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第14話「くくっ、あんさんの靴、もう少し踵がすり減ったらうちに来い」

「――確かにうちで作った靴のような気もするが、記憶にないな。

 なにせ月当たりに100足は作るもんでね」


 4軒目に回った靴屋はそれなりに大きくて職人の数も多いように見える。

 そして、反応として今までで一番当たりに近い気がする。

 問題はそこの人間に心当たりがなさそうなことではあるのだが。


「職人の数も多いみたいですもんね。皆さん同じ作り方で?」

「ああ。うちはやり方を統一している。先々代の時から」

「それでここの店で作ったものではあるけれどってことですか」

「同業者が猿真似をしていれば話は別だがね」


 少なくとも素人の真似した粗悪品ではないと言いたいのだろう。

 技術のある人間でなければ出せない水準に入っていると。


「従軍だって出来そうな代物だ。補修の跡も多い」

「ふふっ、そう言われてもな。心当たりのないものはない」


 ジッと周囲を見渡すアンソニー。

 自然な会話を広げつつ、周辺への観察も怠らない。

 王都警察の捜査官というのはこういう振る舞いが身についているのだと分かる。


「――分かった。邪魔したな」

「くくっ、あんさんの靴、もう少し踵がすり減ったらうちに来い。

 何かの縁だ。割引で直してやるよ。どうせしばらく歩き回るんだろ?」


 中々に商売上手なジジイだ。

 きっと、この店の中でもやり手なのだろうな。

 エルキュールの奴が歳を取ったら、こんな風になる気がする。


「考えときます。

 親父さんの記憶力がもう少し良ければ新しい靴を買っても良かったんですけど」

「ハハハ、そりゃ悪かったな。期待しないで待ってるよ」


 アンソニーの後ろに続いて靴屋を後にする。

 しばらく距離を取ったところで、彼が大きな溜め息を吐く。


「……王都だったら顧客名簿に手を突っ込めるんだがな」

「警察の権限で?」

「そういうことだ。坊ちゃんにでも頼むか」


 身分を隠して潜入していることが裏目に出ている状況か。

 と言っても、お家騒動に無関係な観光客として歩き回っているからこそ警戒されずに済んでいる側面も強い。俺たちがディーデリック側の人間だと分かっている状態では、人々の反応も違った気がする。


「宿に帰ったら伝えておきますわ」

「頼む。多分あの親父、靴の持ち主を知ってる」

「なんでそう思うんです?」

「勘だよ。意外と当たるというか、ハズレだと分かるまで気が持ってかれる」


 確かに当たりだと思っているものはいち早く確認したくなるものだ。

 それが分かるまで、頭の中で大きく居座り続ける。


「――すみません!!」


 靴屋から完全に離れる直前、後ろから呼び止められる。

 ……声変わりしたてくらいの独特な声色。

 成人したての少年だ。さっきの靴屋で見た顔だ。


「ほう、やっぱり来たか」


 近づいてくる少年、おそらく靴職人の見習いといったところだろう。

 そんな彼を前にしてアンソニーは静かにそう呟いた。


「……分かっていたんですか、僕のこと」

「いや、なんか話したそうにしているなって君を見てて思ったんだ」


 靴屋の親父を相手にベラベラ喋っている間で、そこまで観察しているとは。

 つくづく切れ者だな、アンソニー・グッドゲームという男は。


「本当にこうして来てくれるとまでは、思っていなかったけれど」

「……おじさんたちが探している人、僕が知っています」


 ッ――?!


「聞かせてくれるかい? あの親父さんは教えたくなさそうだったけど」

「……お客さんのことをあまり外に話すなって」

「へぇ、それじゃあ君はどうして話してくれる気になったんだい?」


 根掘り葉掘り聞きたいだろうに、ここでその言い回しができるとは。

 けれど、ここでがっついたら警戒されるのも事実だ。

 ……しかし、あの正体不明の暗殺者をこんな子供が知っているなんて。

 あり得るのだろうか、そんなことが。


「……その前に教えてください。

 おじさんたちはあの人を見つけたらどうするんですか」

「え? ああ、妹が死んだことを報せて――」


 靴屋の親父さんにも話していた”設定”に沿った言葉を紡ぐアンソニー。

 けれど、少年の方はその話を全く信じていない。


「――嘘だ! 兄ちゃんに子供なんていない! 結婚なんてしてない!」

「兄、ちゃん……?」

「そうだ、兄ちゃんだ。見つけたらどうするんだ! 兄ちゃんのこと!」


 流石のアンソニーも言葉に詰まっている。

 それもそうだろう、この子があの男の弟か? いや、違う。顔が違う。

 少なくとも血縁には見えない。

 しかし、何らかの事情があってあの暗殺者を兄と慕っている。

 いったいなんなんだ、この子は。


「……どうもしない。いいや、どうにもできない」


 ッ、アンソニーの奴は打ち明けるつもりか。

 成人したばかりの少年に”君が兄と慕う男は死んだ”と。


「っ、やっぱり……」

「気づいていたんだね、君は」

「兄ちゃんの靴を、他人が持ってる訳ないんだ」


 アンソニーが水を向けるだけで少年の方も察しをつけたらしい。

 つまり、兄は死んでいるんじゃないかと考えるだけの材料があるのだ。

 この子が知る限りの情報の中に。


「兄ちゃん、大きな仕事をするんだってどこかに行ったままなんだ」

「――教えてくれるかい? 君の知っていることを」


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