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008

「詠唱完了! いきますよ、ダッドリーさん!」


「ようやく間に合うようになったか! って、うおい、その大きさはまずい!」


「いっけぇえええええええ!」


「待て、待て待て、待てぇええええええ」


 ドーン!


 爆音が轟き、地面に大きなクレーターができる。

 魔物の群れは一匹残さず灰と化し、ダッドリーは黒焦げになった。


「てめぇ、俺を殺す気か!」


「そ、そんなこと言われても、難しいんだもん!」


「だもん、じゃねぇ! 可愛く言っても無駄だポンコツ!」


 ダッドリーに怒鳴られて「ぶー」と拗ねるクリス。


「魔法の威力を調整するのは難しいから仕方ありませんね。クリスの場合は杖を使っていないから尚更です」


 杖には魔法の威力を調整する機能がある。

 初心者向けの杖だと、魔法の威力は自動的に抑えられるのだ。


「そうだ杖だ。クリス、早く杖を買えよ。素手だと魔力をガバガバ消耗して辛いだろ」


「別に辛くはないですよ?」


「嘘つけ。あれだけの魔法をぶっ放したら魔力はカツカツに決まってる」


「そんなことないですが……」


 実際、そんなことなかった。

 クリスの魔力が文字通り桁違いだからだ。


 魔力は時間経過で回復する。

 全ての魔力を消耗したとしても、24時間も経てば全回復しているものだ。


 また、魔力の回復量は魔力量に比例している。

 クリスの魔力量は桁違いなので、回復量も桁違いだった。

 先ほどの戦闘で消費した魔力など既に回復し終えているのだ。


 よって、クリスは今までの人生で一度も感じたことがない。

 魔力の消耗による疲労感というものを。


「とりあえず今日はこの辺で終わりましょう」


 アルテが手を叩いて話をまとめる。

 クリスは「えー」と不満を露わにした。


「まだお昼ですよ? アルテさん、私、もっと戦いたいです! 早くお二人に認められるような戦力になりたいんです!」


「お気持ちは嬉しいですが、それはよろしくない考えですね」


「そ、そうなんですか!?」


「一流の魔物ハンターになりたいなら休憩も必要です」


「でも、私に合わせてもらってばかりだし……」


「そんなことありませんよ。私とダッドリーも疲れています。特にダッドリーは貴方の魔法で黒焦げになりましたからね。これ以上の連戦は厳しいでしょう」


「うげげっ、そうでした。すみましぇん、アルテさん……」


「いえいえ」


「おい、そこは俺に謝るべきだろ!」


「そんなわけですから今日は切り上げて戻りましょう」


「はい! アルテさん!」


「おい、俺は無視かよ!」


 クリスは嬉しそうに笑いながら帰路に就いた。


 ◇


「マスター、おかわり!」


「はいよ!」


「マスター、私も!」


「クリスちゃんは酔い潰れるからダメだ!」


「マスタァァァ!」


「ならあと一杯だけだからな」


「やったー!」


 酒場ではクリスとダッドリーが盛り上がっている。

 ダッドリーは浴びるようにエール酒を飲み、クリスはカルーアミルクを舐めるようにすすっていた。


「ふーむ」


 クリスの右隣でアルテが新聞を読んでいた。

 新聞に目を通して情報を収集するのが彼の日課だ。

 目の前に置かれているカクテルには手を付けていない。


(よーし、今なら……!)


 クリスがそーっとアルテのグラスに手を伸ばす。

 こっそり飲んでやろうと企んだのだ。


「ダメですよ、クリス」


 しかし、アルテにバレた。

 ギクッとしたクリスは口笛を吹きながら顔を逸らす。


「おらぁ! マスター、俺はぜってぇ負けねぇ!」


「ふっふっふ、この俺に挑むとはあまりにも浅はかァ!」


 彼女の左隣ではダッドリーがマスターと酒合戦を繰り広げていた。

 声を掛けられる雰囲気ではないので、クリスは視線をアルテに戻す。


「アルテさん、アルテさん」


「はい」


「新聞ってそんなに面白いんですか?」


「面白くありませんよ」


「ならどうして毎日読むんですか?」


「情報収集は大切ですからね」


「すごいなぁ、アルテさんは」


「別にすごくないですよ」


 クリスが新聞を覗き込む。

 びっしりと書き込まれた文字を見るだけで眩暈がした。


「今日は何か気になる記事はありましたか?」


「そうですね……」


 アルテは少し考えてから答えた。


「ドーア王国のビクトル国王が弾劾裁判にかけられるかもしれないようです」


「えっ」


 クリスはそれ以上の言葉が出なかった。

 まさかここでビクトルの名を聞くとは思っていなかったからだ。

 完全に意表を突かれた。


「あくまでこの新聞を書いた記者の意見ですが、最近のドーア王国は国王に対する不信感が強くなっているようです。先代の聖女クリスに比べて、今の聖女サリーの質が低いのが原因ですね。あの国は聖女に対する依存度が高いので、質の低い聖女になると国土を維持するのが難しいみたいです。なのにビクトル国王は国土を縮小しないとかで民の反感を買っているとのこと」


「ヘ、ヘェ、ソウナンデスカ」


 クリスの返事がぎこちない。

 彼女は自分が元聖女であることを隠していた。

 知られると厄介事に巻き込まれかねないからだ。

 だからこの話題を早く終わらせたい。

 しかし、アルテにはそのつもりがなかった。


「ドーア王国には魔物ハンターがおらず、魔物を排除するのは国に仕える兵士です。しかし、先々代の聖女テレサや先代のクリスが優秀過ぎたが故に、魔物に対する十分な戦力を用意できていなかったみたいですね。それで地方の町や村は魔物に襲われているとか」


「ソウナンダ、ヘェ、ソレハスゴイデスネェ」


「ここで面白いのがですね、そういう地方の町などではクリスの評判がすこぶる高いということです。この記事を書いた記者は複数の村で聞き込みをしたそうですが、その結果、王都などの主要都市から遠ざかるほどにビクトルを批判する声が多いと分かりました。そして、それに比例して高まっているのがクリスの支持です。元聖女を支持するって不思議だとは思いませんか?」


「タシカニ、ソウデスネェ」


 ここでアルテがハッとする。


「そういえばクリス、貴方も聖女と同じ名前でしたね」


「えっ」


「もしかして、貴方がドーア王国の元聖女クリスですか?」


 クリスは固まった。

お読みくださりありがとうございます。

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