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8月20日 ゲームで良く見る何かありそうな部屋

 男はそこに”ロマン”を求める。


「いい? 絶対に無理しないでよそーくん?」


「今日だけはそのつもりだけど、無理無謀しなきゃここから脱出できないんだよ。……なんなら難易度下げてくれてもいいんだけど」


「うぅ、ダメダメ! 私分かるもん! するつもりはないけど、あの空間の罠とか全部取っ払らおうと思ったら、無意識に罠とか増やしているに決まってるわ! 愛故に!!」


「うわっ、本当に想像できた」


 完全回復――とはいかないけど、何とか風邪からの復活を果たしたボク。


 正直ダルさは残っているし節々に痛みも感じているけど、今日も休む……というわけにはいかない。

 気付けばすでに8月20日。

 監禁されてから3週間近くが経ち、タイムリミットである30日までの期間が3分の2も過ぎてしまった。


 “まだ10日もある”ではなく“もう10日しかない”だ。

 探索し始めたことで明らかになった異常な広さの階段空間。あそこまで広いとどっちに向かっていいのかすら分からない。

 正直、帰れたとしてもギリギリになるんだろうなぁ……って。


「それじゃあ行ってくるね」


「やっぱり心配! 行かないでそーくんんんんんんんんっっっ!!」


「いや必要だから行くんだよ。そろそろ急がないと、お父さんとお母さんが帰ってきちゃうんだって」


「でも後遺症が!?」


「無理はしないから。ただの風邪を重病みたいに扱わないで」


「うううぅ、子供は生き急いじゃダメなんだよ?」


「生き急ぐ原因を作ったナーねえにだけは言われたくない」


 今すごい真顔になっていそうだな。

 アンタがボクを監禁したのが全ての始まりだろうに。


 ニャルさん曰くゲームらしいけど、それに本気で挑まなきゃならない身になってほしい。何度目の愚痴かは忘れた。それでも言わせて欲しい。――小学生がすることじゃないよ。


「だって……そーくんが可愛かったんだもの……!」


「ありがた迷惑」


「そーくんを心配する気持ちは本物なの!」


「心配しているなら1度家に帰らせてよ」


「それはそれ、これはこれ、というかー? テヘッ♪」


 …………時間の無駄だなこれ。


「行ってきます」


「あああああああああぁっ!!」


 手を伸ばすナーねえを振り切り、いざ探索へ。


 というか、茶番だったな今の。

 ナーねえも最後の方は演技じみてたし、口元の角度が僅かに上がっていたし。

 ま、そんな細かい部分に気付けるようになったボクも大概だけど。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇





――カチッ!



 足下から鳴るスイッチを押したような音。

 そして横から放たれる鳥もち爆弾。


「よっと」


 事前に来ることが分かっていたそれを余裕をもって躱す。

 頭を下げたあと、頭上で風切り音が聞こえる。大賞を外した鳥もち爆弾は何もない横方向の階段にベチャ!という音を立てぶつかった。


 ……さすがに同じ場所で3度目となれば避けるのも上手くなるな。


「それまでの2回は酷かったけど」


 ナーねえの糸ほどじゃないにしろ、すごくくっつくんだ。

 何とか取り外しても服や体がベタつくから一気にテンションが下がるし。


 1回目は初見だからまともに喰らった。

 2回目は避けるタイミングが合わなかった。


 罠のある位置と内容は自作の地図(紙同士を貼り合わせたり、注釈が多かったりでもうメチャクチャ)に毎回書き込んで覚えるようにしているから、わざと罠を発動させたうえで避けるか、そもそも発動させないよう回避するかのどちらかだ。


 大抵の場合は罠を無視するように立ち振る舞うけど、中には今回のようにルートの都合上発動させなきゃ通れないものもある。

 無駄に多い罠にウンザリする。


 ボクが眠っていたたった1日でこれだけ用意できるのか疑問だったけど、本人曰く「毎日深夜に出向いて増やし続けている」そうだ。


 ……ちょっと本気で寝ている間ずっとナーねえにくっついて、身動き取れないようにする作戦を実行に移すべきか考えるべきかも?


 ――と、目的の場所に到着。


「……うん。前回から変わりなし。つまり怪しい」


 目の前にあるのは“いかにも”な雰囲気の扉だった。


 場所は最初の階段空間をスタート地点とした際の左上側。

 この扉、一昨日の時点で発見したんだけど、中に何かありそうだからこそ慎重になったことと、立体地図の作成で精神がすり減っていたことなどもあって後回しにしていた場所だ。


 扉の中央には“いかにも”なギミックがあるし、もしかしたら脱出に必要なアイテムとかを敢えて置いてあるのかもしれない。

 何としても確認しなければ。


「で、このギミックだけど……すごい見覚えがあるな」


 正式名称は……なんだったけ?

 正方形の窪みの中にさらに小さな正方形の絵のついた板があって、それを、こう、シャカシャカ動かして絵柄が揃うようにする幼児向けの玩具。

 それを古代のパズル風に設置してある。


 いやナーねえ、どうやってこんなもの用意したんだ?

 日曜大工の意気を超えているんだけど?


「何にせよやるしかないか」


 照明(?)のおかげで、薄暗いけど何とか絵柄は分かる。

 たぶん何かの動物になるんだろう。

 5×5のマスだから幼児向けのそれより難易度は高いけど、不可能なほどじゃない。少しずつ繋がる絵柄に当たりを付けて組み上げる。


それからしばらく、



――ガチャ!



 絵柄が揃ったことで扉のロックが解除される音が聞こえた。

 これで中に入ることができる……と思いたい。


「これで当っている。当っている……はず、なんだけど」


 出来上がったのは四足の陸上生物――だと思いたい。


 いや、完成させといてアレなんだけど、すごく自信がない。

 何せ完成した生物が、その、不気味なんだ。

 まるで抽象画を得意とする人が狂気に取り憑かれて描いた作品だって言われても信じてしまいそうなくらい見ているだけで不安になる。


 ……これ以上この絵のことは考えない方がいいな。


 思考を切り替えて扉の中へと足を踏み入れる。


「おおぉ!」


 入った先は“いかにも”な部屋だ。


 そこまで広くない家のリビング程度の広さだけど、壁に暗号のようなものが描かれているし、何かを嵌め込む台座らしき物もある。

 男心をくすぐる作りだった。


「――はっ! そうだ。全部メモしなきゃ」


 一先ず描かれているものや台座の大きさなどを紙に写す。

 解くのは時間が掛かるだろうし、ナーねえんぼ所へ戻ってからでいいだろう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「うーん………………」


 夕食後。

 スキヤキを食べてお腹いっぱいになったところで例の“いかにも”な部屋に描かれていた暗号っぽいものを見ているけど、何を表わしているのか、どう解くのかこれぽっちも分からない。


 これ、謎々とかクイズ番組で出る暗号じゃなくてガチのものらしいしな~。

 もっとその手の本や番組も見るんだった。


「そーくん? 何を悩んでいるの?」


 頭を悩ませていたら悩みの種本人が来た。


「ナーねえが作った暗号っぽいのを必死に解いているんだよ」


「? 暗号? 何が?」


「いやだから、この紙に写したやつ」


「だから、それのどこが暗号なの?」


 ? ? ?


 あれ? 何か話が噛み合わないな。


「これ、ナーねえが作った何かの暗号でしょ?」


「やだー! 私がそーくんにそんな難しそうなモノ出すわけないでしょ♪」


「へ? じゃあ、あの“いかにも”な部屋は?」


 ボクは今日入ったあの部屋のことを話す。


 するとナーねえは「ああ!」と手をポンッと叩いた。


「せっかくだしと思って作ったあの部屋か~。そういえば適当に・・・それっぽい感じで部屋に絵を描いたり台座を設置したんだっけ♪」


「は?」


 え? いや、まさか……


「ナーねえ。あの部屋って……何か意味あるの?」


「な~~~んいも無いよ! ただそれっぽい雰囲気の部屋を作っただけ! 男の子ってああいうのに“ロマン”を感じるんでしょ? どうどう? “いかにも”な場所で楽しめた?」


「………………」



――ゴンッ!!



 無言で机に突っ伏した。


 作られたロマンほど空しいものはないっていうか。

 大真面目に脱出の糸口になる暗号かもと信じて、頭をひねっていたボクがバカみたいじゃないか。



 ポケモンのゲームで”いかにも”何かがありそうな場所だと探したけど何も見つからず、イベントも起きず、公式サイトや攻略本、果ては廃人プレイヤーの情報でも何も出なかったことに「何であんな場所出したんだよ! 何かあるって思うじゃん!」と叫んだ思い出。

 初代リメイクに出てくる「島」とかそういうの多いんだよ……


 今回出てきたシャカシャカするやつって、「スライドパズル」って言うんですね。

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