8月15日 脱出アイテム~!(CV:大山〇ぶ代)
ようやく半分!
連載した当初の「2、3日おきに1話投稿すればすぐ終わるさ!」と思ってた自分を殴りたい。
『――ということで始まりました、邪神ニャルラトホテプによるそーくん脱出アイテム販売テレフォンショッピング~! イエーーーッイ!! はい拍手! パチパチパチパチ!!』
「初っ端からテンション高いなー」
昨日、考えに考えた結果“難しいことは家に帰ってから考える”というニャルさんの意見を採用したボクは、予定通りニャルさんに協力を頼んだ。
まぁ、昨日の時点で盗み聞きしてたのは予想通りだった。
どんな手段にしろこの神様ならボクとナーねえの会話を聞いて、事前に今日話すこととか準備とかしていそうだし。
実際そのとおり。
例の部屋に来たら、黒電話の横に大きなポストが設置してあったもん。
外で見かけるようなのじゃなく、訳の分かんないアンテナが付いて下側が開く仕様になった、手作り感丸出しのポストが。
この時点でツッコミどころ満載だよ。
どうやってこの部屋に設置したの?とか。
これって1日ちょっとで作ったの?とか。
まさか何かがポストから出てくるの?とか。
ツッコんだところで無駄だって分かるからしないけど、すごく精神的に疲れるのは間違いないから事前に説明が欲しかった。
『それではお客様のために改めてご説明しましょう~!』
「あー、よろしく?」
電話の向こうでニャルさんがマイク片手にアゲアゲ状態になっている姿が想像できる。もしかしたら胡散臭いサングラスとかも掛けてるかも?
ちなみに、受話器は取ってあるけど耳に当てていない。
スピーカーモードにしたから適当に置いておけば良いとのことなので、受話器は机に置き、ボクは近くの床で胡座をかいている。
――見た目黒電話なのに何で“スピーカーモード”があるのかってツッコミはしない。したくてムズムズするけど絶対しない。
『……ちょっとはツッコんでも良いんだよ?』
「やっぱりツッコミ待ちだったのか」
人生(神生?)全力で楽しんでるな。
『それでは早速1つ目のご紹介~!』
電話の向こうからドラムロールの音が聞こえてくる。
……誰が鳴らしているんだろう?
『テレレッテッテレ~! 異次元ポーチ~!(裏声)』
瞬間、ポストからガコン!という音がする。
見れば、バッグの紐みたいのがはみ出していた。
商品紹介と同時にポストへ次元を超えて届けられる仕組みなのか、とか。テレフォンショッピングって言った割にボクに選ぶ権利無いんだね、とか。言いたいことは色々あるけど、こればかりはツッコまざるを得ない。
「何その変な声?」
ニャルさんの声が聞いたことない変な声になってた。
『やだなー。特別な道具を紹介する時はこの声って決まってるんだよ。ほらー、有名な国民的アニメの青いネコ型ロボットの声。そっくりだったでしょ? 私が本気になればドラ〇もんの声だろうが、フリーザ様の声だろうが完コピできるのさ!!』
「え? あの有名アニメのロボットの声とは全然違ってたけど……?」
『なん……だと……!』
「そんなバカな」とばかりの驚愕の声が聞こえたと思ったら、電話の向こう側でガタゴトと忙しない音が響く。
『――っ!? 声優総入れ替え……!? しかも数年前に!』
よっぽど衝撃だったのか『これが時代の流れ……止められぬ世界の法則か……』なんて声が聞こえてくる。
声優さんが変わったぐらいでそんな大げさな。
「どうでもいいから道具の説明してよ」
『私にとっては天地がひっくり返る程の衝撃なんだけど』
声優が変わった程度で天地がひっくり返るなら、世界はとっくに滅んでいると思うんだけどなー。
『はぁ、分かったよ。説明に戻りまーっす。――とりあえずポストから引っ張り出して。出した? それ、見た目はごく普通のポーチなんだけど、中は某四次元ポケットと同じで何でも入れることができるんだ。入れる場所よりも大きなモノだって収納できる優れもの』
「へー」
ポストの下にある開け口からポーチを引っ張り出してマジマジと見る。
落ち着いたベージュ色のポーチで、中を除けば絵の具をいくつも混ぜたような不思議な空間が広がってた。
ニャルさんからの追加説明によれば、手を突っ込んで何を出したいか思い出せばソレを引っ張り出すことができるらしい。
「すごいね。これってどうやって作られてるの?」
『暇を持て余した時期にちょいちょいと私が作ったのさ。キミが知らないだけで魔法だか魔術だかってものは一般人が知らないだけで存在するからね』
「まさかの衝撃事実」
『それでは2つ目いってみましょー!』
そして再びドラムロール。
『テレレッテッテレ~! ペタリニャンコ~!(裏声)』
「結局その声は止めないんだ」
『神様にだって譲れないことがあるのだよ』
「じゃあ次からは省略で」
『酷い!?』
抗議の声を無視してポストから届いたモノを取り出す。
「……ネコの手? それも4つ」
『手足に付ける道具だ。ソレがあれば壁でも天井でも移動できるよ。ナクアの屋敷攻略に欠かせない1番大事な品ってこと』
「おおっ!!」
これだよこれ!
あの建築法ガン無視の階段群相手でもこれなら戦える!
『で、ソレとセットで使ってもらいたいのがコレ』
ポストから今度はカラランッ、と軽い音が響く。
取り出してみれば金属でできた小さな2つの指輪だった。
「何これ?」
『姿勢制御系と平衡感覚系を制御するための指輪だよ。ペタリニャンコで壁や天井を移動できるからって、重力に逆らえる訳でも自分がどういう状態か正確に分かる訳でもないから』
「あー」
すっかり忘れてた。
そうだ。ボクはアスリートじゃない。
どこにでもいる普通の小学生のスペックしか発揮できないんだ。
危うく筋肉痛か頭に血が上りすぎるかで死ぬところだった。
『最後は万一のための安全装置だね。ベルト型だし、普段から腰に巻いておけば良いよ』
ポストから出てきたのはズボンに巻くベルトだ。
所々に宝石みたいのが嵌め込んである。
「安全装置って、具体的には?」
『それこそ本当に色々だよ。レア度で言えば異次元ポーチよりも上だね。おめでとう! ソレがある限りキミは事故・事件に巻き込まれても無敵さ!』
「わぁー、神様からのお墨付きってのが逆に怖いな……」
もしかして、この宝石の数だけ安全装置があるってことかな?
安心度が高すぎて逆に心配になるってあるんだな。
『今渡せるのはこんなものだね。あとは自分で脱出のための一歩を踏み出してから考えると良いよ。ゲームってのはどんなに難しくても挑戦者側に勝利の可能性がなきゃフェアじゃないのに。ナクアはその辺下手だったからねー。これでようやく盤面が動く。私もドキワクしながら楽しめるZE♪』
「あはは……結局は自分が楽しみたいんですねニャルさん」
『邪神ですから♪』
「うん、でも、これでようやく前に進める」
ニャルさんから貰った道具を握りしめて、表情を引き締めた。
最近になってこの作品で本当にやりたかったことが分かってきた。
そのためにもまずは完結させねば。




