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8月7日 魔の部屋


 1週間。

 長いようで短い7日間。


 大人になってくると時間の経過が早くなるとは聞いているが、ボクにはまだ分からない。もう少し大きくなれば分かるのかな?


 どちらにしろ8月最初の1週間が過ぎた訳だけど、間違いなく今までで1番長い1週間だったよ。普通に疲れた。


「だけど時間は待ってくれない」


 ボクには“8月31日”という明確なタイムリミットがある。

 あと3週間ちょっとで家に帰らないといけない。

 じゃないと『〇〇県で行方不明事件発生! 両親と住民はなぜ気付かなかったのか!?』みたいなテロップでニュースに流れちゃう。デカデカと顔写真付きで。ついでに取材陣に取り囲まれる両親の映像付きで。

 その時になって、死んだ魚のような目でこの部屋のテレビで流れるそのニュースを見る羽目になるかどうかは、ボクのがんばりに掛かってる。


 ……何度も思うけど、小学生が悩むことじゃないよな普通は。


『~~~♪』


「ナーねえは……仕事中だな」


 最近ずっとナーねえの動向を気にしていたからか、皮肉にも良くなっている聴覚で仕事場にいつも通りのナーねえがいることを確認。

 そして、時計の針が2時半を指したところで行動に移す。


「ではこれより、謎の部屋捜索を開始する」


 小声で宣言し、行動。


 本当は心の中だけが良いんだろうけど、やっぱ言いたくなる。クラスの男子はロマンがどうこう言ってたけど……今になって理解した。


(まずは安全そうな図書室(仮)から)


 テレビを点けっぱなしにしたまま、そろりそろりと目的の部屋に向かう。


 今回調査するのは仕事関係の部屋と図書室(仮)の二部屋だ。

 もう1つの本能が拒否する部屋を除いた部屋を確認。有益な情報があれば良し、そうでなくても明日には第1回脱出作戦を決行する予定だから、区切りとして丁度良いっていうのもある。これ以上時間を掛けても意味ないと心のどこかにあるストッパーを外すんだ。


「実際、図書室には期待してるんだよな」


 読んでる本からナーねえの傾向が分かるかもしれないし、もしかするとこの屋敷の内部を記した資料が置いてある可能性だってある。


 では、早速突撃!


「お邪魔しま~す?」


 ゆっくり、ゆっくりと、中を覗きながら入る。



 そこにあったのは――



「うん。図書室だ」


 どう見ても本がいっぱいの図書室だった。

 何もオチが無い。いや、いいんだけども。


「学校の図書室とはまた雰囲気が違うな」


 広さは小学校の図書室の半分程度だけど、ズラッと本が隙間無く本棚に収まっているせいで余計な圧迫感も感じる。


「本棚や本に違いがあるな……」


 入り口のすぐ側にあるいくつか本棚は比較的新しいというか、現代風のデザインで、並んでいる本を見ると午前中にナーねえが読んでいた本もあった(何を読んでいるのか気になったので覗いたことがある)。それ以外も知らない本ばかりだったけど、良く見ればテレビや本屋で宣伝していた有名な本ばかりが置かれた本棚がある。

 もしかしたら、何かの種類分けをしているのかも。


「この本も『管理人さん』が買っているのかな?」


 未だに姿を見ない謎の存在。

 その名の通り、恐らくはこの屋敷を管理してナーねえのお世話をしたり料理を作っている人物。ナーねえが本当に1歩も外に出ないのなら、外へ出る手がかりになりそうだと会える機会を狙っているけど、一向に姿を見せない。

 徹底的にナーねえの生活範囲に入らないようにしている。


「そもそもの話、何で外国の神様だとかいうナーねえが日本に来たんだ? そのナーねえの世話を影からしている管理人さんは一体何者なんだ?」


 初めて会ってから1週間しか経ってないとはいえ、ボクはナーねえのことも、管理人のことも、この屋敷のことも禄に知らない。

 いや、ボクがナーねえのことめちゃくちゃ警戒しているからなんだけど。


「こっちの本は……」


 次に重厚そうな本棚に近づく。

 置いてある本も年季が入ってそうなものばかりだ。


「……」


 適当に一冊を取って中を見てみるけど――


(な、何が書いてあるのか分からないー!?)


 日本語じゃなくて英語だったとかそんなレベルじゃなかった。

 全く知識にない謎言語で書かれて読めるわけがなかった。


 いや、あの、何?

 英語でも中国語でも韓国語でもないコレ? どこの国のもの? 本当に地球上にある言語なのかも怪しいんだけど。


 まさか神様特有の文字かと思ったけど、最後の方のページに見覚えのある言語があったから地球上のもので間違いないようだった。

 日本語で「訳:ヘブライ語」って書いてあったけど……全然聞き覚えがない。「ヘブライ」なんて国あったっけ?


「というか、ナーねえはコレ読めるの?」


 勉強しても読める気がしない。

 英語は難しいけど、コレに比べたら簡単に思えてきた。


 中学生になったら買って貰える予定のスマホの言語機能にもヘブライ語ってあるのかな? もしもイタズラで、知らない間に自分のスマホの文字がヘブライ語に変更されてたら……匙を投げるかも。どうやって調べろと?


 気を取り直して、そのあとも何冊かランダムに中を確認したけど有益そうな情報の書かれた本は無かった。――というより、どこで使われているのか分からない言語の本ばかりで、見ていて変に疲労が溜まる。最後のアレ何? エジプトの壁画みたいなの?


「もう疲れたし、もう1つの部屋を調べよ」


 ひとまず、ここは普通の図書室であることが確定した。

 謎言語の本以外は特段おかしい場所も確認できなかったし。


 境目から顔を出してチラッとリビングを確認。

 ……うん、いない。天井からこんにちはな展開も無い。


 足音を立てずに1度リビングまで戻り、2つ目の部屋を目指す。

 予想だと仕事で作った服飾品を置いておく部屋だと思うんだけど……


「お邪魔しま~す」


 意を決して、再び小声で侵入。


 そこで目にしたのは、


「クローゼット……やっぱ服関係か」


 服にシワができないよう、ハンガーに掛けた状態でしまうクローゼットだった。しかも、大きい。横幅だけでボクの家にあるモノの3倍はある。

 ……どうやって中に入れたんだろ?

 材料ごとにバラしたとしても引っ掛かりそうなんだけど?


「ナーねえが作ったモノを置いておく部屋で間違いなさそうだな。あとはタオル類やカーペットの置き場所も兼ねているのか」


 クローゼットの反対側にはいくつもの籠が置かれたスペースがあり、お風呂場やトイレで使うタオル類や、テーブルの下とかにひいてある何百万するのか分からないようなカーペットが折りたたまれて詰め込まれていた。


「ナーねえが作ったのか……パジャマ以外だと何だろ?」


 ボクが知っているのは今着ている服を洗濯機&乾燥機に掛けている間、つまりはお風呂に入ってから次の日の朝まで過ごすためのパジャマぐらいだけど、素人でも理解できるほど高級な生地を使った一品だった。

 いや、本当にあれだけは反則だ。

 パジャマも、枕も、タオルケットも、肌触りが良すぎて寝心地が良いのなんのって。毎回のことだけど、家にあるものと比べてしまう。


 ということで、確認。

 クローゼットを静かに開ける。


「おー……かなり色々な種類が入っているな」


 パッと見ただけでも様々な種類の服があることが分かった。

 スーツもあれば、着ぐるみパジャマなんて珍しいのもある。他にも、お巡りさんに看護師にフリフリエプロンに――って、ちょっと待て。


「………………ジャンルに統一感なさ過ぎじゃない?」


 おかしいよね?

 最初は一点モノでも作っているのかと思ったけど、職種関係のまであるのは変だし、需要があるとは思えない。


 何よりも、


「コレ、明らかに大人の人が着るには小さすぎるよね?」


 どっちかと言えば、子供用の服だ。

 大きさから考えるとボクぐらいの子が着るt――


 ………………



――ゾワッ!!



 背筋に悪寒がする。

 そこまで暑くないのに変な汗が全身から出る。


「ボクハ ナニモ ミテナイ」


 クローゼットの扉を閉める。



 早く ここから 離れないと。



 必死に脳みそを回転させて行動しようとするけど、中々体が動いてくれない。



 そして、今日のボクは運が無かったらしい。



「そーくん……ついに、見ちゃったんだね」


「――っ!?」


 ギギギと、振り向く。

 そこには、仕事部屋にいるはずのナーねえが。


「どう、して……?」


「今日は週に1度の納品日なの。だから、作ったモノを纏めるためにいつもより早めに作業を終わらせるんだ」


 いつもと違って俯いてるナーねえが怖い。

 まるで、爆弾が起爆する前のような……



「ホントは、もう少し溜めてからお披露目する予定だったんだ」



「そーくんと会った翌日から作り溜めしてきた、そーくんのためだけの一品たち」



「でも、見つかったならしょうがないね」



「私、欲望を解放します!!」



 そう言ったナーねえの手には何故かカメラが握られていて――




「“そーくん大コスプレ大会”開始を、宣言します!!」




 自由への逃走!

 考えるより先に体が動く!


「逃がさない♡」


 案の定というべきか、前回と同じく糸に囚われるボク。


「何も怖くないよ? 大丈夫。天井のシミでも見ていればすぐに終わるから。ね? まずは無難に動物パジャマから……」


 悪魔が近づく。

 手をワキワキさせながら。

 頬を赤く染めながら。


「や、やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ナーねえからは逃げられなかった。






 ちなみに、天井のシミなんて無かった。

 どこを見ても真っ白だったよチクショウ……



※ネタとして出したヘブライ語~は作者の好きなサイトにあった『地味に嫌な嫌がらせ』というお題から。

想像してみて、腹の底から笑いました。

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