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第20話「ふふっ、ぜひ見てみたいな。王子様と一緒にいるときの君たち」

「――フレデリカ? 良かった、無事だったのね」


 地下へと降りる道の先、扉を開いた向こう側。

 簡素な部屋に彼女は居た。ベッドに座っているが、右手には銃。

 顔の半分は前髪と包帯で隠れているけれど、それでも分かる。

 彼女がマルセロの血縁であることを。確信を持てるほどに面影がある。


「ごめんごめん、騒がしかったでしょ? ちょっと戦っててさ」


 母さんを認めて彼女は拳銃を仕舞い込む。

 そして、アンソニーへと視線を向けた。


「そっちのお兄さん、強いんだ? フレデリカとやり合えるなんて」


 どうにも母さんが戦った相手をアンソニーだと勘違いしているらしい。

 しかし、随分と母さんと親しいんだな。

 名前で呼んでいることもそうだし、俺すら知らなかった強さまで知っている。


「ちょっと違うな、彼女と戦ったのはこっちだ」


 そう言ってアンソニーがこちらを指差す。


「フランシス・パーカーと申します」

「っ――? 本物……?!」

「私はそうだと判断しているよ、今のところはね」


 ベッドから立ち上がり、彼女はこちらに近づいてくる。

 その足取りには力がなく、怪我人であることを実感させられる。

 下手に動かせない彼女を匿っていたという状況なのだろうな。


「エミリアナ・アルフォンソ、貴女が救ってくれたマルセロの母です」


 求められるままに握手を交わす。

 彼女の瞳を見て、エド爺と同じ色なのだと気づかされる。

 ……生きていてくれたんだ。てっきりもうダメだと。


「あの……ごめんなさい、エド爺、エドガルドさんを守れず……」


 言っても仕方のないことだ。いま、口にするような言葉ではない。

 あとになれば分かるのに、思わず零れてしまった。

 彼女に、爺さんの面影を見出してしまったから。


「いや、私の判断が甘かったのよ。まさか父さんのところまで追ってくるなんて。

 ……ありがとう。あなたのおかげで私は息子を失わずに済んだ」


 力の入り切っていない腕でこちらの身体を抱きしめてくれるエミリアナさん。

 ああ、マルセロの奴に早く知らせてやらないと。

 お前の母さんは生きているぞと。


「――それで、ここまで起きたことを教えてもらえるかな」


 自らの名前と立場を伝えたアンソニーが、話を本題へと移す。


「1か月前、マルセロ君とエミリアナが襲われたのは知ってるでしょ?」

「ああ。アンタが助けたところまでは察しはついているが、なぜ現場に?」

「セドリックを止めてくれって頼まれた時に思ったんだ」


 ――この街で、セドリックほどの暗殺者を使ってまで殺したい相手。

 それが居るとすれば誰なのか。


「ニコラスか、マルセロのどっちかになるんじゃないかと思った。

 それでエミリアナの所に急いだんだけど一歩遅くてね。

 セドリックはエミリが死んだと思い込んで、次の動きに入ろうとしていた」


 逃げたマルセロを追うために。

 ターゲットがマルセロであれば、母・エミリアナの死亡確認は優先順位は低い。

 死んだかどうかは特別に確認していなくても、おかしくはない。


「私もセドリックを追うか考えたのだけれど、エミリはまだ生きていた。

 見捨てられなかった。それに狙われている身だ。

 匿ってあげる必要があると思った」


 ……まったく、いったい何の因果なんだ。

 母さんがここまで深く関わっているなんて。

 俺がマルセロを守ろうとしたように、母さんもまた。


「そして、エミリが目を覚ました頃にはもう結果が出ていた。

 マルセロくんが助かったこと、あの子を狙った暗殺者が死んだこと、そのために尽力してくれたのたのが”あなた”であること。新聞で知ったわ」


 ――母さんの柔らかな視線が向けられる。

 感謝を伝えてくれているのだと分かる。


「実行犯は死に、息子さんは助かった。だから目的が変わったと」

「……ええ。正直まだ、犯人が誰かの確信は持てていません。

 ただ執政官であれ、義兄であれ、これを仕組んだ者を暴かなければ」


 アンソニーの問いかけに、エミリさんが答える。

 黒幕を押さえなければ自分たちの安全もない。だから待っていた。

 黒幕側からの口封じか、ディーデリック側の人間が接触してくるのを。


「それでさ、王子様たちの方は犯人に目途ついてるの?」

「いえ、まだ確定的な話は聞いていません」

「……フランシスちゃんはどう思う? 安全に王子のところまで連れていける?」


 死んだと思われていたエミリアナ・アルフォンソを、安全にディーデリックの元に連れていくことができるか。まぁ、やろうと思えば簡単な話だ。


「なんなら王子の方を呼び出すこともできますよ」

「へぇ……そこまで近いんだ?」

「ちょっと信じられないかもしれませんけど、私も彼も気に入られてるので」


 アンソニーに視線を向けつつ、そんなことを言ってみる。

 少々不遜な気もするけれど、今の俺がまったく気に入られていないと思うのも謙遜が過ぎて嫌味であろう。


「ふふっ、ぜひ見てみたいな。王子様と一緒にいるときの君たち」

「――この事件が解決する頃には、お見せできると思いますわ」


 なんて微笑んでみせてから続けざまに言葉を紡ぐ。


「けど、今のところは私に作戦があります。

 エミリアナさんを殿下へ取り次ぐのではなく、殿下を呼び出すのでもなく」


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