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第48話「ええ、二流の仕事ですね――」

「――すみませんね、呼びつけてしまって」


 2日前に置いていった俺の衣服。

 それを受け取り、同時に借り受けていた衣服を返しにきた時のことだ。

 屋敷のメイドさんから言われた。マクシミリアン様が呼んでいると。


「いや。でも意外だな、アンタが俺を呼ぶなんて」

「そうです? とりあえずの調査が終わりましてね」


 事務作業用の部屋で、珍しくメガネをかけているレンブラント。

 机の上には大きな地図、複数あるコルクボードには紙が鋲で止められている。

 アルフォンソ領についての概要、暗殺者の使用していた武器とかとか。


 ……このままディーデリックに見せて説明できる勢いだな。

 レンブラントという男の丁寧さがよく出ている。

 作業中なのに、ここまで綺麗なのは一種の芸術だし、実用性も高い。


「調査結果と照らし合わせたところの俺の考えを聞きたいって感じか?」

「ええ、マルセロ少年も貴方も全体像を掴んでいなかった。

 実際に現場に立っていたとしても、俯瞰を知らなければ見えないことがある」


 机に広げられているのは、開拓都市の地図だ。

 かなり範囲が広く、エド爺の屋敷まで入っている。

 爆弾を模したマークが暗殺者の仕掛けていた爆破術式だな。


「林道に仕掛けられた無数の爆破術式……」

「はい、貴方の見抜いていたとおりです。解除には少し手間取りました。

 術者が死んでも消えてなくてね」


 奴が死に際に放とうとした手の爆破術式とは違うということか。

 あっちは術者の死亡で無力化されていたが。


「雨でも消えなかったって訳か」

「流石にそんな初歩の初歩ではありませんでしたね」

「――なぁ、ここに書いてあるマーク。これ、転移魔法か?」


 地図の中に10か所ほど、ハサミっぽいマークが刻まれている。

 そのひとつが都市警団の詰所、俺たちが駆け込んだ場所だ。


「ええ、殺し屋が転移魔法を使ったと聞いて念入りに調べました。

 野営中に襲ってこなかったことからして、千里眼と組み合わせた無条件の転移ではないという貴方の読み通りです。屋敷から街に戻るまでの間にこれだけ」


 ……2日前、俺は昼過ぎまでここに居た。

 ということは、昨日1日だけで実地の情報収集を済ませ、今日のうちにここまで綺麗にまとめ上げたのだ。とんでもない男だな、レンブラント。


「運悪く、その1つを踏んでしまったってことか。

 といっても屋敷から開拓都市に戻ろうとしたらどこかは通るな」

「ええ。完全に撒くにはダンジョンに逃げ込むか、別の街に向かうかですね」


 ……実に周到な仕掛けだ。

 それもこれもマルセロ・アルフォンソ1人を獲るためだけに。


「別の街へのルートも調べてるのか?」

「軽くではありますが要所だけは。と言ってもまぁ、流石にありませんでした。

 人の足で移動するには遠すぎますからね」


 ――王族の別邸付近に仕掛けがない、というのは俺の読み通り。

 ギルドに向かうルートには仕掛けがあって、もしもここを通っていたら思わぬ方向からの奇襲があったかもな。


「……1人なのか? この仕掛け」

「ほぼ間違いなく1人です。術式の癖からしてね。

 無論、次の追手が来ない前提での警備はしていませんが」


 ただでさえ、王子の住む屋敷だ。元からその手の警備は厳重だろう。

 そこにマルセロの身を案じるレンブラントが居れば、間違いはあるまい。


「改めてこうして見ると、恐ろしいくらい用意周到だったな」


 地図に刻まれたマークの数の分だけ、あの男は仕掛けていたということだ。

 これだけ広い範囲に、自分の足を使って。

 狂気的な執念を感じる。奴にとってはただの仕事だったのだろうが。


「ええ、二流の仕事ですね――」


 自らが調べ上げた結果を見つめながら、冷たい目で吐き捨てるレンブラント。

 ここまで手を尽くした相手が”二流”とは。恐ろしい男だ。


「どうしてそう評するか、聞いても?」

「そうですね、まずはあんな初歩的な変装で標的を見失ったこと」

「……見抜いていたもんな、アンタ。アマンダの正体を」


 こちらの言葉にニヤリと微笑むレンブラント。


「魔術師は、魔法を使わないフェイクに弱い。

 それは事実ではありますが、私には許されない。

 殿下を狙ってくるのは、魔術師だけとは限りませんからね」


 ”――魔術師も雇えない奴らに、彼を獲られたら恥だ”


「意外とそういう奴らが盲点を突いてくる、ってのはあるものか」

「はい。貧者の知恵、ではありませんが思考の形が違う人間はいる。

 だから少年が少女に擬態しただけで見失うのは、典型ではあるが愚鈍だ」


 確かにその点においては、二流どころかそれ以下と言っていいだろう。


「でもよ、ここまでの周到な仕掛けは凄いんじゃないのか?」

「凄いは凄いですよ。でも、ここまでやるのは”怯え”にしか見えません」

「怯え……?」


 林道に無数の爆破術式を仕掛けて退路を断つ。

 さらに林に逃げ込まれることを想定し、開拓都市に転移術式を仕掛ける。

 この用意周到さを怯えと評するのか、レンブラント。


「計画が失敗した時に備え、次の策を用意することは必要です。

 私だってそうします。元冒険者である貴方には言うまでもありませんが。

 でもね、これはやりすぎだ――」


大変長らくお待たせしました。

本日より1章3節、再開いたします。


3節は残り3話となりますので、残りは明日、そして10月14日(金)と15日(土)に更新していきます。


よろしくお願いいたします。

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