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8月1日(後編) 見えない糸(罠)に掛かりそうな蝶

 サブタイに日にち以外も付けてみました。


「いや思ってた以上に大きいな……」


 例の屋敷は普段通っている学校のある道とは反対方向にあった。


 周囲に住宅が無い分、その存在感が増している。


「庭は……屋敷に対して面積が狭い。これ、本来庭に使うはずだった分の土地を屋敷の大きさにしてるのかな?」


 イメージだとこういう屋敷の庭って噴水やら花壇があって無駄に広い気がするけど、ここは必要最小限しかない。

 案の定手入れがされていないのか、雑草のパラダイスになっている。……なっているんだけど、やっぱりおかしいな。


(人が通る場所だけ草がほとんど無い……?)


 屋敷の外側を覆っている飾りっ気のある鉄格子みたいなの(名前は忘れた)の隙間から中の様子を見た時からあった違和感の正体が判明した。


 雑草の力ってすごいもので、隙間さえあれば意地でも生えようとしてくる。

 それこそ、普段から手入れをしてなければ庭の石畳の隙間からも生えてグングン成長していくんだ。それが、ここは不自然に少ない。

 周りの雑草の生長具合と合っていない。


「まさか、本当に誰か住んでる?」


 それにしては人の気配がないけど。


「うーん……中に入れないものか……」


 敷地内に入るための扉は硬く閉ざされてるんだっけ?

 しかも上の方をよじ登ろうとすると非常ベルみたいな音が鳴るって。


 まぁ、見るだけ見てみるかな。

 非常ベルみたいな音が鳴れば、その話は本当だったってことで。


 で、屋敷の外側を回り歩いている内に敷地内に入るための大きな扉を見つけたんだけど、


「あれ? 開いてる?」


 ボクの身長の何倍もあるような大きな扉は……半開きになっていた。


「………………」


 慎重に扉を潜る。


「……お邪魔しまーす」


 試しに声を掛けてみたけど――反応はなし。

 防犯装置の方も――それらしい音の1つも鳴らない。


 おかしいな? 聞いてた話と違う。

 普通に入れちゃったんだけど。


「誰かいますー? いないなら探検しちゃいますよー?」



――シーン。



 反応はない。怖いくらいに物音1つしない。


「……」


 恐怖心と好奇心が入り交じりながら敷地内を進んでいく。


 見渡す限りで雑草、雑草、また雑草。

 たまに何かの残骸らしき木片がある程度で面白みがない。


 そして、とうとう屋敷に入るための扉の前まで来てしまった。


「これで屋敷の中がもぬけの殻だったらバカみたいな話で終わっちゃうな」


 クラスに馴染むための話題作りどころか「え? オマエ本当に何も無いあの屋敷を探索したのか?」とか言われたらどうしよう?


「ここで引き返すのも1つの手か――『ポツ』――ん?」


 今、額に水が落ちてきたような……?



――ポツ、ポツ、ポツポツポツ、ザァアアアアアアアアアアッ!



「うぇ!? あ、雨!?」


 今日の予報じゃ晴れじゃなかったのか!?

 これゲリラ豪雨みたいになってるぞ!


 あああああ、ヤダヤダヤダ!

 ボクって昔から雨に直接濡れるの嫌いなんだよ!


 避難! 緊急避難!

 どこへ? 目の前の屋敷しかないじゃんか!!


「退避―!」


 雨を避けるため、勢いのまま屋敷の中へと入り込むボク。

 どういうわけか、ここも扉に鍵は掛かっていなかった。


 中は当然電気の類いは無く、雨を降らす雲のせいで薄暗かった。



――あとになって痛感したけど、暗い中で勢いよく走ったら危ないよね。



 走って屋敷に入り、よく周りを確認せずに突撃したボクは、



――ガンッ!!



「ぶっ!?」


 何か硬いものに正面から激突した。


(な、にが……?)


 相当強く頭をぶつけたのか意識が薄れてく。


 最後の気力を振り絞ってよく見る。


 扉から入って僅か数メートル先に何故か設置されていたもの。


 それは、


 蜘蛛の石像・・・・・を乗せた大きな台座だった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ん……」


 頭がぼーっとする。


 自分がソファ(?)の上で寝かされてることだけ分かって、

 次にそれが自分の知るものと随分違うことに戸惑い、

 焦点が合ってきた目で天井を見て確信する。


「……絶対に知らない場所の天井だ」


 いや、どこなのここ?

 ボクの家のソファはこんなに大きくないしフカフカじゃない。

 さらに言えば、間違っても小さなシャンデリアみたいな照明なんてあるはずない。ボクの家にあるのは古いタイプの丸い照明だ。


「確か……」


 だんだん思い出してくる。


 両親が1ヶ月いないので、思いで作りを決めたこと。

 クラスでも有名だった人の住んでいない屋敷に探検しに来たこと。

 突然の大雨から逃れたくて、屋敷に入って、台座にぶつかって……


(あれ? じゃあ何でボク、こんな所に……?)



「ふふふ。そこは『知らない天井だ』って“ネタ”に走るのがお約束だって聞いてたのに、微妙に違う言い方になっちゃったか」



「――っ!?」


 突然の声にビクッとなる。


 体を起こし、恐る恐る声のした方向を見れば、


「だ、誰です、か?」


 10年ちょっとの人生で会った人の中で、間違いなく1番綺麗だと断言できる女性がコップを持って立っていた。


 年は20歳ぐらいかな?

 大学生のお姉さんのように見える。


 変わったところといえば、綺麗な長く艶のある髪に所々銀色が混じっているところか。あれって、“メッシュ”ってオシャレなんだっけ?

 テレビで紹介してたの見ただけだから、良くは知らないけど。


「誰って……むしろ、それはお姉さんのセリフだと思うよ? 家でくつろいでいたら突然何かがぶつかったような物音が響いて、様子を見に来たら可愛らしい男の子が倒れてるんだもん。それで放置するわけにもいかず休ませてたんだけど……」


「あぁ、それはご迷惑を――って待って? 『家でくつろいでいたら』?」


「えぇ、適当にテレビを見ていたんだけど」


「………………ここどこですか?」


「だーかーらー、私の今住んでいる家よ? まぁ、かなり大きいんだけど」


「…………ここ、もしかしなくても、あの・・屋敷ですか?」


あの・・が何を指しているのかは分からないけど、地元では1番の大きな屋敷だって管理人さんも言っていたかな?」


 ……えーっと、つまり、誰も住んでいないと思われていた屋敷にボクはいるわけで、目の前のお姉さんがその屋敷に住んでいて……


「不法侵入じゃん!!」


「あ、偉いねー。その年でもう難しい言葉知ってるんだ♪」


 何かお姉さんが「偉い偉い♪」って撫でてくれているけど、それどころじゃない! 人が住んでいる場所に入るのは不味いって!!


 ボクはソファの上で即土下座した。


「悪気は無かったんです! 見た目からしても人が住んでいるとは思わなかったんです! ちょっと出来心で探検したいと思ってすみません!!」


 だから、だから警察だけは!

 両親が家を出たその日に「実はお宅のお子さんが~」って警官から親に電話が掛かるとか一生もんの黒歴史だけは嫌だ!

 冗談抜きで顔向けできない!


「あー仕方ないかもねー。管理人さんから『庭は好きにしてくれても構いません』って言われてたけど、私ガーデニングとか全然興味ないし、そもそも何年も外に出ていないし、基本ほったらかしだったからね。人が住んでいないって思われてもしょうがないよ。だから、許してあげる」


「ありがとうございまーす!!」


 た、助かった~!

 小学校卒業前に前科が付かなくて良かったー。


 『何年も外に出ていない』とか聞こえた気がするけど、気のせいだろ。


「うーん? でも、おかしいな? 管理人さんが戸締まりとかしっかりしているって話だったけど、何でこの子は入って来れたんだろ? 何か言われていたような気がするんだけど――忘れちゃったしいいか♪」


「そういえば、管理人さんって?」


「代々この屋敷――というか、土地を管理している一族の人。私は特別に許可を貰って暮らしているんだ」


「そうだったんですか……」


 アパートみたいに部屋を借りて暮らしてるってことかな?

 外側は酷いけど、部屋の中は想像の中のお金持ちの部屋みたいだし。このお姉さんも良いところのお嬢様なのかも。


「じゃあ、お世話になったんでこの辺で」


「外、土砂降りだけど大丈夫? しかも今は夕方過ぎだよ?」


「あ」


 そう言われれば、さっきから「ザーッ!!」という音がずっと聞こえてる。

 何故か・・・部屋に窓が無いから外の様子は分からないけど、壁に掛かった時計の時刻は18時を過ぎていた。


「大丈夫だと思うけど頭も打っているし、もう今日はここに泊まっていった方が良いよ。この時間にキミを1人で帰らせるのも、ね?」


「いいんですか?」


 ボクにとってはありがたいけど……


「いいのいいの。気にしないで♪ ほら、スープでも飲んで寝ちゃったら? 子供は早く寝るものだぞ♪」


「ありがとうございます」


 お姉さんが持ってきたコップには確かにスープが入っていた。

 コンソメ味のソレは非常に美味しく、飲み終わったあとは緊張が解けたのかすぐに眠りについてしまのだった。




――この時の判断を、1ヶ月近く後悔するとも知らず。







「はぁん♡ 小さなカワイイ男の子なんて何百年ぶり・・・・・だろう? 昔と顔つきも違うし、もっとお世話したいなー♡」





――寝ている最中に寒気がした気がした。






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