第2話「……アンソニー・グッドゲームとか言ったな。金はあるかい?」
「フランク・ブライアント・サンダース、君の類稀なる魔法の才を借り受けたい」
――思わぬ相手にフルネームで呼ばれる。
そんな状況にあいつのことを思い出す。あのレンブラントのことを。
だから直感的に理解した。
きっと、こいつはディーデリックに気に入られているのだと。
「……アンソニー・グッドゲームとか言ったな。金はあるかい?」
「ああ。君を口説く権利分くらいは用意してきたつもりだ」
「よろしい。このトワイライトの”特等席”に案内しようか――」
特等席が空いていることをスタッフに確認し、場所を移す。
流石に他の客が居るところで俺の本名をペラペラ喋られたくはない。
――移動する間に思考を巡らせていく。
元王国騎士団を名乗るこいつの目的は何なのか。
俺はこいつにどう対応するべきなのかを。
「ちょっと不躾だったかな?」
扉を閉めたタイミングでアンソニーが口を開く。
ここで客の相手をするのはこれで3回目か。
オスカー、ディーデリック、そしてこのアンソニー・グッドゲーム。
「今からもっと不躾なことを聞くから気にしなくて良い」
「ほう? そいつは楽しみだ」
「――殿下が持ってる王国騎士団の集合絵を知っているかい」
こちらの言葉を聞いて反応を見せるアンソニー。
完全に読み取ることはできないが、存在を知っているような気がする。
「アンタ、そこに居なかっただろ。本当に王国騎士団か?」
「……あの絵か。坊ちゃんはやっぱり別邸に持ち込んでいたんだな。
どこに飾ってあった? 俺はまだ見つけられていなくてね」
この発言から読み取れることはいくつかある。
まず、こいつはあの絵画の存在を知っていること。
次に王族の別邸に入ったことがあるということ。
開拓都市の人間ではないのだから、滞在場所が別邸なのだろうか。
「――殿下の私室に」
「ふむ、見つからないのも道理だな」
「それで? 俺の質問には答えてくれないのか?」
正直なところ、どう答えてこようがこいつは本物だろう。
殿下の私室にしか飾っていない絵画にこの反応だ。
生半可な関わり方では、この反応はできない。
「――居るよ。出陣前に描いてもらったやつだろう?
あの時にはまだこの傷を負っていなかった。
君が俺を見つけられなかったのも当然ではある」
そう言いながら頬の傷痕をなぞってみせるアンソニー。
「と言ってもまぁ、君が疑うのもまた当然だ。
元騎士団や王子の関係者を騙る奴は多いからね。
後日、別邸にお招きする。だから今宵だけで良い、ひとまず信じて欲しい」
そこまで語ったアンソニーが特等席のソファに腰を降ろす。
俺もその隣に座り、ウィスキーをグラスに注ぐ。
氷が揺れる音の心地よさを感じながら、彼にグラスを手渡す。
「良いでしょう。それで、俺の力を借りたいというのは?」
「なんとなく察しはついているだろうけど――」
実際、察しはついている。
ディーデリックが遠ざけた道筋。
レンブラントが示しただけで踏み込んでは来なかった領域。
「――アルフォンソ領に同行して欲しい」
やはりそう来るか。いったい、どういう巡り合わせなのだろう。
あの王国騎士団に属していた男にこれを頼まれてしまうとは。
正直なところ、俺はこれを待っていた。
ディーデリックかマルセロか、どちらかに頼まれていれば。
けれど、そうはならずに今日の今日まで迷い続けていた。
「……アンタも、レンブラントだけじゃ手数が足りないと?」
「ああ。殿下とあの少年を守るだけなら充分だ。
しかし、あいつがそれに徹するのならば攻め手に欠ける」
レンブラント自身が言っていたのと同じ読みだな。
2人を守ることはできても真相を明かすのは難しいと。
「今回、殿下の集めた騎士団と冒険者は彼の親衛隊となってアルフォンソ領に対する牽制になるだろう。王族が出向いてくる上に兵力も整っているんだ。地方領として表向きの捜査を受け入れない訳にはいかない」
相槌を打ちながら、俺もウィスキーに口をつける。
「だが、冒険者も騎士も捜査向けの人間じゃない。
相手のテリトリーで慣れない捜査をしたところで真実は掴めないだろう。
よほど相手が杜撰か、1年以上の時間を費やすかしなければな」
……こいつの言う”捜査”ってなんだ?
犯人を捜すことを意味しているのは分かるが、それ以上の文脈がある。
この言い回しからして、こいつは捜査に慣れているのだろうが。
「今回、坊ちゃんにとっての”攻め手”は俺だ」
「随分な自信だな。慣れているのか? 捜査って奴に」
こちらの言葉を聞いてニヤリと笑ってみせるアンソニー・グッドゲーム。
「これでも王都警察の捜査官でね。流れ者と金持ちばかりの街さ」
「……うちの都市警団とはだいぶ違いそうだな」
「ここの事情はよく知らないが、犯罪の数も捜査の質も王都が上だとは思うよ」
ふふっ、自慢なのか自虐なのかよく分からないな。
「元王国騎士団で、今は王都警察に移籍してるって訳か」
「ああ、西方戦争を最後に。第三王子に嫌気が差した。アンタと同じさ」
「……よく調べたな、そんなところまで」
得意げに笑うアンソニー・グッドゲーム。
「君の正体を掴んだ後にレンブラントと話をしてね」
「なるほど。逆に俺の正体までは自力かよ」
「まぁな。あいつなら色々知ってると思ったが、あいつに頭は下げたくない」
……こいつ、レンブラントのことは嫌っていそうだな。
よく似た人種と思うが、同族嫌悪の匂いがする。
「おっと、話が脇道に逸れてしまったな。
アルフォンソ領への遠征で、俺は単独行動をするつもりだ。
理由はいくつかあるが相手の裏を掻きたいのと――」
続きは聞くまでもなく想像がつく。
こいつ自身がそれを挙げるかは分からないが。
「――群れるのが嫌いなんだろ?」
「分かる?」
「まぁ、そんな感じがビンビンにするからな。ホントに騎士団だったのか?」
改めて向けたこちらの質問を前にクスクスと笑うアンソニー。
皮肉が皮肉と通じる相手で良かった。
「色々あってね、自分でも騎士なんて柄じゃないと分かってたんだが。
後に団長となる男に引っこ抜かれたのさ。お前みたいな嗅覚の人間が欲しいと。
もっぱら斥候役をやっていた」
中々に濃い人生を歩んでいそうだな、この男は。
ここまで話していて正直、嫌いじゃない。
騎士団員としては異端側なんだろうけれど、ディーデリックが憧れた男たちの1人なのだと自然と分かってくる気がする。
「つまり、アンタの護衛役をしろってことかい? アンソニー」
「うん。殿下は事故でも殺せないが、俺みたいなのは事故で殺せるからな」
何気なく言い切ってみせるアンソニーに熟練さを感じる。
流れ者と金持ちの街で、捜査とやらを重ねてきた男か。
苦労を重ねてきた若白髪が、やけに美しく見える。
「今すぐに答えを出せとは言わない。答えは別邸で聞かせてもらえれば」
「……いや、俺が傾いていなければ殿下は止めてくる」
視線と視線がぶつかり合う。アンソニーの黒い瞳と。
「力を貸そう。魔術師としての力を」
「良いね。昔のアンタの顔は知らないが、透けて見えるようだ」
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