジョンからの戦利品を売りに行ったとき、いつもこんな眼をしていた。


「――何がネックになっておる? 数が用意できないわけではあるまい?」

「監督者の不在だ。店の中には信頼できる人間が3人もいる。

 彼らの指示を聞くようにゴーレムは造っている。だが、外は違う」


 こちらの言葉に頷くエド爺。


「となると感覚を繋いで制御しているんじゃな? それで限界が3体か……多いな」

「お褒めいただき光栄だ。しかし、この方法には発展性がない」

「そりゃそうじゃろう。いくら魔力量が多かろうと1人の人間が直に動かせるゴーレムの数には限界があるからの」


 再びワインに口をつけ、そこから深く考え込み始めるエド爺。


「……魔法も向上したと言っていたな。

 店内のゴーレムは自動、料理や配膳はお主が操作している訳ではないと?」

「そうだ。やっていることを見て同じようにやれるように造っただけ」

「浅い理解からの高度な模倣か。なるほど、確かに”魔法”の向上じゃな」


 話していて感じるが、やっぱり凄いな、この爺さん。

 少ない情報から一気に推測を立てて、それが外れない。

 魔法に対する深い知識があるからこそ持ち合わせている洞察力。

 流石、この開拓都市で魔道具屋を長くやってきただけのことはある。


「……次の休み、ワシの屋敷に来い」


 ”おいおい、あのクソ遠い僻地まで行けってか?”と返す気は失せていた。


「あるのか? 打開策が」

「普通は無理じゃが、今のお主であればあるいは。無駄足になるかもしれぬが」

「良いぜ。アンタには随分と世話になった。一度くらいの無駄足は許容範囲さ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が旧知の仲の相手に、男口調で語るの好きですね〜 普段は割と外聞を気をつけて中性が敬語かが多いから特に
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