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8月14日 家に帰ってから考えよう!

 ようやく書く時間ができたよ……


「ナーねえはさ、何考えてるの?」


「うーん? 何のこと?」


 朝食の席。

 フレンチトーストってオシャレなパンを食べながら、昨日からの疑問をナーねえに聞いてみた。

 ……いや、本当に美味しいな。メープルシロップとハチマツって似てるけど違う。バニラアイス乗せるのもアリだ。


「ナーねえは結構ボクのことを自由にさせているけど、本気でずっと屋敷に閉じ込めたままにしとくつもりがあるのかなって」


「もちろん♪ そのために元々あった屋敷の構造をさらに徹夜で改造したから♪ そーくんはまだ1%しか知らないのだ!」


「確かに、まともに階段の先に進むことはできなかったけど……」


「けど?」


「それでも、やけにボクに条件が良いんだよ」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『多分だけど、あの子はキミと一種のゲーム感覚で勝負を付けようって考えになっているんじゃないかなー?』


 昨日のニャルラトホテプを名乗る存在との電話。

 そこで提案された「協力」という言葉の真意を尋ねてみた結果、まさかの答えが返ってきた。


「しょ、勝負って……どゆこと?」


『ナクアから身の上話は聞いた?』


「う、うん」


 神様だった頃からこの屋敷に来るまでにあったナーねえからの話を思い出しながら話し、ニャルさんは『うん、うん』と相槌を打った。


『ま、概ねその通りだね。私たちはそれぞれのやり方で過ごしている。私のように人の世界に興味があって積極的に関わっている存在から、関わりを一切断って何もせずにいることを良しとする存在まで。ようは興味があって行動に移しているのと、興味が無くて行動しないの2パターン。ここまでいい?』


「うん」


 へー、全員が興味津々だったわけじゃないんだ。

 ……よくよく考えたらニャルさんがリーダーで言い出しっぺだとすると、仕方なく外へ出た神様もいたんじゃ?

 周りにすごい迷惑掛けるタイプなのかなぁ。

 そうなんだろうなぁ。


『何だかディスられた気配を感じたけど、一先ず置いとこう』


 さすが神様。電話越しでも鋭い。


『そんな中でナクアは“興味はあるけど行動に移すことができない”タイプ。日本での不幸に加えて、本人もほとんどの同族が持っている「人の意識に影響を与える術」を持ち合わせていなかった。結果が今現在の状況だよ。……ま、そもそも彼女の役割は深淵で“巣”を作り続けることだったからね。料理人が医師免許を持たないように、そもそも必用がない能力だったんだ』


「ちょっと待って。今聞き捨てならないこと言わなかった???」


人の意識に影響を与える云々って……

 え? 大丈夫だよね?

 テレビで見た“知らない間にすでに地球は支配されていました”って映画と同じオチとかないよね?

 どうしよう、ナーねえを見てると否定が難しい。


『ま、そこは置いといて――』


「置いちゃダメ」


『ナクアはキミと出会ったことで溜め込んでいた鬱憤というか、ストレスというか、とにかく爆発して突拍子もないことし出したんだと私は睨んでる。いやー、私も爆発した時は火消しで忙しかったっけ♪』


「ナーねえが、ストレスぅ……?」


 またもや聞き捨てならないことが聞こえたけど無視する。


「ん~?」


 普段が普段だしな~。

 むしろストレスゼロで過ごしているとしか思えない。


『勘違いしているようだけど、今はキミがいてあらゆること全てが満たされているからストレスを感じてないだけだよ?』


「あ。そ、そうだよね」


『ナクアの様子を見るに、相当溜まってたものが一気に爆発して、その反動でキミのことやり過ぎなくらい可愛がってるんだね』


「可愛がる???」


 自覚はあるけど……

 ときどき思い出したように捕食者の目になっているのは一体?

 特にお風呂での頻度が高い。


『先に言うと、ナクアはキミが思っているよりずっと頭が良いよ』


「そうなの?」


『少なくとも爆発して一通り満足したあと冷静になるぐらいは』


「……」


思えば、ボクが初めて廊下に出た日の前からナーねえはボクの行動をある程度把握していた。それだったらもっと前から「屋敷から出たいなら試してみる?」とでも言えばいいのに。心を折るのが目的ならもっと早く言えば、もっと諦めさせるようなことを言えばいいって判断してもおかしくないのに。


 もしかして、あの辺りで冷静になった?


「だったら普通に家に帰してよ……」


 力が抜けて床に腰を下ろす。

 素直に謝って帰してくれるなら許したのに。

 ここ数日のボクの悩みは一体……


『――とはいえ、自分の欲望に忠実なのが神の特徴でもあるんだなー』


「え? それって……」


『冷静になったともキミを監禁したい欲望もあるってこと』


「どうすれば良いって言うのさ……!」


 ナーねえのことがあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

 そろそろ本格的に精神が疲弊してきた。


『だからこそ勝負なんだよ』


「と、いうと?」


『勝負の結果次第でナクアも考えを決めようとしてるのさ。夏休みが終わるまでにキミがこの屋敷を自力で出ればキミの勝ち。ここでの生活に屈するか、夏休みまでに脱出できなければ自分の勝ちって具合にね』


 ナーねえなりの妥協点ってことか?

 でも、だけど、


『……キミがナクアに少なからず情が沸いているのは分かるよ?』


「そんなこと」


『誤魔化さない、誤魔化さない。キミが悩んでいることも理解できるけど、このままズルズル引きずる方がお互い良くないと思うんだけどなー』


「お互い、良くない……」


『ようは、難しいことは一旦家に帰ってから考えれば良いんだよ。ナクアはすぐにそこからいなくなるわけじゃないんだし』


「それでいいの?」


『いいのいいの。異常な状況に身を置いてるからか難しく考えすぎなんだよ。どういう結論を出すにしろ、選択肢の中には「普通の生活とナクアとの生活両方を取る」っていうのもあるんだし』


「そんなことできるの?」


『キミ次第だけど……可能だよ。そこだけはこの私、ニャルラトホテプの名において約束しようじゃないか!』


 両方とも取るなんて考えもしなかった。

 家に帰るか、ナーねえと一緒のままか。それだけだって。


 でも、もし可能なら――


「ありがとう。答えが見つかった気がする」


『どういたしまして。考える時間とか必要になってくるだろうし、次の連絡は明後日にしておくよ。具体的な協力の仕方についてとか、ね』


「分かった」


 ようやく心が晴れた気がする。

 そうだ、まずは家に帰ってそれから考えればいいんだ。


「はっ! そういえばボクが自暴自棄になった時ナーねえが子供みたいな不機嫌さになってたけど、あれは遠回しに発破をかけたんじゃ!?」


『あ。それは普通に素で拗ねてただけだね』


「やっぱり?」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そんなことがあった翌日、確かめたいことがあったので思い切ってナーねえに聞いてみたんだ。

 ずばり、この”勝負”は意識してしているのか、もしくは無意識の内にしているのか。


「うふふ♪ どうなんだろうね~♪」


 ナーねえにはいつも通りの笑みではぐらかされた。


 全く。

 こっちの気も知らないで。


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