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8月26日 マッサージ(意味深)


「うーん……? 何か条件でもあるのかな?」


 さて、今日も今日とて理不尽な脱出ミッションを行い、数々の罠を潜り抜けて無事戻って来れたわけだけど……

 今日の探索で注意していた存在が出なかったのだ。


「大まかな距離は変わらないのに、何で現れなかったんだろ」


 ――タイラントチュラ。

 ナーねえが用意したマジ化け物。

 昨日の探索でトラウマになりかけた2メートル近い巨体の蜘蛛。

 それが今日の探索では出現しなかったのだ。

 すごいビクビクしながら進んでいったのに。


 ボクはあの空間を攻略するに当たって可能な限り均等に探索している。

 部屋を出てすぐの場所をスタート位置にして、上下左右・正面に延々と空間が広がっているから、その日の探索方向を先に決めておかないと中途半端な結果になる。行った場所から戻るのにも時間が掛かるから。


 今日は右方向とちょっとだけ空白地帯になっていた下方向を探索した。

 地図を見る限り、昨日行った上方向と距離は同じ――いや、その先にまで進んだはずだ。なのに、タイラントチュラは現れず。


 それどころか、、


「罠の数、いつもより少なかった気がs――『そーく~ん♡』わっ!」


 背中に覚えがありすぎる衝撃が。

 思考を中断して振り返れば、予想通り満面のエゴなのナーねえが。


「何だよ一体……」


「お風呂の時間だぞ♪ いつまで待ってもそーくん来ないんだから~」


「ああ、もうそんな時間か」


 明確にこの時間と決まっているわけではないけど、夕飯を食べて一息ついた辺りでナーねえが脱衣所に向かうから、その数分後にボクも脱衣所へ行く――という形が出来上がっていた。

 今回は考えに没頭しすぎて10分以上経っていたらしい。


「じゃあ早く来てねー♪」


 ナーねえはラン♪ラン♪とスキップしながら脱衣所に向かう。

 ……下着姿のまま。


「ふっ。ボクも動揺しなくなってきたものだなぁ」


 もうね?

 毎日、裸で一緒にお風呂に入れば悟りの境地にも入るってものだよ。

 あの2つの凶器()で押しつけられるのにはいつまで経っても慣れないけど、見るだけならアタフタすることは無くなった。


 最近は油断すると羞恥心以外の感情が見え隠れしだしているけど、それも問題ない。ボクはこの年で心を“無”にする術を獲得しだしている。お風呂場の天井にシミは1つも無いけれど、あると仮定して遠い目でソレを見ていると時間が経つのが早いんだ。2つの凶器()が目の前に来ようが無反応をギリギリ貫けるし、背中に押しつけられても無の境地に入っていれば最低限の冷静さでいられる。


 いわば、お風呂の時間だけ気分は仏教の門を叩いた修行僧。

 修行中は常に異教からの誘惑があるので耐えてくださいね、ってね。


 ……いや、ちょっと格好良く言ってみたけど、ぶっちゃけそういう風に思っていないと疲れるんだよ。色々と。あとは寝るだけだっていうのに、体力の疲れをお風呂で流しても、精神の疲れを持ってくるとかこれ如何に?って話で。


「そーくーーーーん!」


 ナーねえが呼んでる。

 いい加減行くか。


 スイッチを切り替えて脱衣所へ向かう。

 ……もうそろそろ、普通にお風呂に入れないもんかな~(切実)。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お客さん、こってますね~♡」


「分かるの?」


「何となくですが~♡」


「絶対に適当だってことは分かったよ」


「そ・れ・で・は~……もう少し腰の下を~♡」


「……ナーねえ。何度も言うけど、そこは腰じゃなくてお尻だから。境界線が分からないじゃないよ。お尻触りだした途端に手がワキワキ動き出しているんだからって擦るな! 揉むな!」


 高木蒼太、小学6年生。

 絶賛ナーねえにお風呂上がり後のマッサージ――という体でセクハラされています。しくしく。


 実はお風呂上がり後のマッサージって何だかんだで3度目。

 マッサージそのものは上手い。絶妙な力加減で押してくれるから体がほぐれるのは本当なんだ。……ただ、セクハラが酷いだけで。

 今日もボクのお尻は犠牲になったのだ。


 うつ伏せで寝ているからナーねえの顔は見えないけど、相当だらしない表情をしているのだけは分かる。

 時々、「合法、合法だから……!」と小さな声が聞こえてくるからね。主にボクのお尻を揉みしだいている時。


 どうして抵抗しないのか?

 1回目と2回目のマッサージの際に学んだんだ。

 どれだけ言っても意味ないって。

 お風呂場の時と似た感じだよ。言葉の抵抗こそするけど、実際に行動で抵抗しようとしても余計ナーねえを興奮させるだけだって。


 何があったって?

 察して(涙)。


 ちなみに、頭を悩ませる事態はもう1つ。


「ね~え~、そーくん。次は仰向けに寝そべってよ~」


「腰や肩を指圧するだけならうつ伏せで十分だって何度も――」


「でもでも! 仰向けじゃないと指圧しにくい所もあるかもだし!」


「無いよ」


 最後の方でなぜか仰向けにさせたがるんだ。

 嫌な予感しかしない。


「そもそも、仰向けになったとしてどこ押す気なの?」


「………………お腹?」


「必死になって絞り出したけど無理があった感が半端ないね」


「じゃあ肩!」


「絶対に嫌だ」


 位置的にナーねえの欲望丸出しの顔を拝むことになるじゃないか。


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