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8月24日 第壱話 担任、襲来

 難産でした。

 今回長めです。


 その日は午前からやけに騒がしかった。



「1番から10番までは通常通り各所で待機! 11番から30番までは各自多少の危険を冒してでも全ての会話を拾うように! “外側”コードAからコードGまで、幻覚準備と精神・物理両方への干渉における準備の再確認を! “内側”コードHからコードUまで、生活感に違和感がないかを再確認して……あぁそうだった! ついでにお茶菓子に不備がないかすぐ見て! おせんべいとかある!? お茶の貯蔵は十分!? コードV、W、X、Y? アナタたちが要よ? 失敗は許されないわ。……コードZ、万が一の時は……頼むわよ……!」



 ナーねえが忙しない。


 番号とかコードとか、スパイ映画かってセリフで指示を出しているかと思えば、おせんべいやらお茶やら日常で使われる単語もチラホラ聞こえてくる。


 周りには僕の蜘蛛たちがこれまた忙しそうに動き回っている。

 何をしているんだろう?


 無線を使ってるでもないのに、ここにはいない僕に指示を出しているみたいで、時々頷いたりもしている。

 テレパシーとかそんなのかな?

 仮にも神様相手に能力を真面目に考察するとか無駄なんだろうけど。


 いや、だけど本当に気になるな。

 特にナーねえが鬼気迫る表情なのが特に。


「ナーねえ――」


「ちょっと待ってねそーくん今忙しいから!」


 あ、ダメだこれ。

 あの・・ナーねえがボクの呼びかけを後回しにするとか、夏場に大雪が降るほどの異常事態だ。

 現に僕の蜘蛛たちが一瞬動きを止めて一斉にナーねえの方を見てたからなぁ。

 蜘蛛の表情とか分からないはずなのに「え? マジっすかご主人様!?」って驚いているのが分かるもん。


 アレ? 多少の仕草で蜘蛛の感情を読み取れてるボクも相当ヤバいのでは?


 ……

 この件は保留にしよう。それがいい。

 始めは手の平サイズの蜘蛛にビビっていたはずなのに、いつの間にか慣れているとかボクの中の常識が崩壊していってる。


 ちょうど良いから午前中で脱出計画について見直しとこ。

 何度目かだけど――バカみたいに広いんだよあの空間!

 本来あるべき屋敷の内装なんて全体の100分の1も無いぞ絶対!!

 小学生に㎞単位で冒険させるな!

 足腰が鍛えられたよ全くもうもう!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




【side.アトラク=ナクア】



「じゃあ行ってくるからー」


 いつものように、私の作った迷路を攻略するため出掛けるそーくんを見送る。

 ……まだ大丈夫よね?

 まだ、迷路の秘密・・・・・に気付いてないよね?


 さすがに全体を隅から隅まで探索されたらバレちゃうけど、残り6日で調べ尽くすのは難しいはず。

 このまま秘密に気付かず何事も無ければ――

 無ければ……


 ……ダメね。しっかりしなきゃ。

 頬を叩いて気合いを入れ直す。

 今はこの緊急事態に対処しないと。


「まさか、このタイミングで学校の先生がやってくるなんて……」


 完全に油断してたわ。気を抜きすぎた。


 そーくんのクラスの担任がやって来る。

 その情報を聞いたのは昨日の夜だった。


 そーくんの家周辺にある他の各家に1匹ずつ潜ませて、そこで交わされる会話を盗み聞くことを目的とした11~30番と名付けた僕。

 その中の1匹からもたらされたのは「明日の午後に“担任”って人が例の家に訪問かもー」というもの。

 実際、連絡を受けた直後に担任を名乗る人物がそーくん宅への訪問をお願いしてきた。そーくん本体の幻影&動作&会話を担当しているコードV、W、X、Yの4匹は最初断ろうとしたのを急いで割り込み、訪問の許可を取るよう指示を出した。


 初期のそーくんLove♡魂が暴走してた頃ならともかく、私との決着がまだ付いていない“今”、本物のそーくんが不在な件がバレるのはマズい。残り数日でdタバタするのは勘弁だった。


「やってみせるわよ。精神的な誘導も行って、10分以内でケリを付ける。これしかないわ。頼んだわよアナタたち……!」


 “パス”によって繋がった僕たちからの「アイアイサー!!」の返事を聞きつつ、最後の確認を行っていった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




【side.中林響子】


 私は中林なかばやし響子きょうこ。24歳。独身。

 年齢=彼氏いない歴……ではないものの、付き合った男性2名と結局分かれる羽目になった悲しき女。


 1人目の高校時代から2年に渡って付き合った彼氏には「オレ、他に好きな人ができたんだ」と切り出され涙を流し、大学生の頃に付き合った彼は初めてを経験して勝ち組だ!と浮かれた私が悪かったのか、そのままヤリ捨てされた。呪った。その後、別の二股を掛けた女に顔を斬られたそう。ザマぁ。


 そんな私も大学卒業後に晴れて小学校勤務が決まり、今年はクラスを1つ預かることになった。まあ、元から人手不足だったのはあるのだろうが。

 自分で言うのもアレだが、クラスは上手く回せていると思う。

 その中で気になっている子が存在いる。


 高木蒼太くん。


 今年になって転校してきた子で、ご両親ががんばって借金を返済したのを機に都会から地方と言っていいここへと転校してきた男の子。

 半端な時期での転校で友人と呼べる子も少なく、可能な限り気にかけていた。


 そんな蒼太くんについて予想外のことを耳にしたのはつい先日。

 母親と一緒に出かけていたクラスの子と町で偶然会い、世間話をしている時だ。



――高木の奴、今1人で家にいるんだってさー。



 大問題だった。

 まさか蒼太くんのご両親の務めていた会社がこちらに来て数日で不祥事を起こしていただなんて。

 新しい働き先候補に住み込みで働いているなんて!


 その子の家は蒼太くんの家から近く、件のご両親から1ヶ月だけ何かあれば力になってくれないか?と相談されていたらしい。

 幸いにも蒼太くんはしっかり生活できているらしく、数日ごとに確認しても洗濯物は干され、庭の手入れもされており、この前はベランダの方から会釈されたのだとか。


 無事に暮らせているのは安心だが、さすがに担任として1度本当に大丈夫なのか? 困ったことは無いのか? などといったことを確かめなければならない。夏休み終了まであと1週間となってから行くのもどうかと思ったが、逆にここを逃すとタイミングを無くしてしまう。


 そうと分かれば善は急げ。

 蒼太くんが確実にいるだろう夕食を食べ終えたぐらいの時間を見計らってお宅訪問の約束を取り付けた。


『エ? ソンナ急ニ言ワレテモ困r――少シダケナラ構イマセンヨ』


 なぜか電話越しの蒼太くんに違和感を感じたが、指定された時間に来れるよう準備をしてついに蒼太くん宅へとやって来た。


「見た目は普通だな」


 蒼太くんの家は至って普通だった。

 標準よりやや小さいかというぐらいで、作られたばかりの家のようだった。ローンで組んだのだろうか?


「さて、行くか――と言いたいが、何だ? 少し頭が重たいような……? 熱中症ではないはずなんだが……」


 チャイムを押すために敷地内に入った途端に不調となる。

 考えてみれば担任としてクラスの子の家に来るのはこれが始めてだったな。

 もしかしたら自分で思っているよりも緊張しているのかも知れない。蒼太くんとの話でもこの話題を振ってみるか。


 頭の妙な重さを気のせいだと判断し、チャイムを押す。

 ピンポーンと、聞き慣れた音が響いてから数秒。


「イラッシャイ先生」


 夏休み前、教室で別れた時から変わらない姿の蒼太くんが出迎えてくれた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「何この人!? 認識改変や意識誘導の効きが悪い! あぁあぁああっ……ちょっとのミスが響きそうだよ~。アナタたち! しっかりよ!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 玄関で出迎えてくれた蒼太くんに案内されたリビングで、出された煎餅とお茶に関心しながら先程から気になったことを聞いてみる。


「蒼太くん、髪型でも変えたか?」


『ソ、ソンナコトナイヨ? ドウシテ?』


「いや、気のせいのはずだが、以前と雰囲気が違うように思えてな」


『髪ガ伸ビタカラ、ソレジャナイカナ!?』


「そう、か」


 どうして私は目の前の蒼太くんに違和感を覚えるんだ?

 どこからどう見ても・・・・・・・・・、私が1学期分を担当のクラスの者として勉学を教えていた生徒だというのに?

 記憶力には自信があるから、他の生徒の顔と間違えているわけでもない。


『ソ、ソレデ! ボクノ様子ヲ聞キニ来タンデスヨネ!』


「ん? そうだ。夏休みも残り1週間となった時に――と思うかも知れないが、担任として蒼太くんの現状確認は必須だと思ってね」


『アリガトウゴザイマス』


「それで、半月余りを1人で暮らしているそうだが、困っていることなどは何かないか? ちょっとしたことでも構わないぞ?」


『ハイ。最初ハ大変デシタケド、今ハ慣レテ――』


 それから、ご両親と離れてから今日に至るまでのことを蒼太くんは話してくれた。特におかしいところは見受けられなかった。

 なのに、

 何で、違和感は強くなっていくんだ?


 話に整合性は取れている。矛盾も無いはず。


「………………」


『ア、アノ……』


 だが、私の直感は“何かがおかしい”と囁く。

 まるでタチの悪いトリックアートでも見せられている気分だ。


 何やら背筋に冷たいものが落ちるかのような錯覚を抱きながら、これ以上踏み込むのは危険だと心のどこかで警報が鳴っているのを自覚しながら、それでも、私は口を動かす。


キミ・・は――」


『ソウイエバ!!』


 ビクッ!と方を揺らす。

 いきなりの大声に驚いた。


『今度、先生ニ相談シヨウト思ッタコトガアッタンデス!』


「何を……?」


 圧を感じるほど真剣な目で見てきたうえに、テーブル越しに体までこちらに乗り出してくる。一体何なんだ。


『――恋愛相談ヲ!』


「ぶっ!?」


 恋愛相談んんんんんんんんん~~~!?


 こ、この子、この年で何を言い出すんだ!?

 蒼太くんキミ、今年で12歳かそこらだろ! 中学にも上がってないのに恋愛相談って、最近の子供は進んでいると聞いていたけど、ここまでか!


『恋愛経験ガ豊富ソウナ先生に是非!』


「いや私は……!」


『先生程ノ人物ナラ、今マデニ5人は恋人ハイマスヨネ!』


「いや、付き合ったのは2人で……(ゴニョゴニョ」」


『先生グライノ年齢ナラ当タリ前ダッテ、テレビデ言ッテイマシタヨ!!』


「………………ま、まぁ確かに5、6人は付き合ってたな~」


 見栄を張った。

 思いっきりウソを付いた。


 いや、違うんだ。

 蒼太くんが余りにも予想外のことを言い出すから頭の中がこんがらがって、気がついたら口から出任せを言っていたというか……


 その、何だ。

 最近のませてる子供だろうと私の恋愛経験(0勝2敗)を持ってすれば、最高の結果に導くことも可能なはずだ(1人目:NTR、2人目:ヤリ捨て)!


「それで? 蒼太くんは何を悩んでいるのかな?」


『ウワ、チョロイ……』


「ん?」


『ナンデモアリマセン。相談デスガ……マズ、片思イノ相手ガイマス』


「ほう! すでに思い人が!」


 こっちに来て半年ぐらいでもう気になる異性がね~。

 いや、都会に残してきたパターンもあり得るのか?


『実ハ、一目惚レデ』


「ほうほう……!」


 ませてる。ませているぞこの少年!


『結構年上デ……』


「何と」


 結構……ということは下手したら10歳以上年上か?

 言いたくないが脈はなさそうだな。


『優シクテ、頼リニナルオ姉サンデ……』


「ふんふん」


 まさしく私のようなタイプだな。


『ストレートノ黒髪ガ綺麗デ……』


「うんうん」


 ほとんど無意識に毛先を弄る。

 私も手入れを怠っていない長い黒髪の持ち主だ。


『チャント仕事モシテテ』


「うん」


『イツデモボクノコトヲ見守ッテイテ』


「う、ん……?」


『不器用ナリニボクノコトヲ考エテクレテ……』


「ちょっと待った」


今モ・・ハラハラシナガラ真摯ニ耳ヲカタムケテ……』


「待て待て待て待て待て!!? ちょっと待ってくれ! 蒼太くんちょっと待って!! まさかだと思うがキミは……!?」


 私!?

 まさかの私!?

 本当に待て。感情が追いつかん!


 あああああああ、何で顔を近づける目を潤ませるな頬を染めるなキリッとした眉をするな良く見たらカワイイ顔だなダメだダメだダメだダメだ……!!


『先生、ボクハ……!』


「私は教師なんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」


 マナーも減ったくりもなく、蒼太くんの家から飛び出す。


「こんな展開予想できるかああああああああああああああああ!!」


 私は走った。息が切れるその時まで走り続けた。

 蒼太くんに対する違和感など彼方へ吹き飛んでしまい、残ったのは小学生に一目惚れされて告白され掛けたのではないかという、どう心の整理を付けて良いのか分からない案件だけだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ただいまー」


 あ~あ、今日もめぼしい収穫無しだ。

 ちょっと脱出のアプローチを変えるべきなのかな――って、


「ナーねえ? どしたの?」


 ナーねえが机に突っぷしっていた。

 まるで燃え尽きたかのようだ。


「あ~~~おかえりそーくん……」


「本当にどうしたのさ?」


「火事を消すために辺り一面を爆風で消し飛ばしたというか……」


「?」


「咄嗟に思いついた相談、アレ、私がモデルなのに奇跡的に噛み合った結果、食い違いが起こるとか……」


「え? なんて?」


「ゴメンそーくん。アナタの将来に時限爆弾を残しちゃったかも?」


「どゆこと!?」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「大将~ビールおかわり~!」


「もう止めときなって。アンタそれでも学校の先生でしょう?」


「飲まなきゃやってられないってんのよ~~~!!」




 ノリで書いてたら、何かおもしろい先生キャラが爆誕。

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