8月6日 状況整理
孤立無援。
夏休み前に覚えた四字熟語だ。
意味はたった1人で助けが来ないこと。
つまり、現在のボクのことである。
「本格的に作戦を考えよう」
小学生なのに2、3回目の絶望を経験した翌日。
何とか気持ちを立て直して脱出計画を考える。
(結局はタイミングなんだよな……)
耳を澄ませば聞こえてくる、ナーねえの仕事場の音。
それ以外は適当につけたテレビで午後のニュースをしている。これ以外は時間帯の問題で野球と旅番組だけだった。もしかしたら参考になるかもしれないし、どうせなら最近見かける脱出ゲームの番組でも流してくれたらいいのに。こんな時に限って放送しないんだから。
「でも、段々ナーねえの情報が集まってきたぞ」
ボクはポケットからこの屋敷に来た時に持っていた数少ない私物――小さなメモ帳を取り出し、今日の日付の場所にナーねえの行動を書き込む。まだ3日分しか溜まっていないけど、おおよその生活サイクルは掴めてきた。
・午前7時~8時 起床(ナーねえが抱きつく可能性あり)
・起床~午前9時 朝食(パン多め)
・午前9時~午後12時 団欒(ボクを隣にソファでテレビか本)
・午後12時~13時 昼食(美味しい)
・午後13時~17時 お仕事?(行動するならここ)
・午後17時~19時 自由時間(その時で行動が変わる)
・午後19時~20時 夕食(美味しい)
・午後20時~21時 お風呂&歯磨き(ナーねえに強制連行)
・午後21時~22時 就寝(ボクの眠気の都合上)
「まとめると、こんなところか」
分かったことは、ほぼずっと同じ空間にいるから隙が少ないこと。何か行動を起こすとしたら午後の4時間以内しかないことだった。
4時間あれば脱出も難しくない余裕余裕♪――となる訳がない。
ここが例の屋敷のどの辺かは分からないけど、ナーねえの言った『リフォーム』の一言が非常に気になる。嫌な予感がする。今までは予感とか滅多に信じなかったのに、ここ数日で直感・予感の類いには素直になろうと学んだ。
「ナーねえのことは……これ、対策のしようがあるのかな?」
・実は人外(見た目は大学生ぐらいの美女)
・蜘蛛の神様らしい(名前は忘れた)
・指から極細で丈夫な糸を出せる(一瞬で出すので見つかったらOUT)
・お母さんの倍以上※※があった(小玉スイカ)
・蜘蛛の部下が何匹も(変な能力を持っている)
・恥じらい無し(目の前で着替える&一緒にお風呂)
・欲望に素直で危険(現在、誘拐&監禁&情報操作の罪)
………………
今更だけど、小学生が相手するのハードル高くない?
「……ナーねえも、普通に接していれば、こんなに悩まずに済んだのに」
たらればの話だけど、もしも普通に家に帰して貰っていたら“不思議だけど優しいお姉さん”って印象だけで済んだかもしれない。
夏休みの間、何度か屋敷に訪れて仲良く出来たかもしれない。
人外だとカミングアウトされても、受け入れられたかもしれない。
“子供の頃の良い夏休みの思い出”として心に残ったかもしれない
なのに……何で監禁しちゃうかなぁナーねえはぁぁぁぁ。
冷静に考えても酷すぎるだろ。
人外だからか? それとも管理人さんなる人物が常識を教えていなかったからか? そもそも年の割に変に常識とかなくない? あれ? そもそもナーねえって歳いくつだ? 勝手に大学生ぐらいのお姉さんだと思っていたけど、神様云々が本当なら年を取らないよね? え? 何年前から日本にいるの? ……あ、これ余計なこと考えちゃダメな奴だ。お母さんも「女の人に歳の話はNG!」っていってたじゃないか。
よし、これでこの話は終わり!!
「ちょっとはナーねえも油断してきたみたいだし、他の部屋もいい加減見るべきか……めっちゃ怖いけど」
メモに書いた簡単な部屋割りの図に、ペンをコンコン叩いて考える。
・大部屋:ほとんどの時間を過ごすことになる部屋。テーブル、テレビ、ソファ、タンス、蜘蛛用扉、etc.……いろんなモノが揃ってる。この部屋だけでボクの家の敷地と同じくらいありそう。広すぎて落ち着かない。他の部屋とを繋ぐ中心地点。
・仕事部屋:ナーねえが午後に仕事(?)している場所。たぶん服飾関係。機械音はしないから手作業の可能性あり。
・トイレ:広いこと以外は普通。
・風呂場&洗面所:お風呂は大きいし、洗面台は横長の鏡が置いてあるし、すごいとしか言えない。洗濯機と乾燥機もある。
・図書室(?):未確認の部屋その1。ナーねえが本を読む時に毎回そこから持ってくるので、たくさんの本が置いてある可能性あり。大部屋からも本棚が見えたのでほぼ図書室で間違いなし。
・???:未確認の部屋その2。何が置いてあるのか情報が無い。時々ナーねえが仕事部屋から出たあとに入ることから、作ったモノを置いておくための部屋なのかも。
・???:未確認の部屋その3。カーテンに仕切られ、ナーねえが入ったところを見たことのない部屋。上手く言えないけど、本能が入ったらダメだと警告している。たぶん1番ヤバい。入るのは最後の手段にするべきかも?
「……」
最後の、本能が入っちゃダメと言っている部屋を見る。
長い、濃い赤色のカーテンが掛けられていて中を見ることが出来ない部屋だ。
トイレとお風呂を除いて部屋同士を繋げる扉が無いこの場所。
絶妙な角度で死角になっているから、意図して覗こうとしない限り見えない。が、逆に言うと覗こうと思えば普通に覗けてしまう。
なのに、あの部屋だけが変に区切られている。
一体あそこに何があるというのだろうか……
見れば見るほど不安の感情が襲ってくるあの部屋に。
「……明日は図書室(仮)ともう1つの部屋を調べるか」
もう同じ過ちは繰り返さない。
興味本位は身を滅ぼす。
それらを改めて意識するのだった。
そろそろタイトル通り脱出戦争したいですね。
あと2話ぐらいで始まる予定。