表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/36

8月5日 少年よ、これが真の絶望だ

 前半は思いついちゃった茶番です。



 ある日、買い物の帰り道でそれを見つけた。

 キレイな泉だ。


 まるで、おとぎ話にでも出てくるかのような……


『あ!』


――ボチャチャンッ!


 見とれていたせいか、お母さんに頼まれていた買い物の小玉スイカを2つとも落としちゃった。それも泉の中に。


『どうしよう……』


 小玉のスイカとはいえ2つ。それなりに高いのに……


 途方に暮れていると泉から光が溢れ出てくる。

 そして光と共に、美女がゆっくりと泉の中から現れた。


 黒い髪に銀のメッシュが入った、とても綺麗な女性だ。


『だ、誰!?』


『私は蜘蛛の神s――ゴホンッ! ……私はこの泉の精霊です』


 今、蜘蛛って聞こえたような……?

 関係ないよね。泉から出てきたんだし。


『アナタが落としたのはこちらの英知をもたらす神のリンゴ2つですか? それとも、こちらの1個数万円はくだらない超高級メロン2つですか?』


 泉の精霊様?の両手には、それぞれ籠の上に置かれたリンゴとメロンがそれぞれ2つずつある。どちらも高級感を感じさせるかのように光輝いている。……いや、比喩で思っただけだけど本当に輝いているような? 気のせいだよね?


 悩ましい。


 英知をもたらすリンゴなんて、どこかの神話みたいで気になる。

 これを逃せば2度と手に入らないだろう。


 しかし、高級メロンも捨てがたい。

 一般人じゃそもそも買うことすら出来ないものを食べてみたい。


 だけど、


『いえ、ボクが落としたのは普通の小玉スイカ2つです』


 お母さんからの買い物が優先だ。

 せっかく両親がお金を貯めて買うことが出来たんだ。英知のリンゴと高級メロンは欲しいけど、お買い物を任された者としてここは小玉スイカを優先する。それに不必要なウソは良くない。お母さんを悲しませることになる。


『アナタは正直者ですね。では、そんなアナタには――』


 リンゴとメロンをどこかへしまった泉の精霊様は、



『私自身をプレゼントしまーーーっす♪』



 思いっきりボクに抱きついてきた――って!


『何するんですか!?』


『だって正直な子供って可愛いんだもん! お姉さんがたーっくさんご奉仕しちゃうぞ♪ リンゴもメロンも両方食べさせてあげるね♪』


『いやボクは小玉スイカを――!!』


『スイカならお姉さんの胸に2つともあるじゃない♪』


『それ別のスイカ!!』


『我慢できない! このまま泉の中にお持ち帰りぃ~♡』


『誰か助けてー! 家に帰らせてー!!』






「――はっ!? ふゅふめゆめふぁ――ん?」


 自分が見ていたものが夢だった気付いて安心して、すぐに変な息苦しさを覚える。なんか、やけに柔らかいものが顔に押しつけられてるような?

 あれ? というか、体が動かない……?


 で、何とか首を動かして呼吸できるようにしてみれば、



「うへへ……そーくぅん♡」


「ナーねえ!?」



 なぜか目の前に寝間着姿のナーねえが!

 いつの間にボクの寝ていたソファに!? というか、ガッチリ抱きしめられて身動きがまともに取れないんだけど!?


 あー、思い出してきたぞ。

 確か昨日は数日ぶりにお風呂に入ったんだけど、ナーねえと強制的に入ることになって、体中を洗われて(下半身だけは死守した)、お風呂から出たあとは羞恥心が限界になったんでさっさっと寝ようとしたら、今度はやたらヒラヒラした薄い生地の寝間着を着たナーねえが「一緒に寝よ?」って言ってきたんだ。


 本当に寝間着なのかも怪しい薄さで、気のせいか一部が透けてるようなそれを見て断固拒否の姿勢を貫いたんだ。

 羞恥心がオーバーヒート寸前だったし。

 その時はすごすご退散したと思っていたのに……!


「ボクが寝たのを確認してからソファに潜り込んだな!」


 油断も隙もあったもんじゃないなコイツ……!!


「ちょ、いつまでくっついてんの! 離れて!」


「うみゅぅ、そーくんのそーくんもカワイイと思うのぉ……だからぁちょっとだけお姉さんに見せt――」


「さっさと起きろぉっっっ!!」


「やん♡」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 朝食と簡単な歯磨きなどを終えたボク。

 正直2度寝したい。


「なんで朝からこんなに疲れなくちゃならないんだよ……」


 夢でも現実でもナーねえに襲われるとか。

 ボクに安息は無いのか?


 夢に関しては、アレだ。

 全部お風呂のナーねえが悪い。恥じらいが一切無いどころか見せつけてこっちの反応を楽しんで。下半身はどうにか守ったけど、頭と上半身は徹底的に洗われるし散々だった。


「……そろそろ行動したいところだけど、まだ早いかな?」


 ボクとしては今すぐにでもしたい屋敷からの脱出。

 家具や食事が一級品だから居心地はいいだろうけど、それは囚われの身で無かった時までだ。今はボクを誘惑するための罠にしか見えない――いや、食事は美味しく頂いてるけど。何? アクアパッツァって? すごい美味しかったんだけど? あんなのがあるって初めて知ったんだけど?


 ……食事事情はひとまず置いておこう。


 とにかく、脱出のためにはナーねえの油断と隙がなくてはいけない。

 脱出に使えそうなものを探すために他の部屋の探索もするべきだろうけど、ボクを捕らえてからは食事の時に使うキッチンワゴンの持ち込みと片付けぐらいしか部屋の外に出ない。それも1分未満だ。たぶん、部屋を出てすぐ側にキッチンワゴンの出し入れ用の通路かエレベーター的なモノがあるんだろう。

 その時に部屋を出ても、目視で見つかる危険の方が高い。


 ナーねえもいつまでも部屋の外に長時間出ないとは思えないんだけど……あれ? 何かしらの用事で出たりするよね? さすがに1週間以上部屋に籠もりっぱなしってことは――あるかも。だってナーねえ人外らしいし。その辺普通の人と違ってもおかしくないし。


 ダメだ。小学生のボクに引きこもり(仮定)なナーねえの行動予測は荷が重すぎる。地道に情報を集めるっていう最初の結論に戻っちゃう。

 そもそも人外の行動予測って無理じゃない?


 と、ここまでは自力での脱出云々について考えていたけど、外から脱出の手段が来る可能性の方が高い。

 考えればそんなにおかしくないことだったんだけど――



「ご近所さん、そろそろ異変に気付いたかなー?」



 そう、ご近所さん。

 引っ越してまだ間もないからそこまで深い繋がりは無いけど、小学校に行く時に出会ったら普通に挨拶し合うぐらいには両校の関係の近所の人たち。その人たちが両親だけでなくボクまでいなくなった無人の家に対し違和感を持ち、通報してくれる可能性がある。

 というか、お母さんとお父さんが近所の人に何かしらボクのことで頼んでいるかもしれない。それなら、もう異変に気付いてもおかしくない。


 そして、お母さんとお父さんの2人だ。

 あの2人なら住み込みの仕事をしていたとしても、数日ごとに電話をしてくるはず。というより“する”って行く前に言っていた。

 今日は8月5日。

 仕事に行ってから5日も経っていれば、電話の1本は掛けているはず。

 そこでいくら掛けても繋がらないとなれば“何かあった”と感づく。


 そう、これらのことから分かるのは、


(もうボクの捜索が始まっていてもおかしくない)


 もしかしたら捜索されるのは明日になるかもしれないけど、逆に昨日の時点で捜索が開始されてても不思議じゃない。

 本格的に警察の人たちが動けば、遅かれ早かれここ・・に気付く!


 つまり、無理に行動しなくても助かる可能性の方が高い!

 神様だか何だか知らないけど、住処を追われればどうしようもない!

 根っからの悪人じゃ無いからちょっと良心は痛むけど、小学生監禁事件を引き起しておいて甘い対応をボク自信取るわけにもいかない!


(勝った……!)


 突然の人外宣言や監禁で今まで考えなかったけど、ちょっと思い浮かべればすぐに分かることだった。

 ボクは“数日中に助かる可能性が高い”と、心の中で笑った。




 尚、それからしばらくしてのことだ。

 『フラグを立てる』という言葉を知ったのは。

 だけど、この直後にボクはその意味を知る羽目となる。





――カタカタ



「うん……?」


 あれ? 何か物音が。

 ナーねえ――じゃないよな。例の仕事する部屋にいるっぽいし。


 何だろうこの音?

 小さいモノが移動してるような……もしかして、ネズミ?


 音の発生源はどんどん近づいてるようで、さすがに気になってボクも近づいていくと小さな扉のようなモノに行き着いた。


「この小さな扉みたいなの、結局なんだろ?」


 脱出を決意した日に部屋中を見渡していく中で見つけた10センチ程度の使途不明の扉。最初は扉の形をした収納スペースかと思ったけど……



――カチャ



 ボクが扉の用途について考えていると、内側から鍵を開けたような音が聞こえ――って、え? 扉がゆっくり開いてるんだけど?

 もしかして本当にネズミ専用の扉だったりするの!?

 それどんなトムとジェ〇ー!?


 そうして、扉から出てきたものは、



 タランチュラぐらいの大きさの蜘蛛だった。



「へ?」


 蜘蛛が器用に前足を使って扉を開けた。

 その蜘蛛が完全に扉から出たかと思えば、2匹目、3匹目の蜘蛛が――


「」


 さらにさらに、4匹目5匹目とゾロゾロゾロゾロ――


「ギィヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!??」


 叫んだ。

 腹の底から叫んだ。


 考えてみてよ?

 小さな扉から何匹も手のひらサイズの蜘蛛が自分のいる部屋に侵入してくるんだ。同級生の女の子なら気絶してもおかしくない。


「そーくん、どうしたの!?」


そしてボクの悲鳴を聞いて現れたナーねえ。

 人外とか監禁している本人とか関係なく助けを求める。


「ナーねえ!! 蜘蛛が、蜘蛛がぐわぁっ!!」


「蜘蛛がどうかし――あら?」


 そこでナーねえ自身も蜘蛛の群れを見つけ、


「あらー、お帰りなさいアナタたち。用事はもう済んだ?」


 普通に接し始めた。


「………………えっと」


「うん、うん、大体上手くいったと。良く出来ました♪」


 ……どうなってるの?

 蜘蛛の方がワシャワシャ動けば、ナーねえが頷く光景。


「あー、ナーねえ? この蜘蛛たちって……」


「うん? あ、そーくんは見るの初めてだよね。私のしもべだよ」


「しもべ?」


「そう。私が産みだした、私に忠実な部下のことだと思えば良いよ♪」


「あー……」


 思い出した。

 そういえば、カミングアウト時に言っていたよな。

 自分は蜘蛛の神様・・・・・だって。


「心臓に悪い」


「憔悴してるそーくんもカワイイぞ♪」


「もう何でもいいんだろナーねえ……」


 神様だから部下みたいのがいても変じゃない。

 問題は、コイツらが何をしていたか。


 さっきから、すっっっごく嫌な予感がするんだ。


「それで、この蜘蛛たちはナーねえに何の用だったのさ?」


「大したことじゃないよ。ただ、そーくんのお家に送り込んで実際に生活しているように見せるアリバイ工作を頼んでおいただけ。で、それがひとまず上手くいったよって報告を受けていたんだ~」


「………………はい?」


 ボクの家? アリバイ工作?


「ナーねえ」


「なーに、そーくん♡」


「説明プリーズ」


「いいよ~♡」



 そこからの説明はボクを地の底に落とすには十分だった、とだけ言っておく。



「ほら~? そーくんを一生養うって決め手から色々と動いていたんだけど、その中の1つがそーくんのお家周りの事情だったの」


「そーくんがいきなりいなくなったら、周りの人も両親も心配して探しちゃうでしょ? それも数日中に」


「だ・か・ら~~~たくさんの技能を持つ蜘蛛たちを派遣することにしたの」


「事前にそーくんからこの辺りに引っ越してきたばかりって聞いていたから、管理人さんにも協力して貰って、家の特定はすぐだったの」


「で、人に見つからないようにそーくんのお家に侵入した蜘蛛たちには役割を与えて、そーくんが家にいるように見せかけたんだ♪」


「この子たちって本当に頭が良いし、いろんなことが出来るの。例えばテレビや照明を付けたり、適当に見繕ったゴミや――え~っと“かいらんばん”とかを人に見つからないように出したりできるのはもちろん♪ 特殊な技としてそーくんそっくりの幻影を作り出して窓際に立たせたり、電話があってもそーくんの声マネを出来るように仕込んだの」


「え? 蜘蛛は喋れない? やだな~ちゃんと出来るよ! ほらキミ~。『オカアサン、オトウサン。ボクハ、ゲンキダヨ!』……ほらね?」


「こうしとけば、いつか気付いたとしてもそーくんがどの時点からいなかったか分からないし、置き手紙とかで『家出します。探さないでください』って文章のを置けば向こうも混乱するし、そこまでしておけばこの屋敷に辿り着く可能性も低くなるでしょ? 管理人さんには情報規制の強化もお願いしといたからさらに安心!」


「だから……ね?」




「何も心配せず、ずっとここにいていいんだよ♡」




「」


 ボクは、膝から崩れ落ちた。

 これが絶望か!!


 ナーねえが僕の蜘蛛をどうやって生んだかはご想像にお任せします。



管理人「最近、ナクア様の無茶ぶりが酷い」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ