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第24話「ここを見ていると、彼が本物だったと分かるよ」

「――よう、本日の立役者さん。お待たせしちゃったかな」


 黒幕のディエゴを捕え、しばらく。夜が深まってきた頃合いだ。

 誘われるまま、アルフォンソ領に用意された自家用のバーに顔を出していた。

 要人警護という役割もようやくひと段落ついたから。


「ふっ、悪いな。おいしいところを持って行ってしまって」

「全くだよ。絶妙なタイミングで転移してきやがって」

「マックスの仕掛けたことだ。ってのは知っているんだろう?」


 バーカウンターの向こう側に立つ彼の目の前に腰を降ろす。

 ちょっとだけ椅子が高くて、今の身体では心許ない。


「まぁな。でも流石はディーデリックのパーティメンバー」

「切り込み隊長というか、王子の盾というかさ」


 何気ない会話を続けながら、1杯のカクテルが用意される。

 もちろんこちらの注文なんて伝えていないし、どんな酒かも知らない。

 けれど、こと酒において俺はこいつを信頼している。

 バッカス・バーンスタインという男に任せておけば間違いはない。


「適任だと思うよ、お前の実力は良く知っているし」

「それで俺を真似したゴーレムを用意したのか?」

「……バレた?」


 フッと笑いながら自分のカクテルを用意していくバッカス。


「流石に見りゃ分かるさ。あの場で言及する暇はなかったけど」

「なに、俺とアンソニーという最小単位での行動だったろ?」

「そうだな、坊ちゃんは”真実を明かすための矛”だと言っていた」


 へぇ、バッカスの奴にまで言っていたのか。

 流石はアンソニー・グッドゲームと言ったところか。

 事実、あいつの捜査はビタリとハマった訳だしな。


「それでいざというとき、最も傍に居て欲しい相手を用意した。

 あの暗殺者、セドリックと再び戦うことを想定して」

「……そこまで褒められると悪い気はしないな」


 なんて頭を掻きながら1杯目のカクテルを飲み干すバッカス。

 流れるように2杯目の準備を始める。


「良いのかよ、他人ん家の酒を勝手に飲みまくって?」

「マルセロから許可は貰ってる。今回の褒美だと。

 凄いんだ、開拓都市じゃ手に入らないような酒ばかりで」


 無垢に微笑むバッカス、よくよく観察すると俺が来るよりも前からかなりの種類の酒を味見しているのが分かる。そのうえでカクテルを組み上げているんだ。ほんの少しずつ、多くの種類を。


「……ここは、マルセロのお父さんの趣味だったらしい」

「確かに、ニコラスは酒も飲めなさそうだものな」


 マルコス・アルフォンソ、西方戦争に従事した砲兵。

 アンソニー自身も恩義を感じるほどの相手だと。

 もう既にこの世にはいない人間の残り香。

 同じ趣味を持つバッカスは、それを強く感じ、理解しているのだろう。


「ここを見ていると、彼が本物だったと分かるよ。

 金にものを言わせているだけじゃない。確かな眼がなければこうはならないと」

「……うん。お前の顔を見ていると、それがよく分かる」


 こちらも1杯目の酒を飲み干し、2杯目を頼む。


「――マルコスの趣味は分かるか?」

「たぶん。ウォッカだろうな、ここら辺の名産だし数が多いんだ」

「じゃ、それで1杯頼む」


 こちらの言葉に頷き、ショットグラスにウォッカを注いでくれる。

 バッカスの見立てではあるが、これがマルセロの親父さんが愛した味か。


「あと、ワインセラーにも凄い年代物があるんだ。

 けれどアレは駄目だな。流石に俺たちが飲むわけにはいかない」

「……大人になったマルセロの奴にってことか」


 強い酒に意識が揺れるのを感じながら、言葉を返す。


「ああ。そういうことだ。管理もしっかり行き届いている。

 優秀なソムリエを雇っているんだろうな」


 そうか……遺されたものも無為に風化していくだけではないと。


「なぁ、バッカス。会ってみたいって思わなかったか?」

「え?」

「――お前から見ても”趣味の良い酒”を用意した男に。

 それに、ディーデリックが憧れたという当時の騎士団長にも」


 こうして酒に酔った勢いもあって、どうしても思ってしまうのだ。

 西方戦争で帰らぬ人となった彼らが、どういう人間だったのか。

 それを知ってみたかったなと。


「まぁな、坊ちゃんと一緒にいると当時の騎士団ってのは気になるし、この場所に居るとマルセロの親父さんにも会ってみたかったとも思うよ、正直」


 叶わぬことだと知りながら、同時に願わずには居られない。

 人は死ぬ、その摂理こそが不条理だなんてレンブラントの奴は言っていた。


「今回の遠征で、西方戦争帰りの騎士団連中を見た。

 どいつもこいつも優秀で、そんな奴らが”生き残った方が少ない”なんてな。

 正直、信じられないところではある」


 確かに、俺はアンソニーしか見ていないがあいつの優秀さは凄まじい。

 あれが平均かどうかは知らないが、仮にそうだとすればバッカスの言う通りだ。


「……第三王子の」

「あいつのせいでそうなったと、坊ちゃんは疑っていたな」


 もしかしたらバッカスは、殿下の疑念について聞いていないかとも思った。

 だから口にしてしまってから言葉に詰まったのだが無用な心配だったか。


「あれがさ、一応は開拓都市のトップなわけだろ? 今のところ」

「俺たちの仇敵、そして坊ちゃんの仇敵だな」


 ディーデリックは兄である第三王子から開拓都市の実権を奪おうとしている。

 このアルフォンソ領は、そのための下準備でもある。

 騎士団と冒険者から構成された親衛隊による組織的なダンジョン攻略。


「やっぱ俺と一緒に殿下のパーティに来ていれば良かったんだよ、お前も」

「う……でも、そうしなかったからこそ、今があるんだもん。

 いや、分かるよ。あのクソッたれ野郎に報復するには最短だった」


 もう二度と復讐もできないと思っていた相手を追い落とすチャンスだった。


「まぁ、過ぎた話ばっかり追いかけても仕方ないか。

 実際に、今のお前はとても成功している。トワイライトも銀のかまども。

 第四王子と冒険者パーティを組むってのに引けを取らないくらいの成功だ」


 バッカスの奴にこうも真正面から肯定されると少し照れてしまうな。


「過去には折り合いをつけて未来に進まなきゃいけない。

 なんてまとめるのも少し不誠実かな」


 2杯目のカクテルを飲み終えたバッカスが、自分のためにウォッカを注ぐ。

 俺のショットグラスに、自らのショットグラスをぶつけ――


「――まぁ、今夜くらいは失ったもの、出会えたかもしれなかったはずのものに」


ご愛読ありがとうございます。これにてアルフォンソ領編もひと段落。

あと何話かエピローグ的なものを書いて4節後半戦に入ります。

3節と4節は1節の中に物語が2つ入る構成になってしまいました(汗)。

なんとかあと数話分は毎日更新を続けたいのですが、万策尽きたら申し訳ありません。


それと別作品ですが、6月30日から連載開始してました「ショタ魔王転生(以下略」無事に完結いたしました。ネット小説大賞に応募中です。ぜひ応援していただけると幸いです。

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