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第9話「悪いわね、ロゼちゃん。時間取ってもらっちゃって」

「悪いわね、ロゼちゃん。時間取ってもらっちゃって」


 マイルズが来店した日から更に数日が過ぎた。

 トワイライトでの仕事にも慣れ、嫌な客のあしらい方も覚えてきた頃だ。

 ラピスさんに指名され、閉店後の店に残っていた。


 フィオナは時間切れの関係もあって先に帰っている。

 というか、同居していることはレナ姉くらいしか知らないから普段から時間をズラして帰っている。バーテンダーには閉店後の作業も多いし。


「構いませんけどラピスさんの方こそ良いんですか? 明日も舞台でしょう」

「――ふふっ、お気遣いどうも。けれどそこは大丈夫よ。

 これくらいでへこたれる体力はしていないわ」


 言いながら彼女の手が、俺の肩に触れる。


「仕事にはもう慣れたみたいね」

「分かります?」

「まぁ、これでも視界は広いつもりだから。流石は私の歳上ですね」

「良いですよ、敬語使わなくても」


 こちらの言葉を聞いて笑ってくれるラピスさん。


「ごめんなさいね。堅苦しい言葉は苦手で。

 それで頼みたかったことなんだけど、明日も出てくれない?」

「えー? 非番の予定だったのに。なんか事情でもあるんです?」


 高くつきますよ?でも良かったけれど、わざわざ呼び出してきたのだ。

 事情から先に聞いたとしてもバチは当たるまい。


「いや~、ディーデリックって名前、知ってる?」


 ……知ってるも何も、はちゃめちゃに因縁深い相手だが。

 しかし、ラピスさんはそれを知らなくても当然か。


「今、開拓都市で最も目立ってる王子様ですよね?」

「そうそう。明日ね、あいつが来るのよ」


 は――?


「あいつみたいなのが来た時に、傍に従業員がいないとコトでしょ?

 ロゼちゃんの前職は冒険者だし、護衛にも最適かなって。

 いま張っている人員で回せないかな~とも思ったんだけど難しそうで」


 分かる。ラピスさんの言いたいことは。

 恐らく王子はあのバチバチに優秀な護衛、レンブラントを連れてくる。

 ただそれはそれとして店としても従業員を張り付けておきたい。

 客が客だ。王子の身に何かあった時に店の人間が把握してないのはマズい。


「確かにそれは人員を増やすのが正解でしょうけど、来るんですか? 王子が」

「来るわ。けれどそんなに不思議かしら?

 トワイライトの格を甘く見てたんじゃないの~?」


 いや、そうじゃない。

 別にこの店が王族が来るような店だと思ってなかったというわけでは。

 ……いいや、やっぱり王族が来るような店じゃないよな、ここ。


「いえ、それよりあの王子様、女に興味がないって」

「……え? そんなことないと思うけどな。誰に聞いたの?」


 なんだ、この反応。

 それにラピスさん自身がディーデリックの予約を把握しているのは何故だ?

 まるで個人的な繋がりがある、みたいな。


「護衛の魔術師――」

「あ、マクシミリアンさんだっけ、名前合ってるかな?」


 ……バッカスに続き、この人まで知っているのか。

 しかし、いったいどういう繋がりが。


「合ってます、レンブラント・ヴィネア・マクシミリアンです」

「でもあの人あんまり名乗らないよね。よく知ってるね?」

「え、ええ。あれなんですよ、俺、髑髏払いの儀式でゴーレム操ってて」


 そこまで話しただけでラピスさんは納得してくれた。

 まぁ、これくらいはこの街でこの仕事をしていれば教養か。


「あの評判の戦いか。相手はフランクさんだったんだ。

 ……良いの? こんな仕事してて」

「貴女がそれ言います? ラピスさん」


 こちらの言葉を聞いてクスっと笑うラピスさん。


「確かにそれもそうね。ここに誇りを持っているこの私が」

「それで貴女はどういう関係なんです? ディーデリック殿下と」

「私? あ~、ちょっと前に宮仕えしててさ。メイドやってたの、王城の」


 は……? なんだ、その経歴。聞いたこともないぞ。

 いや、そもそもこのトワイライトでは過去の詮索はタブーだもんな。

 ラピスさんの個人的な情報で知っているのは、どうもオーナーの娘らしいということくらいだ。


「あの場所のごちゃごちゃした人間関係が無理になってやめたんだけど、ディーデリック殿下には気に入られている方だと思うよ。今回も連絡貰っちゃったし。

 まぁ、それのせいで妬まれてめんどくさくなったんだけどね」


 ディーデリックが個人的に連絡を入れた女だというのか、ラピスは。


「だから女に興味ないっていうレンさんの読みは……当たってるのかな。

 私も別に女として口説かれたことはないしな~」

「な、なるほど……あと、すみません、ひとつお願いしたいことが」


 年上のメイドさんとしてディーデリックに接していたのか、この人。

 いや、想像つかないな、なんなんだその経歴。


「なになに? 口裏合わせ?」

「そうです。あの、俺が元冒険者のフランクだってこと伏せておいてください。

 王子はまだ知らないんですよ、俺の経歴」


 こちらの言葉に頷いてくれるラピスさん。


「分かった分かった。

 じゃあ、私は君のこと、ロゼって名前しか知らないって言っておくね?

 でもあの子、聡いからな~。冒険者やってるならそろそろ察しつけてそう」


 ここはレンブラントと同じことを言うんだな。

 いや、確かにそういう雰囲気は感じたが。

 あのディーデリックという男、戦闘力だけでなく頭もキレるタイプだ。


「それならそれで良いんですけど、ラピスさんから聞いた直後に顔を合わせるの気まずいな~って」

「うんうん。分かるよ。そこら辺は上手いつもりだから任せておいて」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の境遇がなんだか怪我をして引退したスポーツ選手に重なります。 ギルドをクビ=球団から契約解除みたいに。 そうみると王子がスター性のあるドライチ選手に見えてきた。 第二の人生を模索する…
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