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幕間「一国の王子様が、しがないおっさんの部屋に違法侵入ですか? 坊ちゃん」

今回の話は、4節1話の少し前。アンソニー視点でのお話です。

彼のキャラを造り込むために書いたエピソードです。

 ――3日ぶりの自宅、パイプに押し込んだ薬草へと火をつける。

 煙を吸い込み、火種が安定するように吹き戻す。

 仕事のために鋭敏になっていた感覚が鈍っていくの感じる。


 薬草による強制的な感覚の鈍化。

 これを医者から処方されるようになってから、少しだけ楽になった。

 あの日、あの戦場に取り残され続ける魂がもたらす痛みを少しだけ遮断できる。


 と言ってもこれを使うと露骨に自分の能力が落ちるのだ。

 だから捜査が佳境の時には使えない。

 今日はようやくひと仕事終わったから1週間ぶりの平穏だった。


 しかし、パイプをやったのは失敗だったかもしれない。

 自宅の鍵には細工された跡があった。俺以外が開いた痕跡が。

 幸い今日は雨が降っていて、足跡の間隔から来客の目星はついている。


 ただ、もしも俺の読みが外れていたら。

 そう思いながら闇の向こう、こちらに近づいてくる男に目を凝らす。

 まったく、どうしてソファに座ったまま待っていてくれないのか。

 こういうところは相変わらずだな。


「一国の王子様が、しがないおっさんの部屋に違法侵入ですか? 坊ちゃん」


 パイプに火を起こすついで蝋燭にも火を灯していた。

 その明かりが彼の顔を照らす。

 ……しばらく見ないうちにすっかり大人の男になったものだ。

 団長が今の彼を見れば涙を流しただろう。俺でさえ、そうなりかけている。


「フフッ、そうだな。俺を捕まえるかい? 貴方にはその権利がある」


 向かい側のソファに腰を降ろすディーデリック・ブラウエル。

 魔法使い特有の紫色の髪と瞳が美しい青年。

 最初に出会った時には、ちんちくりんの子供だったのに。

 月日が流れるのは早いものだ。すっかり俺より背が高くなりやがって。


「まさか。アンタを捕まえたところで第三王子が喜ぶだけでしょ」

「どうかな。あれに”私が脅威なのだ”と認識する能力があるかどうか」

「辛辣ですね。でも、確かに俺があいつなら貴方を冒険者にはしない」


 一応、第三王子が開拓都市の領主ではある。王国直轄領としての主は。

 といってもまぁ、あの場所は冒険者ギルドが仕切っている。

 名目と実態で支配者が異なるのだ。対立していない限り問題はないが。


「――彼にとっての私は”騎士ごっこをやりたい小僧”でしかありません。

 俺の本質を見抜いているのは、かつての王国騎士団と、あるいは父上だけかと」

「ああ……どうだろうな。あの人は聡いんだが疎いんだか」


 飄々とした国王だ。直に見たことは数えるほどしかないが、優秀なのか愚鈍なのか未だに判断できない。坊ちゃんのことをどう思っているのか。見抜いていてもおかしくないとは思うけれど、見抜いていると断言もできない。


「それで坊ちゃん。どうしてこんなところにまで直々に?」

「言わなくても分かっているだろう。貴方が私の招集に応じてくれないからさ」


 ――やはり、あの話は本物だったか。

 上司がいくら俺のことを煙たがっているからと言って殿下の名前を使ってまで厄介払いするはずはないと思ってはいたが。


「……アルフォンソ領を獲るってお話ですよね」

「人聞きの悪い言い回しを。だが、話は届いているようだな?」

「おっと。届いていないと言った方が正解でしたか」


 実際、ディーデリック殿下が直々にこんなところまで来たのだ。

 もう断ることはできないだろう。

 となれば、どうして話が届いた時点で受けなかったのかを言及される。


「さぁ、どうかな。ただ貴方のことだ。伝言では受けてもらえない気はしていた」

「……別に坊ちゃんが嫌いって訳じゃないんですけどね。

 ただ俺、今の上司と仲が悪いんで都合のいい嘘なんじゃないかと」


 こちらの言葉を聞いてニヤリと笑ってみせるディーデリック。


「相変わらずだな。その用心深く疑り深く、権力を嫌う性格。

 王都警察に降りた後も活躍している理由がよく分かる」

「フフッ、坊ちゃんのお耳にまで入っているとは恐縮です――」


“ただ、それだけ嫌われてもいます。性格が悪くないと務まらない仕事でね”


「けれど私にとっては、あの日の優しいあなたのままだ。

 ……アンタの力を、俺に貸して欲しい。アンソニー・グッドゲーム」


 一国の王子にここまで言われて、断れるはずもない。

 けれど、返す言葉がすぐには出てこなくて。

 相手は魔術師を雇ってくるような連中だ。命を賭けに出すことになるだろう。


「今回、俺は冒険者と騎士団の一部を使って私兵を編成する。

 それがアルフォンソ領に対する最大の牽制になるだろう。

 けれど、真相究明の要になるのは貴方しかいないと思っている」


 パイプから煙を吸い込み、意図的に神経を鈍らせる。


「……貴方にそう言われて断れる奴は居ませんよ、坊ちゃん。

 しかし、いよいよ始めるんですね。殿下が騎士団を指揮する時が」

「ああ。こうでもしないと忘れられてしまうだろう? 私のこと」


 忘れるものか、俺たちが貴方のことを。


「ハハッ、俺たちの世代にアンタのことを忘れられる人間は居ません。

 貴方が居たから”我々”は国のために命を捧げることができた。

 あの第三王子のためじゃない。貴方のためだからだ」


 グズグズの戦況を招いたあんな男のために命は捧げられない。

 人間的な魅力もカリスマも度胸もないあんな男のためには。

 けれど、ディーデリックは違う。

 まだ少年だった頃の彼が向けてくれる憧れがあったから最後まで戦えた。

 そして俺は死に損なったのだ。本当の意味での”我々”にはなれなかった。


「……そう言われると重いな。だが、背負う覚悟はあるつもりだよ。

 アンソニー、私にとってこれは初陣なんだ。

 これほどの人数を使うのは初めてで、結果を残したい。あの子のためにも」


 事件の概要について簡易ではあるが知らされている。

 あの子というのは、坊ちゃんが保護している貴族の少年のことだろう。

 まったく相変わらず人の良い子だ。坊ちゃんは。


「――もちろん、俺で良ければ。すみませんね、こんなところまでご足労を」


この幕間、4節0話として執筆していたものとなります。

元王国騎士団で王都警察に降りたアンソニー・グッドゲームというキャラクターの体感を掴むために4節を書き始めるときに書いたのですが、4節をいきなりフランク以外の視点で始めるのもな~と思い、温存していました。


お蔵入りしっぱなしなのも勿体ないし、次の25話に関わってくるのでここで公開しました。万策尽きかけているからじゃないんだからねっ!

一応、明日の分までは完成してますので明日も更新します。

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