第19話「――フレデリカ。後は頼む」
「――ひとつ聞いて良いか? いま、ここに子供は居るのか?
外の門だけ見ていると、もう使われていない教会みたいだったけど」
あらかたの経緯を聞き終えたところでアンソニーが質問を投げた。
俺も思っていた疑問だ。かつてのセドリックや靴屋の少年から考えればこの教会は孤児院を兼ねているのだろう。
しかし、門は閉じられたまま土埃を被っていたし、今この場所も静まり返っていてとても子供が居るとは思えない。既に役目を終えているように感じる。
「……無理にでも新たな子を迎え入れておくべきだったのだろうな。
セドリックを繋ぎ止めておくためには。
”最後の子”を見送ったことで、あいつは重しを失った」
約半年ほど前、最後の子が靴屋の見習いとして仕事と住処を得たと続ける。
それはセドリックにとって神父の跡継ぎという役割からの解放を意味していた。
元々が寂れていた教会、面倒を見ていた孤児たちも全員が独立したのだから。
そんな折に彼は依頼を持ち掛けられたのだろうと。
マルセロ及び母エミリアナの暗殺を。
そこからは俺たちの知る通りだ。
約1か月前にエミリアナとマルセロが襲われて、マルセロはそのまま開拓都市へと逃げ延びた。そこで祖父の死を目の当たりに。そして俺と出会った。エド爺の元に向かっていた俺と出くわした。
「……なるほどな。子供までいたんじゃ、ここでの待ち伏せは考えないか」
「あれ、お姉さんはどうしてアイスクリームの屋台なんてやっていたんです?」
ふと思った疑問を口にしてしまう。
この教会からそこまで離れた場所ではなかったが、敵が来ると分かっているような場所を離れてまでどうしてあんなことを?
「ふふっ、お金はいつでも必要だからね。あと敢えて隙を作ってみようかなと」
「……見せかけの?」
「想像にお任せするわ。まぁ、空振りだったけれどね」
魔術師フレデリカが教会に常駐していることを把握している敵が居たとしたら動くタイミングではある。といっても母さんのことだ。不在でも対応できるような魔法を仕込んでいるのだろう。そんな気がする。
「――それで、あなた達はディーデリック殿下と連絡が取れる?
マルセロくんも同行しているのよね」
「ああ、それは問題なく。うちの相棒は優秀でね」
アンソニーが向けてくる視線に頷く。
母さんの方も細かいことは聞いてこなかった。
魔法使い同士、手の内は晒したくないという前提を把握しているのだ。
「……ここが仕掛け時ね、良いでしょう? 神父様」
「私がどうこうできる話ではないよ、フレデリカ。
今まで助けてくれたこと、守ってくれたこと、本当に感謝している」
静かに視線を交わす母さんとシャミナード神父。
2人がどういう関係なのかは知らないが、かなり深いのだろうと分かる。
きっと、母さんにはこういう相手が無数にいるのだろうな。
領地を跨り、街と街を転々として仕事をしているフレデリカという魔術師には。
「……セドリックのこと、ごめんね。止められなくて」
「いや……変えられなかったのは、私のせいだ。
20年も時間があったのに、私はあの子を育てられたままにしてしまった」
暗殺者として育てられたまま、10歳の頃のままに。
「……神父様のせいだけじゃない。
神父様が育ててきた子たちを私は知っている。
悪かったんだ、巡り合わせが」
母さんの髪が揺れる。本当に残念そうにしていて、祖父さんが死んだ時よりよほど悲しそうだ。まぁ、祖父さんは普通に長生きしたからな。不条理な死ではない。
「――フレデリカ。後は頼む」
シャミナード神父の言葉に頷いた母さんが歩み始める。
いったいどこに進もうとしているのか。
それを察することのできない俺とアンソニーは彼女を視線で追うしかない。
そして、10歩ほど進んだ先か。
教会に並べられた長椅子のひとつに触れてスライドさせた。
……隠し通路か。しかも、地下に繋がっている。
左右7つずつ並べられた長椅子のうち、右から3番目。
まったく目立たない位置にこんな仕掛けを。
教会という独特の建造物らしいといえばらしいが。
「……とんだ仕掛けだな」
「なかなか分からないでしょ? まぁ、王城で見慣れてるかしら」
「少なくとも一騎士でしかなかった俺は知らないな」
母さんの手招きに従い、その後ろに近づくアンソニー。
俺も彼に続いてトコトコと歩く。
「それは結構、隠している価値があるわね」
先行して進む母さんに導かれ、1歩また1歩と地下に潜っていく。
この地下室に出口はあるのだろうか。出入口は1つの一方通行なのか。
「……この先には、いったい何があるんですの?」
「セドリックの奴を使った”黒幕”が血眼になって探しているもの。
というより人と言った方が正しいかしら」
黒幕が血眼になって探しているもの、探している人間。
いったい何者なんだろう。
人間だとして、どうしてこんな地下室に。
「ディーデリックの坊ちゃんより先に手に入れたがっている者ってことだよな」
「ええ、その言い回しをするってことは察しがついているのかしら」
「……まぁ、遺体が見つかっていない以上、可能性は捨ててはいなかった」
っ――?!
「嬢ちゃんも察しがついたか?」
「……ええ、でも、そんなことが」
「まぁ、何があったのかは当人を交えてからで良いでしょ?」




