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第4話「ふーん? じゃあ女装もできるのか?」

「――傾いたようですね、フランシス・パーカー」


 シルビア先生の定期診察を終え、別邸へと歩く最中。

 真後ろから声を掛けられる。

 気配を感じさせないその動きと声色で相手は分かった。


「っ……いったい、その変装はなんだ? レンブラントさんよ」

「別に大した意味はありませんよ。ただ私もそこそこ顔が売れてしまって」


 こいつのメガネ姿を見るのはこれで2回目だが、以前のよりもずっと分厚いそれを掛けていて、服装も魔術師の魔の字も伺えないような野暮ったいものになっている。まるで都市に出てきて3日も経っていない田舎者だ。


「いつか、本気で紛れたアンタは見つけられないって殿下が言ってたが」

「ええ。少なくともマルセロ少年よりは上手くやれます」

「ふーん? じゃあ女装もできるのか?」

「立ってみせましょうか、トワイライトの舞台に」


 野暮ったいメガネの奥でニヤリとレンブラントの瞳が笑う。

 売り言葉に買い言葉の軽口であることは理解しているつもりだが、それでもこいつならやれそうだ。最低でもレナ姉と良い勝負くらいはできる。


「……それで? これからアンタのとこに行くのにどうして声を?

 わざわざバレない変装をバラしてまで」

「いえ、あなたと2人きりで話せるのは今ここだけかなと思うとつい」


 こちらの狭い歩幅に自然と合わせてみせるレンブラント。

 流石は殿下の付き人、いつも王子に歩幅を合わせているのだろうな。


「殿下のいないところで……というより”あいつ”のいないところか?」

「ふふっ、察しが良いですね。私のことなんか言ってました? あの人は」

「別に変ったことは。アンタに頭は下げたくないって言っていたくらいかな」


 アンソニー・グッドゲーム、元王国騎士団の男。

 もう既にあいつが偽者だという疑いは捨てていたが、こうしてレンブラントと話すと改めて実感できる。あの男が確実にディーデリックの関係者だと。


「――なるほど、彼の言いそうなことです」

「俺の正体、自力で調べたんだってな」

「ええ。それもこの街に到着するよりも前にね」


 ……いったいどうやったんだよ、背筋が冷えてきたぜ。

 まぁ、同世代の冒険者で引退後は王都に行ったって奴もいるから、そいつらに聞いて回れば概要は分かるのか。うーん、それでも俺が女になってまだ1年も経っていないのに。


「で、第三王子との軋轢をあいつに吹き込んだ」

「フフッ、ダメでした? 彼には貴女を口説いて欲しかった」

「自分で口説けば良いものを」


 まぁ、そもそも自分で決断できなかった俺の言えた義理じゃないが。


「言ったでしょう? 私はあなたを巻き込む責任を負いたくないと。

 それに私が連れてきた魔術師をグッドゲームは信頼しない」

「……そんなものなのか?」


 あいつがレンブラントという男の技量を疑っているとは思えないけれど。

 しかし、自分で目をつけて口説いた相手と、ちょっと嫌いな奴が連れてきた協力者では見え方も違うものではあるか。


「そんなものです。私は、たぶん元騎士団には嫌われていますから」

「……理由、聞いても?」

「流石にそれを話すほど私と貴方は親密ではない。信用はしていますがね」


 まったく都合のいいことを。

 正直、こう答えるとは思っていたが。


「まぁ、魔術師って疎まれるよな。集団の中だと」

「裏切り者の嫌疑を向けられやすいポジションではあります」

「実際に裏切っていた時に手を付けられないってのもあって、そうなる」


 冒険者のパーティくらいの人数になってそれなりに長い時間を過ごしてようやく信頼し合えるものなのだ。そうなれずにやめていく奴も少なくはない。


「なかなか貴方とバーンスタイン殿のようにはなれません」

「でも、アンタは殿下に気に入られてるじゃないか」

「ふふっ、そうですね。私が妖しい力で取り入っているのかも」


 ――周囲にはそう疑われることが多いって話か。

 少なくともディーデリック自身を見ていると魔法にかけられている気配はない。

 魔法で操られた男があんな行動的なものか。


「……フランシス嬢、最後に確認しておきたい。

 殿下の前で迷いを見せれば必ず止めてくる。貴方はそれを知っている。

 だから取り繕おうとするだろうが、その前に聞いておきたい」


 別邸へ向かう道、歩みを止めている訳じゃない。

 それなのに時間がゆっくりと流れ、止まったような錯覚に陥る。


「此度の遠征、本当に参加するおつもりか」

「……アンソニーに、俺を口説かせたかったんじゃないのか」

「ええ。ただ彼の立てている作戦は少々危険だ」


 細かいところはまだ聞いていないが、ディーデリック及び親衛隊とは別に単独行動を取るつもりだとアンソニーは言っていた。あいつに誘われた俺は自ずとあいつ専属の護衛役ということになるだろう。それが危険だと言いたいわけか。


「迷っていても俺なら使えるんじゃないのかい? レンさんよ」


 こちらの言葉を聞いて口元を釣り上げるレンブラント。

 野暮ったい変装の奥、いつものこいつが見えてきてゾクッとする。


「よろしい。その態度が取れるのなら充分でしょう。

 アンソニー・グッドゲームは使える男です。

 私は好いていませんが、殿下は深く信頼しています。先代団長もね」


 アンソニーを引き抜いたという後に団長になる男なのだろうか、先代は。

 騎士団長がどれくらいのペースで代わるのか知らないから何とも言えないが。


「その団長って……」

「――西方戦争の終わり際に名誉の戦死を」


 そうか……黄金期の死に損ない、だったな。


「ディーデリックが……」

「ええ、彼が最も敬愛する男のはず。恐らく今も変わっていないかと」

「……顔を拝むことができなくて残念だよ」


 思わぬところでアンソニーという元騎士団員と出会ったが、そりゃそうだよな。

 死んだ人間の方が多いんだ。

 ディーデリックの憧れた王国騎士団、その黄金期には。


「私も、あなたが彼を見てどう評するのかを知りたかった。

 あなたはあなたで殿下とは違う評価軸をお持ちでしょうからね」


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